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Orphazyme (Copenhagen N, Denmark) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第135回)ー


ヒートショックプロテインの発現を上昇させる低分子化合物によって折りたたみ異常たんぱく質を正常化/分解することで筋萎縮性即索硬化症(ALS)やライソゾーム病などの希少疾患の治療を目指す臨床後期ステージのバイオベンチャー

ホームページ:https://www.orphazyme.com/

背景とテクノロジー:

・たんぱく質の折りたたみ異常が原因と見られる疾患は、治療薬がない、もしくは治療薬で十分な効果が得られないものが多い。アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、クロイツフェルトヤコブ病、嚢胞性線維症、ゴーシェ病などは、折りたたみ異常のたんぱく質の細胞内蓄積が原因となっている、もしくはその可能性があり、総称としてプロテオパチーと呼ばれる(参考)。

・このたんぱく質の折りたたみ異常を正常化する創薬としてはYumanity Therapeutics、そしてその紹介記事の中に書いたアミカスセラピューティックス社などがある。アミカス社が開発し上市されているファブリー病治療薬ミガーラスタットはグロボトリアオシルセラミドの末端ガラクトースのアナログであり、α-ガラクトシダーゼAに結合することで、このたんぱく質の折りたたみ異常を正常化する。

・Yumanity Therapeuticsは、酵母細胞を用いて、折りたたみ異常のフェノタイプを正常化する化合物の超ハイスループットスクリーニングでプロテオパチー治療薬の創薬を行っているバイオベンチャーである(参考)。

・今回紹介するOrphazymeは、折りたたみ異常を正常化する生体内分子(分子シャペロン)であるヒートショックプロテイン70(Hsp70)の発現を上昇させる低分子化合物Arimoclomol(パイプラインの欄参照)の臨床開発を行っているバイオベンチャーである。対象疾患は中枢神経系や筋肉の変性疾患。

・Hsp70は、細胞内において作られたたんぱく質の折りたたみが異常の場合、その折りたたみを正常化する。また折りたたみ異常によって凝集体となった場合、その凝集体の分解を促進する。また、ライソゾームの膜透過性異常を保護することで、ライソゾームを安定化させる。

・また、血管形成,皮膚バリア形成,細菌毒素/ウイルス受容体,糖代謝,神経機能,免疫などにおいて重要な働きを持つスフィンゴ脂質は不要になった際にリソソームで分解されるが、この分解過程にもHsp70が関与している。スフィンゴ脂質の1種であるガングリオシドが蓄積して起こるニーマンピック病C型や、同じくスフィンゴ脂質の1種であるグルコセレブロシドが蓄積して起こるゴーシェ病において、Hsp70の発現を上昇させることによってライソゾームの機能を回復させれば、病気の治療につながる可能性が考えられる。

パイプライン:

Arimoclomol(BRX-345)

ハンガリーのBiorex社によって創製され 米CytRx社を経てOrphazymeにライセンスアウトされた、経口投与の低分子化合物。Hsp70の発現量を増加させる作用を持つ。Arimoclomolは、Hsp70の発現を制御するheat shock factor 1(HSF1)の活性化状態を持続させることでストレス状態の細胞においてHsp70の発現量を増加させると考えられている。

開発中の適応症

・Phase III

筋萎縮性即索硬化症(ALS)

・Phase III

封入体筋炎(筋線維内に特有の封入体を形成する筋炎)

・Phase II/III(承認申請準備中)

・Phase II

最近のニュース:

Orphazymeが進行中のゴーシェ病の臨床試験において、治療バイオマーカーの探索をCentrogeneが行う共同研究契約を締結

コメント:

・ALSなどの進行の早い変性疾患では Arimoclomolの治療効果は確認できているようだ。それだけで素晴らしいことだが、進行の遅い変性疾患であり、たんぱく質の折りたたみ異常が関与している疾患(パーキンソン病やアルツハイマー病など)では、どうなのだろうか?進行の遅い疾患では早期介入が必要であるというのが今の考え方の主流だが、さまざまな介入タイミングでの治療効果を試してみて欲しいところ。

・ヒートショックプロテインというコンセプトでArimoclomol以外の創薬も進めているようだ。Arimoclomolの直接的なターゲット分子が分かっていない中でどのように創薬しているのだろうか(やっぱりフェノタイプベース創薬?)。

キーワード:

・たんぱく質の折りたたみ異常

・ヒートショックプロテイン

・低分子化合物

・ライソゾーム病

・神経変性疾患(筋萎縮性即索硬化症)

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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