アクテムラ(トシリズマブ)
オプジーボ(ニボルマブ)
は日本の大学が発見した業績を製薬会社が製品化したことによって生まれた、革新的医薬品です。長年言われてきた大学の成果の社会還元が成功した素晴らしい事例だと思います。これらの薬の成功もあり、近年は大学と製薬会社間の共同研究が大型化してきています。京大CiRAと武田薬品、阪大iFReCと中外製薬との共同研究などですね。もちろん私はこれらの共同研究がどんな内容でどんな風に進めていくのか知りませんが、産学連携がなかなか難しいのは感じています。
そのまんまですが
大学の研究による発見をどう産業に結びつけるかが難しい
ってことです。大学にはいろんなユニークな研究がありますが、創薬に結びつけやすいものから、一見する限り結びつけにくそうなものまであります。創薬応用する場合に何をポイントにすべきか?私なりに考えられることを列挙してみました。
(1)臨床試験のイメージ
まず、対象疾患が何なのか?が重要です。どんなに面白い研究であっても、それが決まってないと薬作りにはどうしようもない。もちろん、ダイレクトに疾患と繋がっていない現象を疾患と結びつけるのも創薬研究者として重要な仕事ですが、そう簡単ではないです。逆に、最近は大学でも研究費獲得がし烈なので、自分の研究を疾患と無理矢理結びつけている例もあります。そういうのもちゃんと見極めないといけません。
とりあえずそういうことはパスしてると仮定した上で、対象疾患が明らかな研究だったとしても、その疾患の臨床試験はどんな感じかイメージしないといけません。臨床試験には臨床試験できるスコアリング方法が必要です。同じ患者さんで同じタイミングで測っているのに毎回違うスコアリング結果が出たりとかの信頼性に欠けるスコアリング方法はだめですし、疾患の重症度を細かく定量的に測れる方法でないと、薬がどのくらい効いているのかを測定できません。他にもいろいろありますが、そういう臨床試験向きのスコアリング方法が確立されている疾患かどうかが重要です。
(2)ニーズと市場規模
医療ニーズがどれだけあるかも重要です。すでに治療薬が十分ある領域や患者さんが少ない領域は製薬会社としては取り組みにくいです。降圧剤などの治療薬が十分ある領域はこれから新薬を出しても相当なメリットがないと使ってもらえない可能性があります。患者さんが少ない領域は開発費を回収できるほどリターンがないというのもありますが、それ以上に患者さんが少ないと臨床試験にエントリーしてもらう患者さん数が足りなくなったり、探しまわるのに時間がかかってしまい開発費がかさむとかの問題があります。
製薬業界でアンメットメディカルニーズ(満たされていない医療ニーズ)と呼ばれるものを考えないといけないということです。
(3)「病気の原因=治療できる」とは限らない
病気の原因を明らかにする研究は多いですが、病気の原因を明らかにし、それを元に戻せば治療できるかどうかは疾患によります。病気の原因がずいぶん前に発生したけれど、症状はずいぶん後になって現れ出てくる疾患の場合、病気の原因を治しても症状は変わらない可能性があります。逆に病気の原因とは何の関係もないけど、作用させれば治療できるようなものもあります。実際に臨床試験してみないと分からないケースも多いとは思いますが、事前に考慮していくことは重要です。
他にもいろいろあるとは思いますが、大学の研究成果を創薬に応用する際に注意すべき点を、私の考えられる範囲で書いてみました。
参考になれば幸いです。ご質問ご意見はお気軽にkenyoshida36@gmail.comまたは下のコメント欄まで。