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Annovis Bio (Berwyn, PA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第222回)ー


アルツハイマー病やパーキンソン病の原因物質の翻訳を阻害する低分子化合物で、神経変性疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャー。リードプロダクトのANVS401がPhase IIaでポジティブな結果を示し注目されている。


ホームページ:https://www.annovisbio.com/


背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病の原因遺伝子としては、家族性アルツハイマー病で変異が見つかっているアミロイド前駆たんぱく質(APP)や、そのAPPを切断する酵素の主体であるプレセニリンなどが同定されている。しかし、アミロイドβを除去する目的で作られた抗アミロイドβ抗体は、現在のところアルツハイマー病において確実な認知機能改善効果を示すに至っていない。バイオジェン/エーザイの抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブが1勝1敗のP3治験結果でFDAに申請したが、2020年11月6日のFDA諮問委員会では有効性を十分に証明できなかったとの見解に8票、証明できたとの見解に1票、判断保留に2票という結果となった(参考)。しかし、2021年6月7日、FDAはアデュカヌマブが脳内アミロイドβを減少させる効果を持つことから、アルツハイマー病治療薬として承認した。FDAは認知機能改善効果に対する追加の検証を課しており、今後の検証結果報告が待たれる。一方、APP切断酵素であるγセクレターゼやBACEの阻害剤も今のところ、臨床において認知機能改善効果を示せていない。


・ このようにアルツハイマー病治療薬の開発失敗が続いている中、原因とされるアミロイドβ以外に着目したアプローチが注目されている。その中でも多いのが神経免疫に着目した創薬である。Denali Therapeuticsは、ミクログリアによる炎症反応を阻害するRIPK1阻害剤をアルツハイマー病・ALSを適応として開発している。一方、Alectorは、ミクログリアの貪食能を活性化させることで、アミロイドβなどの変性たんぱく質がミクログリアに取り込まれ、変性たんぱく質の分解が促進されることでアルツハイマー病に効果を持つというメカニズムの創薬を行っている。また、GliaCureは、ミクログリアに発現する、プリン受容体の一つであるP2Y6受容体に作用する低分子化合物をアルツハイマー病を適応として開発している。この化合物によりミクログリアは貪食能が活性化され、アミロイドβが貪食され、脳内アミロイドβ量が減少する。また、Cognito Therapeuticsは、40Hzの光の明滅刺激と40Hzの音刺激を組み合わせたデバイスGENUSを用いたアルツハイマー病の治療法開発を行っている。


・今回紹介するAnnovis Bioは、軸索輸送という神経細胞が持つ機能が、神経変性疾患において障害されているという仮説に基づき、その障害を回復させる低分子化合物の神経変性疾患治療薬開発を目指すバイオベンチャーである。


・正常な神経細胞は、信号を受け取り、細胞内で処理した後、細胞体から伸びる軸索と呼ばれる長い腕の神経線維を通って、シナプスと呼ばれる構造によって、次の神経細胞に接続され、信号を伝達する。脳細胞が障害されたりストレスを受けたりすると、最初の反応として軸索の輸送が減少し、障害が発生する。その結果、神経伝達物質が減少し、うつ病(セロトニン)、不安・不眠症(GABA)、アルツハイマー病(アセチルコリン)、パーキンソン病(ドーパミン)などの原因となる。また、軸索輸送が異常になると、神経細胞の健康を維持する神経栄養因子のレベルも低下する。免疫系は、機能不全を持つ神経細胞を見つけると、活性化して神経細胞を攻撃し、最終的に神経細胞を死滅させる。したがって、軸索輸送の障害は、炎症を引き起こし、最終的には神経細胞の死につながると考えられる。


・Annovis Bioは軸索輸送を改善する経口投与可能な低分子化合物を開発している。Annovis BioのリードプロダクトであるANVS401は、in vitroおよびin vivoにおいて、アミロイド前駆たんぱく質(APP)、tauおよびαシヌクレインを含む複数の重要な神経毒性タンパク質の翻訳を阻害し、その結果、レベルを低下させる、その結果軸索輸送が改善されることで神経細胞死を抑制するという作用メカニズムを有している。


