iPS細胞から分化誘導させたNK細胞、T細胞を用いた他家移植可能ながん免疫細胞療法の開発を行っているバイオベンチャー。血液がんと神経膠芽腫を治療対象と想定している。
ホームページ:https://www.centurytx.com/
背景とテクノロジー:
・胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、生体のほとんどの細胞に分化可能という能力を持ちながら無限増殖できる細胞であり、自然科学研究や創薬研究への応用のみならず、細胞治療への応用も進められている。
・例えば、Lineage Cell Therapeutics(旧Asterias Biotherapeutics)は、ES細胞から分化誘導したオリゴデンドロサイト前駆細胞OPC1を用いた脊髄損傷治療薬の開発を行っており、現在Phase III治験中である。ただES細胞はドナー由来の細胞であり、他家移植となるため、通常の細胞移植だと免疫反応を惹起してしまう。OPC1は脊髄に局所投与されているため免疫細胞の攻撃を逃れられるが、免疫回避できる部位(眼、脳など)への投与に限定される。
・そのため患者さん一人ひとりから作製されたiPS細胞を分化誘導した自家移植治療の開発が進められている。この自家移植治療法は患者さん自身の細胞を用いるため、免疫反応を惹起しない。そのため理想的な細胞治療法と考えられるが、問題はコストと時間である。患者さん一人ひとりからiPS細胞を作るのは時間がかかるため、患者さんの病状が変化しまうなどして治療タイミングを逃してしまう可能性がある。またiPS細胞作製は遺伝子導入から細胞セレクション(クローニング)、細胞の拡大培養など、手間がかかるために非常に製造コストが高い。
・このような状況から、免疫反応を惹起しない他家移植治療が求められている。例えば、アステラス製薬子会社であるUniversal Cellsは、MHCクラスI分子を欠失させた多能性幹細胞を用いた他家移植療法の開発を行っている。
・現行のCAR-T療法などの細胞治療は患者さん自身の細胞を使う自家移植だが、上記のような理由から、今後は他家移植が主流となっていく可能性が高い。今回紹介するCentury Therapeuticsも、他家移植可能なiPS細胞を用いた細胞治療の開発を行っているバイオベンチャーである。iPS細胞から分化誘導させたNK細胞やT細胞であるiNK細胞やiT細胞を用いたがん免疫療法の開発を重点的に行っている。
・Century Therapeuticsの保有技術は以下の通り
①効率的で精密な遺伝子編集技術
CRISPR-MAD7ヌクレアーゼを使用したiPS細胞ゲノムの正確な編集技術。また、CRISPR-MAD7技術の独自のアプリケーションを開発し、正確な遺伝子座で目的の標的遺伝子を除去したり、導入遺伝子を追加したりすることでiPSCを遺伝子的に改変できる。
注;MAD7ヌクレアーゼはInscriptaが開発した、学術的にも商業的にも研究開発に使用できるロイヤリティフリーで公開しているヌクレアーゼ(MAD7ヌクレアーゼを継続的に使用する商業的製造プロセスや、MAD7ヌクレアーゼを物理的に含む製品がある場合にのみ、MAD7ヌクレアーゼの使用にロイヤリティが発生)で、PAM認識配列やカット効率の違い、オフターゲット効果の少なさ、サイズの縮小、酵素キネティクスの違いなど、一般的に使用されているCRISPR-Cas9ヌクレアーゼよりも改良された特徴を持っているとのこと。
②独自のAllo-Evasion™技術
宿主の免疫系による識別や破壊を回避できる細胞を設計している。この技術により、限られた免疫前処置、または免疫前処置を行わない患者への投与が可能になると考えられる。この技術は、患者の免疫系による拒絶反応を防ぐように設計されているため、同種の免疫反応が低下することで、CARを改変した細胞療法の反復投与が可能となり、長期間にわたって治療効果を維持できる可能性がある。
③CARとたんぱく質のエンジニアリング
シングルドメイン抗体フラグメント(VHH)抗体プラットフォームを用いて、複数のがん抗原を標的とする特異的なCARコンストラクトの作成を行っている。がん細胞上の複数の抗原を標的とすることで、がん細胞で頻繁に観察されるがんの不均一性や抗原の消失に対処できると期待される。ヒト化VHHバインダーの独自の合成ライブラリを作製し、社内でのバインダースクリーニングを行っている。
