top of page
検索

自社創製、自社開発を目指す


前回のブログで、

海外大手を除く多くの製薬会社は、開発候補品を導入もしくは開発候補品を持つ会社を買収して、グローバル開発する「開発力で勝負する会社」と自社で開発候補品を作って、グローバル開発できる会社に導出する「研究力で勝負する会社」に二極化するのでは、

と書きました。今回は、このことについてもう少し掘り下げてみて、

1.何で自社創製、自社開発したいのか?

2.何で自社創製、自社開発できないのか?

について考えてみました。

1.何で自社創製、自社開発したいのか?

これについては製薬業界にいる人はみんな知っているので改めて書くほどではないかもしれません。自社創製し自社開発するのが一番儲かるからです。自社創製してない化合物を導入する場合は多くの場合、導入時にライセンス料を払わないといけないし、開発フェーズが上がるごとにマイルストーン報酬、開発に成功した後も売上額に応じてロイヤリティを払わないといけません。自社創製して導出する場合はロイヤリティ収入が得られますが、費用とリスクがかかる臨床開発を他社にお願いすることになるので、売上の多くは導出先に持って行かれてしまいます。自社で薬を創製し、自社で臨床開発するのが一番儲けが多くなるので、みんな自社創製・自社開発がやりたいのです。

2.何で自社創製、自社開発できないのか?

自社創製、自社開発が一番なのに、最近の日本の製薬会社はそういう薬がなかなか作れていない現状があります。なぜそうなっているのか?多くの薬が作られてしまって新しい薬が作りにくくなっていることが一因ではありますが、今回はそれ以外の要因について見てみたいと思います。

まず前提として、日本市場だけでは薬の研究開発費の元を取れなくなってきています。必然的に薬をグローバルに臨床開発する、少なくとも巨大市場である米欧でも臨床開発しないと次の薬の研究開発費を捻出できる十分な利益が得られません。そこで、臨床開発の体制をグローバルにします。つまり、米欧にも臨床開発ができる人材を採用するのですが、米欧の臨床開発スタッフの給料は日本とは桁違いに高いです(詳しくは知りませんが、億レベル?社長より高い人もいるのでは?)。そして、臨床開発スタッフは専門疾患領域が分かれていて、疾患領域ごとの臨床開発スタッフが必要になります。そのためたくさんの疾患領域の臨床開発スタッフを一社で持つことはできず、会社は疾患領域の選択と集中が必要になります。ほとんどの製薬会社が選択と集中をして重点疾患領域を絞っているのはそういう一面があります。

で各社、選択と集中で疾患領域を絞るということは、上流である研究に関しても疾患領域が絞られます。でもただでさえ新しい薬が作りにくくなってきているのに疾患領域が絞られると、研究サイドはかなり手足が縛られます。そして状況を悪くしているのが、どの製薬会社も似たような疾患領域を重点領域としているというところ。そのせいで同じ所にみんな注力して競争はし烈になり、最新テクノロジーを駆使しない限り、他社より先に薬を作れません。誰もがこういう状況の中で新薬作りを目指しており、非常に薬を作るのが難しくなってるのが現状です。

こうして研究サイドは薬が作りにくい、臨床開発サイドは幅広い疾患領域で開発できない、と双方ともに苦悩を抱えるため、一番うまみのある自社創製、自社開発がなかなかできません。ということで、前回のブログにも書いた通り、研究力で勝負する自社創製を中心にする会社か、開発力で勝負する自社開発を中心にする会社に2極化されてきています。

本当は幅広い疾患領域のグローバル臨床開発体制をとって、幅広い研究ができればもっと昔みたいに自社創製、自社開発できるんですが、そういうのは本当に規模の大きなグローバルな製薬だけができることだろうと思います。

参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまで。

最新記事

すべて表示

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られ...

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。...

bottom of page