薬作りをしてると、新しいメカニズムの薬、今まで治療薬がなかった疾患の新規治療薬は注目されます。特に大学で研究してきた私は新規性というものに魅力を感じる癖があるので、ついつい新しいことに目が行きがちです。しかし、臨床の現場から見れば、新規性よりも
・今まで治療できなかった疾患・症状に効く
・これまでの薬よりもかなり効きが良い、副作用が少ない
という方が評価が上がります。もちろん「新しいメカニズム」の薬であるということは、今まで効かなかった疾患・症状に効く可能性が上がりますから、期待度は高くなります。が、結局今までの薬と大差ないってなったら、その期待度はしぼんでいってしまいます。つまり、どんなに新しいメカニズムの薬だったとしても、臨床で使ってみて効果が感じられない薬は意味がありません。
この考え方で薬価を決めてくる国の代表がドイツなどヨーロッパ諸国です。
ドイツでは全ての新薬は既存の薬と比較する治験を行って、優位性を示すことが求められます。もし優位性がなければ、薬価は既存の薬と同等になります。もしジェネリック医薬品がすでにある場合は、ジェネリック医薬品と同じ薬価にされてしまうということです。新薬には研究開発コストがかかっていますから、これは非常に厳しいです。しかし一方で当たり前といえば当たり前のことです。
例えば、糖尿病治療薬。
古い薬としてスルホニル尿素薬、ビグアナイド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、新しい薬としてチアゾリジン薬、DPP4阻害薬、SGLT2阻害薬などがあります。たくさん薬が出来てきた中で、糖尿病は薬でコントロールできる病気になりつつあります。そんな中で出てきた最新の糖尿病治療薬で新規ターゲット分子への薬であるSGLT2阻害薬は、ドイツではこれまでの薬に対して優位性が乏しいとして、新薬として十分な評価が得られず、既存のっ薬と同等の薬価しかつけられないとの裁定が下りました。
他にも抗てんかん薬。
日本の製薬会社が開発したAMPA受容体拮抗薬は新しいメカニズムの薬ですが、ドイツでは既存薬に対する優位性が評価されず、低薬価しかつかなかったために発売を見合わせました。
臨床で優位性が示せなければ新薬としての薬価がつかないということは、お金を払う側の視点に立てば当たり前です。しかし作る側から見ると、臨床で優位性が出ると思って開発してみたら、思ったほどの効果が出なかったということはよくあることです。ただでさえギャンブル性の高い創薬という仕事が、ますますギャンブルになっていっています。ギャンブル性を下げるために、創薬研究者は「非臨床研究の中」で臨床の優位性をより正確に予測していく必要性があり、どうやったらできるのかについて真剣に考えていかないといけません。
臨床予測が難しい理由の一つとしては、薬の反応性が人によって異なるというポイントがあるのでは?と思います。薬の反応性を非臨床で予測する方法として
iPS細胞を利用する
という方法が考えられています。異なる地域、人種の多数の人から作ったiPS細胞(正確にはiPS細胞由来の分化細胞)で薬の評価をすることで、より正確な臨床上の優位性を予測できるようになるのでは?と考えられていますが、果たしてうまく行くかどうか。期待したいですね。
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