経済財政諮問会議において「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」は、革新的医薬品がより多く創出される仕組みとなるよう、「対象となる医薬品の範囲」と「企業要件」を見直す との方針が表明されました(詳細はこちら)。
「革新的医薬品がより多く創出される仕組みとなるよう」ですか。。。皆それを目指してて、それができれば苦労しませんが。創薬研究をしていていつも思うのは、
革新性と確実性は相反する
ということです。革新的医薬品とはすなわち
未だ誰も成し遂げてないことにチャレンジして作る、今までにない臨床的価値を持つ医薬品
です。そしてもちろん「未だ誰も成し遂げてないこと」は、やってみるまでどうなるかわかりませんから、確実性は低くなります。
ここに非常に難しい矛盾が生じます。革新性の高い医薬品を作ってブロックバスターにしたいという考えと、巨額の臨床開発費を払う以上は確実性の高い開発候補品に投資したいという考えです。多くのフツーの製薬会社ではこれまで、革新性の高い医薬品を作りました!と新薬創出加算のついた新薬を販売してましたが、その実際は他社がチャレンジして確実性が高まったコンセプトと同じコンセプトを持つ医薬品を後追いで作ってきました。統合失調症治療薬はどこも似たような非定型抗精神病薬(ドパミンD2受容体アンタゴニスト)ばかりですし、アルツハイマー病治療薬もコリンエステラーゼ阻害薬ばかりです。最近でもPD-L1抗体とかCTLA-4抗体とかはオプジーボ(PD-1抗体)で確実性が高まった周辺に他社が群がってる感じです(詳細はこちら)。キートルーダはそのままPD-1抗体なので、小野薬品とBMSはメルクを相手取って訴訟までしました(結果はこちら)。こんな感じでみんな他社が取ったリスクの2匹目のどじょうを狙う戦略がほとんどです。
近年の研究開発費の高騰で、フツーレベルの製薬会社は確実性の低い投資は非常に難しくなりました。どれだけ新薬創出加算を変えて革新的医薬品がより多く創出される仕組みとなるよう促されても、そんな体力がない(勇気がない?)ところばかりです。無策な会社とかは「確実性の高い革新的医薬品を作ります!」とか口先だけのいい加減なことを言っているところもあると聞きます。
革新的医薬品を創出するための確実な方法はないことは確実です。でも可能性を高める方法はあります。それは
1.ヒトで起こっている現象(疾患メカニズム、生理的メカニズム)を理解する
2.既存薬と同じターゲット分子でも作用の仕方を工夫する
3.新しい分子種(抗体、核酸、細胞医薬品など)の特長を利用する
4.DDS(新しい送達システム)
5.いち早く有用な情報をゲットする
などが考えられます(他にもあるでしょうがぜひ教えて下さい!)。要は最先端技術を駆使することでしょうね。そして、最も重要なことは
リスクをとる勇気
でしょうね。それなりの規模の企業ほど、これが足りない場合が多いんじゃないかと思います。最後に必要なのはここでしょうね。
参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。