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Caraway Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第167回)


ライソゾーム新生やオートファジーを促進することで異常蓄積物の細胞内クリアランスを導く低分子化合物を用いた神経変性疾患治療薬の開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://carawaytx.com/


背景とテクノロジー:

・長年の研究成果から、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では、アミロイドβやαシヌクレインなどのたんぱく質の折りたたみ異常や凝集体形成、異常蓄積によって脳内炎症が起こっていることが示されてきている。そして、これらの折りたたみ異常タンパク質や凝集体形成、異常蓄積を阻害したり分解を促進する治療薬コンセプトが注目されている。


ライソゾームは細胞内たんぱく質を分解する細胞内小器官で、その機能異常により、たんぱく質の細胞内異常蓄積が起こり、細胞機能の低下、細胞死に至ると考えられている。ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られているが、最近の研究により神経変性疾患の一部においてもライソゾームの機能異常が原因である可能性が報告されてきている。


・たんぱく質の品質管理やクリアランスの異常が、神経変性疾患における折りたたみ異常たんぱく質や凝集たんぱく質の蓄積のメカニズムであるという報告が増えてきている。また、多くの神経変性疾患における最大のリスクファクターは加齢であり、加齢がたんぱく質のクリアランス効率低下と関連していることも報告されている。これらのことから、たんぱく質クリアランスの正常化が創薬ターゲットになると考えられる。Neuropore Therapiesでは、たんぱく質の品質管理とクリアランスに関わる3つの現象:マクロオートファジーシャペロン介在性オートファジーマイトファジーにフォーカスしている。


・今回紹介するCaraway Therapeuticsも、細胞内小器官、凝集たんぱく質、蓄積した脂質の、神経細胞におけるリサイクルとクリアランスを活性化する低分子化合物を探索し、神経変性疾患治療薬への開発を行っているバイオベンチャーである。ターゲット疾患はパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ライソゾーム病を想定している。


・Caraway Therapeuticsでは神経変性疾患の治療薬開発に関し、以下の点に着目している

遺伝子解析による患者さん層別化

神経変性疾患は、同じ病気に診断された患者さんの中でも症状には多様な原因があり、複雑である。Carawayでは、細胞内たんぱく質のクリアランスを増強することが有効な可能性が高い患者さんを同定するための遺伝子解析を開発している。

ヒト疾患モデルのためのiPS細胞の活用

上記のようにCarawayでは特徴的な遺伝子発現パターンを持つ患者さん群にフォーカスしているため、それらの患者さん群由来のiPS細胞から分化させた神経細胞をモデルとして扱うことができる。このモデルを用いて、候補化合物のクリアランスへを効果を評価することが可能である。

新規の脳イメージングおよびバイオマーカー技術の活用

近年進歩している脳イメージングやバイオマーカーを用いて、病気の進行や治療効果を測定できる。


パイプライン:

TRPML1調節薬

TRP(Transient Receptor Potential)チャネルスーパーファミリーの一つであるTRPML1は主にライソゾームに発現している。TRPML1の調節によってライソゾームの活性化と細胞の正常化が期待される。CarawayはTRPML1を調節する低分子化合物の開発を行っている。

TRPML1は通常、ライソゾーム内のイオン構成を制御・維持しており、TRPML1の変異によってムコ脂質症IV型が引き起こされる。TRPML1はライソゾームの膜上に発現し、ライソゾームから細胞質へのCa2+イオンの放出を制御している。TRPML1から放出されたCa2+イオンはカルシニューリンを活性化し、細胞内シグナル分子TFEBを脱輪参加する。TFEBは核内に移行し、ライソゾームやオートファジーに関わる遺伝子の発現を調節することでオートファジーや、ライソゾーム新生を促進する。


コメント:

・アルツハイマー病、ALSなどの神経変性疾患治療薬はこれまで成功確率が低い。その原因の一つとして、これらの疾患の診断にバイオマーカーがなく、症状で診断しているためという可能性が指摘されている。つまり同じ症状でも実は原因は異なっている可能性がある。そのためCaraway Therapeutics、Denali TherapeuticsWave Life Sciencesを含むいくつかの会社のアプローチでは、神経変性疾患の層別化を行うという戦略を取っている。これは成功確率を上げる可能性があるが、一方で適応可能な患者さんがどの程度いるのかが重要になる。アルツハイマー病などは遺伝的原因以外にも加齢、環境因子なども発症に関わっていることが知られており、この戦略が成功するかは注目。


・神経変性疾患の進行は発症の10年以上前から始まっているという仮説がある。どのタイミングで異常たんぱく質、異常細胞内小器官(ミトコンドリアなど)のクリアランスを促進すれば、症状改善が見られるのかが課題。発症後にクリアランスを促進しても間に合うのだろうか。



キーワード:

・神経変性疾患(パーキンソン病、ALS、ライソゾーム病)

・低分子化合物

・オートファジー、ライソゾーム


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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