・特筆すべきこととして、このANVS401のアルツハイマー病、パーキンソン病患者さんに対するPhase IIa治験において、WAISコーディングスケールという「視覚運動の器用さ、連想非言語学習、非言語短期記憶」を測定する指標に改善効果が見られたというプレスリリースが、2021年6月1日に発表された(詳細はこちら)。20年以上新規の承認薬が出ていないアルツハイマー病治療薬に新たな薬が加わる可能性が示されてきている。


パイプライン:

ANVS401(Posiphen)

IRE (iron responsive element)-IRP(iron regulatory protein)1複合体に結合してその開口部を阻害することにより、神経毒たんぱく質の過剰発現を抑制するメカニズム。非臨床のデータについては、上記「背景とテクノロジー」欄に記載の通り。親油性の経口投与可能な低分子化合物。3本のPhase I治験において、良好な忍容性が確認され、4人のMCI(軽度認知機能障害)患者の脳脊髄液中のAPP、タウ、αシヌクレインのレベルが低下していることを確認している。

開発中の適応症

・Phase II

アルツハイマー病、パーキンソン病

・Phase I

ダウン症の認知機能障害、前頭側頭型認知症

ANVS405

ANVS405はANVS401と同じ化合物だが、脳に早く到達する(15分以内)ように注射剤として静脈内投与されるために製剤化された薬剤。急性期の適応症として、外傷性脳損傷や脳卒中後の脳の保護に焦点を当てた。外傷性脳損傷モデルラットに投与すると、記憶や学習が向上し、炎症の指標であるミクログリアの活性化が低下した。米国陸軍からの助成金が入っている。

開発中の適応症

・IND申請準備段階

外傷性脳損傷、脳卒中

ANVS301

詳細不明。アルツハイマー病および認知症の後期段階における認知能力の向上が期待される。前臨床試験において、ANVS301は超高齢ラットの記憶と学習を改善した。米国国立衛生研究所(NIH)が資金を提供してPhase I治験を実施している。

開発中の適応症

・Phase I

進行したアルツハイマー病


コメント:

・ANVS401の作用メカニズムであるIRE-IRP1複合体の阻害による神経毒たんぱく質の発現抑制というメカニズムは、詳細が不明(AlzforumによるとAPP mRNAの5’UTR領域にあるIREに作用してAPPのたんぱく質発現を抑制するというメカニズム)。IRE-IRP1複合体は細胞内の鉄存在量を調節するメカニズムである。その詳細は以下の通り(京都大学大学院医学研究科細胞機能制御学のホームページからの転載)

「細胞の取り込みタンパク質であるトランスフェリン受容体1(Transferrin receptor 1:TfR1)と貯蔵タンパク質であるフェリチン(ferritin:Ft)の発現を細胞の鉄存在量に応じて調節し、鉄不足・鉄過剰を生じない様にしています。この鉄に応じたTfR1とFtの発現は転写レベルではなく、mRNAレベルで制御されています。図に示すように、FtやTfR1のmRNAには種を超えてIRE (iron responsive element)と呼ばれるステムループ構造が存在しており、IRP(iron regulatory protein)と呼ばれるRNA結合タンパク質が鉄欠乏下においてのみIREに選択的に結合することによって、その制御下にあるタンパク質の発現量を制御しています。すなわち、細胞は鉄濃度が低い場合にのみそれらのmRNAにIRPを選択的に結合させることにより鉄取り込みタンパク質であるトランスフェリン受容体、鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンの発現を調節することで、鉄代謝を制御しています。」

・これまでのアルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体の治験結果から、アルツハイマー病発症後に原因物質のアミロイドβを減らしても認知機能は改善できない可能性が示唆されてきたが、ANVS401は同様のアミロイドβを減らすコンセプトで発症後の患者さんの認知機能が改善できたとしている。ただ、これまでのアルツハイマー病治験でのその他のアプローチにおいても、Phase IIまでは良い結果が出ていてもPhase IIIで失敗することが多い。アルツハイマー病の場合、Phase IIIが鬼門となっていることは注意が必要。またWAISコーディングスケールという聞き慣れない指標を用いている。これがFDA承認を得られる指標になるかどうかは不明。


キーワード:

・軸索輸送

・神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ダウン症)

・低分子化合物


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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