酵母を用いてスクリーニングを行い得られた化合物を用いてヒトの疾患治療に応用するYeast + Humanity (Yumanity)プラットフォームによって神経変性疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャー
ホームページ:http://www.yumanity.com/
背景とテクノロジー:
・アルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性即索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を根治させる治療薬は非常に作るのが難しく、これまで多くの臨床試験が行われてきたが、成功したものはない。
・これらの神経変性疾患の原因の一つとして、生体内でたんぱく質の折りたたみ(フォールディング)に失敗したたんぱく質が分解されずに凝集体を作って蓄積することで神経変性が起こるという仮説がある。
・折りたたみ異常を起こしたたんぱく質に対する創薬として薬理学的シャペロン(ケミカルシャペロン)療法がある。これは、折りたたみ異常を起こしたたんぱく質に対して結合し、折りたたみを正常化する化合物による治療法である。
・薬理学的シャペロン療法の中ですでに承認されているものとしてミガーラスタット(ガラフォルド)がある。これはファブリー病というα-ガラクトシダーゼAをコードする遺伝子(GLA遺伝子)の変異によって起こるライソゾーム病への低分子治療薬である。
・ファブリー病はGLA遺伝子の変異によりα-ガラクトシダーゼAの折りたたみ異常が起こり、α-ガラクトシダーゼAが働けなくなり、基質であるスフィンゴ糖脂質の1つであるグロボトリアオシルセラミドがライソゾーム内に蓄積することで発症する。
・ミガーラスタットはグロボトリアオシルセラミドの末端ガラクトースのアナログであり、α-ガラクトシダーゼAに結合することで、このたんぱく質の折りたたみ異常を正常化する。
・ミガーラスタットを開発したアミカスセラピューティックス社はこの他にもライソゾーム病に対する薬理学的シャペロン療法を開発している(参考)。
・Yumanity Therapeuticsでは、3つのプラットフォームを用いて、たんぱく質の折りたたみ異常を正常化する薬のスクリーニングを行っている。
①酵母細胞を用いて、折りたたみ異常のフェノタイプを正常化する化合物の超ハイスループットスクリーニング
②病気を引き起こす変異を持つ患者さんの細胞(おそらくiPS細胞)から作った神経細胞を用いた、①で取得した化合物の評価
③酵母の遺伝学とたんぱく質ネットワーク解析を用いた、化合物のターゲット同定、薬理メカニズムの解明
パイプライン:
・ YTX-7739
新規ターゲット分子を阻害することでαシヌクレインの折りたたみ異常による神経毒性を抑制するメカニズムの化合物。
開発中の適応症
・前臨床研究段階(2019年第4クオーターの臨床入りを目指している)
パーキンソン病
・アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSの原因たんぱく質の折りたたみ異常を正常化する治療薬の創製(非開示)
最近のニュース:
ニコンが持つライブセルイメージング技術を活用した細胞培養観察装置「BioStation CT」と、Yumanityの持つ患者さん由来iPS細胞から誘導した神経細胞を組み合わせて、異常なタンパク質の凝集によって引き起こされる、神経変性疾患細胞の修復を目指す、ニコンの受託契約。
コメント:
・酵母を用いたたんぱく質凝集研究の先駆者だった元MIT教授の故スーザン・リンドキスト博士の成果を基に、博士が共同創業者となって創業されたバイオベンチャー
・酵母とヒトで共通の保存されたメカニズムをターゲットとした創薬だそうだが、酵母とヒトでは同じ機能のたんぱく質でもアミノ酸配列はけっこう異なることが多い。プラットフォームの①から②に行くところでかなりの化合物が落ちてしまうのではないかと推測する。①で取れた化合物はそのまま、作用するターゲット分子同定にかけ、同定されたターゲット分子のヒトオルソログ(相同分子種)に対して作用する化合物を取り直しすることになるのでは?と思う。もちろん偶然、酵母とヒトで同一のアミノ酸領域に作用するものが取れる場合もあるだろうが。
・フェノタイプ創薬から取れてきた化合物のターゲット分子を同定するのは、かなり難しいという印象を持っているのは私だけだろうか。酵母の遺伝学は全くの門外漢なので、もしかするとこれを用いれば出来るのかもしれないが、私にはここがボトルネックになる気がする。
・凝集体の形成抑制に着目して神経変性疾患治療薬を作っているバイオベンチャーには、たんぱく質の相分離に着目したDewpoint Therapeuticsがある。
キーワード:
・神経変性疾患
・たんぱく質折りたたみ(フォールディング)異常
・低分子化合物
・酵母を用いたフェノタイプ創薬
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。