・以上のような保有技術を用いてCentury Therapeuticsでは、機能性、安全性、持続性を高めることを目的とした一連の共通のコア機能を共通の人工iPS細胞に統合したプラットフォームを確立しており、このプラットフォームにはいくつかの利点がある。
①新しい製品候補の生成が大幅に加速される
共通のiPS細胞に、異なるCARを追加するなどの機能を工学的に追加することで、複数の製品候補を生成し、異なるがんの適応症に対する新たな臨床候補を生み出すことが可能である。このアプローチでは、新しい製品候補を生成するたびに、共通の機能を再設計する必要がない。
②複数の製品候補に対する堅牢な製造プロセス
iPS細胞出発ラインは複数の製品候補で同じであるため、その製造プロセスは予測可能で堅牢。また、iPS細胞由来の同種細胞は無期限に増殖する可能性があることから、1つのマスターセルバンクで製品の寿命まで使用することができると考えられる。
③製品候補の機能性、安全性、持続性の予測可能性
複数の臨床候補品が同一のiPS細胞株から得られるため、1つの製品候補品から得られた知見を複数の製品候補品に活用することができ、臨床開発が促進される。例えば、同じ共通のiPS細胞に由来する製品の他家移植反応性は非常に似ていることが予想される。
・FUJIFILM Cellular Dynamics Inc.(FCDI)との提携により、iPS細胞に関する優れた技術、特許、ノウハウのライセンスを得て、第一世代の製品候補の創出と製造プロセスの開発を加速させている。FCDI社との提携に基づいて開発された製品候補については、米国およびその他の主要市場における独占的な商業化権を有している。
パイプライン:
・CNTY-101
他家移植用のiPS細胞由来CAR-iNK細胞製品で、CD19 CAR、可溶性IL-15、EGFRセーフティースイッチを発現するように設計されており、Allo-Evasion™技術を組み込むために必要な遺伝子編集も施されている。
開発中の適応症
・前臨床研究段階(2022年半ばのIND申請予定)
B細胞リンパ腫
・CNTY-103
再発膠芽腫を対象とした、CD133 + EGFRをターゲットとしたCAR-iNK細胞製品。局所投与。
開発中の適応症
・前臨床研究段階(2023年前半のIND申請予定)
神経膠芽腫(glioblastoma)
・CNTY-102
再発・難治性のB細胞リンパ腫およびその他のB細胞性悪性腫瘍を対象とした、CD19 + CD79b二重特異性製品(iNK細胞とiT細胞のどちらがよいかを検討中)
開発中の適応症
・前臨床研究段階(2023年後半のIND申請予定)
B細胞リンパ腫
・CNTY-104
急性骨髄性白血病(AML)を対象とした多重特異性製品(iNK細胞とiT細胞のどちらがよいかを検討中)
開発中の適応症
・非臨床研究段階(2024年半ばのIND申請予定)
急性骨髄性白血病
最近のニュース:
バイエルがCentury Therapeuticsに2億1500万ドルを出資
コメント:
・ホームページ上では詳細は示されていないが、Allo-Evasion™技術でどれだけ免疫拒絶のない他家移植細胞製品が作れるかが最初のキーになるだろう。現在承認されているCAR-T療法は、自家移植CAR-T療法だけであり、細胞加工中に患者の容態が変わってしまい治療できなくなったり、患者さんごとに異なるT細胞を使うため、うまくCAR-T細胞が製造できないことがあるといった課題がある。他家移植CAR-T細胞はこれらの課題を解決できる可能性がある。
・iPS細胞は無限増殖というメリットはあるが反面、維持に非常にコストと手間がかかる。他家移植でありながらコストが自家移植なみかそれ以上になってしまったりすることはないのだろうか?
キーワード:
・細胞治療
・iPS細胞由来NK細胞、T細胞
・他家移植
・血液がん
・固形がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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