まだ確定はしてないみたいだけど、トランプ政権のFDA長官は無難なところに落ち着きそうです。昨年くらいから報道されてたのは、FDA長官候補の中に、非常にユニークなアイデアを提案している人がいるということです。それは、
FDAが新薬を承認する際に、現在みたいに薬の有効性を示せなくても、安全性さえ担保されれば承認し、有効性はその後の市場で見ていけばいい
という考え方です(サイエンス誌では有効性の代わりにバイオマーカーで良いという提案と書いてあったので、全く有効性に関する情報なしではないかもしれません。こちら→http://science.sciencemag.org/content/355/6327/777)。
アメリカの製薬メーカーはこのアイデアを提案している人じゃない人を望んでたみたいです(理由は分かりませんが)。このアイデア、製薬メーカーの人間から見ると常識外なのでびっくりすると思います。でも、もう少しマイルドなアイデアとして
治験で一部の患者さんにしか効かなくて、全体としては有効性を示せなくても承認
という人たち(FDA長官候補とは別の人たち)もいたりして、現行の治験制度を考え直すようなアイデアはいろいろあるようです。
確かに、現行の治験制度では一部の患者さんに効いたとしても多くの患者さんに効かないと使用できません。その一部の患者さんにとっては福音となる可能性があるのに。ガンが遺伝子変異のタイプによって細分化されているように、今は症状だけでひと括りにされているアルツハイマー病や自閉症などは、実はタイプの違う患者さんの集まりかもしれません。もちろん良いバイオマーカーができて患者さんを細分化できれば一番なのですが、ここまでいろいろアプローチされてきた感じでは、現行の技術では細分化する診断薬を作るのが難しい状況です。ですから、もし一部の患者さんに効いただけで承認されるなら、運良くその一部に該当した患者さん、そして製薬会社にとっては非常に良い話です。
問題点はあります。「有効性が示せていない薬を飲みたいのか?」ということです。もし、自分が初めて病気になった時に安全だけど有効性は示せてない薬を飲みたいでしょうか?もちろんそれしか選択肢がなければ是非もありません。しかし、治験で有効性が示されている薬が他にあれば、もちろんそちらを先に選ぶでしょう。こうなると、すでに有効性が示されている薬がある疾患では、いつまで経ってもその薬は売れません。だって誰も試してくれないから。
多分そんな売れる見込みがない薬の製造ラインを確保して安定供給してくれる製薬会社も少ないでしょう。おそらく製薬会社は自身で有効性を確認する治験をすることになると思います。それは大きな問題です。何故かというと、規制当局からのコントロールなしに製薬会社が治験をして、その結果が一人歩きするのが問題だからです。ディオバンの臨床データ不正のようなことが起こらないとも限らないということです。
このように問題点もある治験制度の見直し議論ですが、現状のままで良いとも思いませんので、こんな感じでアイデアを出していくことは重要だと思います。
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