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AviadoBio (London, the United Kigdom) ーケンのバイオベンチャー探索(第283回)ー

更新日:2022年11月20日


AAVベクターの脳実質内投与法を用いた前頭側頭型認知症や筋萎縮性側索硬化症への遺伝子治療法の開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://aviadobio.com/


背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝性疾患の治療において選択される遺伝子治療ベクターである。例えば、2019年にRocheに買収されたSpark Therapeuticsは、先天性の遺伝子変異疾患患者さんの網膜下にAAV2ベクターLuxturnaを投与することで視力を回復させる治療法でアメリカにおけるAAV治療法の初承認を2017年に得ている。また、2018年にNovartisに買収されたAveXisは、先天性の神経疾患である脊髄筋萎縮症患者さんに全身投与でAAV9ベクターZolgensmaを投与することで歩行機能などの障害を回復させる治療法で、2019年にFDAから承認された。

・AAVベクターを用いた遺伝子治療は多くの臨床試験が進行中である一方で、様々な課題も明らかになってきている。その一つとして、中枢神経系疾患に対する応用がある。上記の脊髄筋萎縮症は、中枢神経系の変性疾患であり、Zolgensmaは静脈内投与することでAAV9ベクターの一部が血液脳関門を透過し、脳内の細胞にSMN遺伝子を送達することで治療効果を発揮する。脊髄筋萎縮症は先天性疾患で乳幼児期に発症、遺伝子診断されるため、AAV9ベクターは乳幼児期に投与される。乳幼児期に発症する中枢神経系疾患に対しては、同様にAAV9ベクターの静脈内投与で治療可能であると考えられる。


・一方で、中枢神経系疾患の中で患者数の多いアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など成人になってから発症する疾患の場合、AAV9ベクターを含む天然由来AAVベクターはその使用が難しい可能性がある。その理由はとして以下の2点が挙げられている。

①AAVは自然界に存在しており、多くのヒトは不顕性感染している。そのため、AAVに対する抗体を保有している可能性が高い。抗体を保有している場合、AAVベクターを投与しても免疫によって除去されてしまい、治療効果を発揮できない。

②血液脳関門が完成しているため、AAVベクターの脳への透過効率が低い。そのため、中枢神経系への遺伝子デリバリー効率が低下する可能性がある。


・これらの問題点を解決するために、AAVベクターの髄腔内投与や大槽内投与を行うことで、脳脊髄液中にAAVベクターを注入し、そこから脳細胞に遺伝子をデリバリーする方法が試みられている。しかし、今回紹介するAviadoBioの共同創業者であるUK Dementia Research InstituteのProf. Cris Shawは、脳脊髄液中のAAVベクターは脳細胞に到達できないと考えている。脳脊髄液と脳実質(脳)の間には膜があり、それが障壁となっているためである。そこでAviadoBioは、脳内実質に直接ウイルスを注入するという脳外科的なアプローチをとった。Prof. Shawによると、ウイルスを適切な場所に微量に投与することで、安全にこの方法を実行できることを証明しているとのこと。マウス、ヒツジ、そしてサルで、安全かつ成功裏に実証されている。

・このアプローチを用いて、AbiadoBioは、前頭側頭型認知症(FTD)やALSなどの神経変性疾患に対する革新的な遺伝子治療を開発することを目指している。


パイプライン:

AVB-101

プログラニュリン(GRN)遺伝子に変異を有する前頭側頭型認知症(FTD)の患者さんを対象とする、1回限りのAAVベクター遺伝子治療薬。GRN遺伝子の機能的コピーを中枢神経系全体に投与し、プログラニュリンレベルを正常に戻すことにより、疾患の進行を抑制または停止させるように設計されている。脳の神経細胞ネットワークを利用してウイルスベクターとプログラニュリンたんぱく質の輸送を促進し、生体内への分布を最大化するために、視床内投与される。

開発中の適応症

・Phase I開始予定

GRN遺伝子変異を持つ前頭側頭型認知症(GRN-FTD)


・その他FTDやALSに対して遺伝子ノックアウトを行う遺伝子治療法の探索研究を行っている。


コメント:

・AAVはウイルスの中でも粒子形が小さいため、拡散性に優れている。とはいえ、脳実質の1ヶ所に投与して脳の広範囲に拡散させるのは容易ではないだろう。パーキンソン病のように脳内の一部の領域でのみ変性が見られる疾患とはことなり、FTDやALSは広範囲の神経細胞が変性するため、脳実質の局所投与で十分な分布が見られるのかどうかが気になる。

・脊髄液内に投与しても脳実質に広がらないのかどうかは詳しくないのだが、眼においても同様の現象が知られている。眼の硝子体内に投与しても網膜と硝子体の間に膜があるためにAAVベクターの硝子体内投与で網膜に遺伝子をデリバリーするのが難しいという課題がある。Luxturnaなどは網膜下投与という網膜の下の狭いスペースに投与することで網膜にAAVベクターが作用できるようにしている。しかし網膜下投与では広範囲の網膜にAAVベクターを作用させるのは難しい。


キーワード:

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター)

・脳実質投与

・神経変性疾患(前頭側頭型認知症、ALS)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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