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Neuropore Therapies (San Diego, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第150回)ー

更新日:2020年5月16日


苦戦が続く神経変性疾患治療薬開発の新たな流行になっている、たんぱく質の折りたたみ異常やたんぱく質凝集、脳内炎症などの神経変性疾患の脳内で見られる現象にフォーカスした低分子化合物の創薬を行っているバイオベンチャー





背景とテクノロジー:

・Biogen/エーザイが開発している抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブのPhase IIIアルツハイマー病治験での結果がグレーとなったことで、神経変性疾患領域の創薬の難しさがクローズアップされている。アミロイドPETの結果から、アデュカヌマブは脳内のアミロイドβの量を顕著に減らしていることが示されたり、脳脊髄液中のリン酸化タウの量を有意に減らしていることも示されていた。それにも関わらず認知機能改善というエンドポイントに対する効果は2つのPhase III治験の中で1勝1敗という結果になっている(アミロイドβ、リン酸化タウ、認知機能に対するアデュカヌマブの結果についてBiogen発表データファイルを参照)。


・長年の研究成果からアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では、アミロイドβやαシヌクレインなどのたんぱく質の折りたたみ異常や凝集体形成、それに伴う脳内での炎症が起こっていることが示されてきている。そして、これらの現象をブロックする治療薬の開発が進んできている。


・例えばYumanity Therapeuticsは、パーキンソン病の脳において異常蓄積が起こっているαシヌクレインの折りたたみ異常による神経毒性を抑制する低分子化合物YTX-7739を開発している。


Orphazymeは、折りたたみ異常を正常化する生体内分子(分子シャペロン)であるヒートショックプロテイン70(Hsp70)の発現を上昇させる低分子化合物Arimoclomolで筋萎縮性即索硬化症(ALS)を適応疾患にPhase III治験を行っている。


Dewpoint Therapeuticsは、異常たんぱく質が凝集化する過程で起こる液−液相分離、液相−固相転移という現象に着目し、この現象を制御することで神経変性疾患に対する創薬を行っている。


Denali Therapeuticsは、ミクログリアによる炎症反応を抑制することでアルツハイマー病やALSを治療するというメカニズムでReceptor-interacting serine-threonine kinase 1 (RIPK1)阻害剤DNL747を開発中である。


・今回紹介するNeuropore Therapiesは、たんぱく質の凝集、たんぱく質排出の失敗、神経炎症の3重構造仮説に基づく神経変性疾患治療薬創製を目指しているバイオベンチャーである。具体的には以下の3つのアプローチにフォーカスして創薬を行っている。

折りたたみ異常を持つことでオリゴマー化し毒性を持った、たんぱく質凝集体の形成阻害

 病気に関連する折りたたみ異常たんぱく質のオリゴマー凝集体は細胞の機能を阻害し、神経変性疾患の原因と進行と関係する炎症反応を惹起する。一方もっと大きくなった凝集体(線維)はオリゴマーに比べて毒性が低い。これは、凝集体形成の初期ステージに介入することで治療効果を得られる可能性があることを示している。

病気の原因に関係した脳内炎症プロセスの阻害

 神経変性疾患の脳において、折りたたみ異常たんぱく質が細胞外に放出され、自然免疫を活性化している可能性が報告されてきている。

折りたたみ異常を持つたんぱく質のクリアランスに関する細胞メカニズムの障害の正常化

 たんぱく質の品質管理やクリアランスの異常が、神経変性疾患における折りたたみ異常たんぱく質や凝集たんぱく質の蓄積のメカニズムであると考えられている。また、多くの神経変性疾患における最大のリスクファクターは加齢であり、加齢がたんぱく質のクリアランス効率低下と関連している。これらのことから、たんぱく質クリアランスの正常化が創薬ターゲットになると考えられる。Neuropore Therapiesでは、たんぱく質の品質管理とクリアランスに関わる3つの現象:マクロオートファジーシャペロン介在性オートファジーマイトファジーにフォーカスしている。


・Neuropore Therapiesでは、臨床におけるエビデンスを固めるため、上記3つの現象の改善をモニターできる臨床におけるバイオマーカーの探索も進めている。



パイプライン:

NPT520-34

superoxide dismutase-1(SOD1)、αシヌクレイン、βアミロイドなどの神経毒性物質の産生を抑制する経口投与可能な低分子化合物。SLC22A8(https://en.wikipedia.org/wiki/SLC22A8)(有機アニオントランスポーター3)阻害剤。

開発中の適応症

・Phase I

パーキンソン病、ALS

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03954600(健常人を対象とした安全性、忍容性、PK試験)


NPT1220-312

選択的Toll-like Receptor(TLR)2アンタゴニストの低分子化合物。脳内炎症を抑制する。

開発中の適応症

・前臨床研究段階(2020年の臨床入りを予定)

ALS、パーキンソン病


NPT520-337

PI 3-キナーゼ阻害剤で、マクロオートファジー促進剤。前臨床研究段階。


カテプシンA阻害剤

シャペロン介在性オートファジー促進剤。 リード化合物探索段階。


UCB0599

αシヌクレインのオリゴマー化を阻害する経口投与可能な低分子化合物。UCB Pharmaとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase Ib

パーキンソン病



最近のニュース:

Neuroporeがライセンスアウトしたαシヌクレインのオリゴマー化を阻害するUCB0599のパーキンソン病を対象としたPhase Ibを開始


AI創薬ベンチャーのBenevolentAIとたんぱく質の恒常性維持やクリアランスに関わる創薬ターゲット分子をAIを用いて探す共同研究契約を締結



コメント:

・神経変性疾患の病原性たんぱく質の折りたたみ異常や凝集、オートファジー、脳内炎症に対する創薬は今のホットトピックだが、重要なのはターゲット分子選択。Neuroporeは、NPTオートファジープラットフォームなど、独自の創薬ターゲット分子探索プラットフォームを持つだけでなく、AI創薬ベンチャーBenevolentAIとも共同研究を行っている。どんなターゲット分子が出てくるのかが注目。



キーワード:

・神経変性疾患(パーキンソン病、ALS)

・たんぱく質折りたたみ異常

・オートファジー

・神経炎症

・低分子化合物



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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