iPS細胞、日本人なら誰でも知ってると言っても過言ではない有名な細胞ですね。加齢黄斑変性症という眼の病気への臨床応用はすでに始まっていて、みんなが期待しています。私もiPS細胞(由来の分化細胞)移植で今まで治療できていなかった病気が治ったらいいなと思います。しかーし、一方で、
ちょっとiPS細胞に一点張りし過ぎじゃね?
と思ってしまう訳です。確かにiPS細胞は世界が認めた素晴らしい発見だし、ES細胞と違って倫理的な問題もないし、論理的には様々な疾患の治療に使える可能性があるし、せっかく日本で発見されたのに実用化は外国に先越されたら悔しいし、せっかくのこれまでの科学への投資もリターンしないといけないし、、、、、といろいろあります。いろいろあることは分かります。でも、ガン免疫の世界的権威である京大・本庶佑先生がおっしゃってました。
「生命科学はギャンブルである」
と。そして
「ギャンブルに勝つには出来るだけたくさんの馬券を買うことだ」
と(これをおっしゃった時、山中先生も同席されてましたw)。私も本庶先生のご意見がすごく大事だと思います。個々の研究者は一つのことに集中する必要がありますが、日本の生物界医学界全体として一点集中してしまうことは問題があるのでは?と思います。iPS細胞の将来性の凄さは分かりますが、想定されているほど幅広い分野で実用化できないかもしれません。最先端科学とはそういうもので、「すごい科学者の方々が取り組んでいるから100%実用化できる」とか「有望な結果が出たという報道が頻繁にあるから実用化は間違いない」とかの保証はなく、どんなものでも未知である以上常にリスクはつきものです。未知だからこそ科学者が取り組んでいるんです。
で、iPSの死角の一つは「がん化」の問題です。iPS細胞は多分化能、増殖能が復活していますから、現状がん化のリスクは拭いきれていません。世界初のiPS臨床応用研究である加齢黄斑変性症への移植の場合、眼への移植なので、がん化した場合はすぐにレーザーで焼くことができます。がん化の懸念があるからこそ、加齢黄斑変性症から臨床研究をスタートさせています。もうひとつ、がん化の懸念があっても実用化できるものとしては、iPS細胞からの血小板作製でメガカリオンというバイオベンチャーが実用化を目指しています。血小板は細胞じゃないのでがん化しないからです。
こういう取り組み以外にも色々なアプローチも行われているので全く実用化できないとは思いませんが、期待されているほどiPS細胞で解決できないかもしれません。だからこそ、日本でもiPS細胞以外の選択肢を考えている研究へも目を向けていくべきだと思います。iPS一色は一点張りのギャンブルじゃないかなと。
この間いろいろ調べていたら同じようなことを理研の西道先生がおっしゃっていたみたいですね。科学研究費がiPSに行きすぎていると。意外なところからもっと良い治療法が見出されて全部持って行かれてしまわないためにもiPS以外にも目を向けていきたいと思います。
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