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Vaxxinity (Dallas, TX, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第246回)ー

更新日:2021年12月5日

アルツハイマー病、パーキンソン病などの慢性疾患に対して、抗体医薬品ではなく合成ペプチドを用いたワクチンで治療するアプローチを開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://vaxxinity.com/


背景とテクノロジー:

・2019年、米国では売上上位10品目のうち8品目を生物製剤が占め、そのうち7品目がモノクローナル抗体だった。2019年のモノクローナル抗体の世界市場規模は約1630億ドルで、バイオ医薬品全体の売上の約70%を占めている。モノクローナル抗体は、一般的に良好な安全性特性を持ち、投与を受けた患者さんに大きな健康上のメリットをもたらし、人生を変える治療を提供することができるが、定期的な点滴や、数10万ドルを超えることもある年間の治療費は、患者さんとペイヤーの双方にとって課題となっている。このような価格や投与のハードルのために、モノクローナル抗体の治療を受けることができるのは、ごく一部に限られている。さらに、モノクローナル抗体はその高いコストから、中等度から重度の疾患、および後期の治療に限定されることが多い。一部推計によると、モノクローナル抗体治療を受けているのは全世界の人口の1%にも満たない。一方、モノクローナル抗体に代わる治療法は低分子化合物であり、ほとんどの患者さんが利用できるが、モノクローナル抗体に比べて効果が比較的低く、副作用が大きいことが多い。このような状況は、世界的に見ても医療アクセスにおける深刻な不公平感をもたらしている。


・モノクローナル抗体は、体外で開発、製造、精製された後、およそ2週間に1度の頻度で患者さんに輸注される。そのため、モノクローナル抗体は、患者さんの免疫システム内で抗体産生を促進するワクチンよりも本質的に効率が悪い。アンメットメディカルニーズとして、より少ない活性物質とより少ない頻度の治療が求められている。しかし、従来のワクチンは、歴史的に感染症の治療に成功してきたが、慢性疾患の治療にワクチンを利用しようとするこれまでの試みでは、許容できる安全性と有効性の両方を達成できていない。これは従来のワクチンでは、有害な自己抗原に対する必要な抗体反応、すなわち免疫寛容の抑制や、ワクチン接種による免疫反応の物理的な現れである反応源性(副作用や免疫反応を起こす能力)を許容できるレベルで生成することができないことが原因と考えられる。


・今回紹介するVaxxinityは、病気の原因となっているたんぱく質の一部をペプチドワクチンの形で投与することで、免疫システムを利用して体内を「薬物工場」に変え、治療効果や保護効果のある抗体の産生を促進するというコンセプトの治療法開発を行っているバイオベンチャーである。この会社が保有する独自技術は、選択された生物学を模倣し、免疫系を活性化するようにカスタム設計されたモジュール式コンポーネントで構成されたVaxxineプラットフォーム技術で、自己抗原を標的とした場合に免疫寛容を抑制できるとのこと。


・従来のワクチンは、感染症に対してはこのアプローチを活用することができたが、慢性疾患との闘いにおける重要な課題を解決することはできなかった。VaxxinityのVaxxineプラットフォームは、これらの課題を克服する可能性を秘めており、全く新しいクラスの病状にワクチンの効率性をもたらす可能性があると考えているとのこと。具体的には、Vaxxinityの技術は、合成ペプチドを用いて生体エピトープを模倣し、最適に組み合わせることで、免疫系を選択的に活性化し、自己抗原を含めて求められた標的のみに対する抗体を産生するものであり、ワクチンによる慢性疾患の安全かつ効果的な治療を可能にする。


・Vaxxineプラットフォームの特徴は以下の通り。

コスト

モノクローナル抗体は細胞を用いて製造するためコストが高いが、合成ペプチドは化学合成で作られるためコストが抑制される、また、ワクチンは体内で抗体を生成するように設計されているため、モノクローナル抗体に比べて必要な薬剤の量が大幅に少なく、それに比例してコストも低くなる。

投与方法

Vaxxinityの製品候補は、インフルエンザの予防接種のように、3ヶ月ごと、あるいはそれ以上の間隔で、筋肉内に注射するように設計されている。隔週で点滴や皮下注射を行う必要があるモノクローナル抗体や、毎日投与する必要がある低分子化合物に比べ、利便性が高いと考えられる。

効果

これまでに実施された臨床試験では、UB-311、UB-312およびUB-612において高い奏効率(目標用量で95%以上)、自己抗原に対する高い標的特異的抗体(UB-311およびUB-312の臨床試験で見られる)、UB-311(投与間の力価上昇に基づく)およびUB-612(半減期に基づく)の長い作用持続時間が得られている。モノクローナル抗体と比較してVaxxinityの製品候補は、利便性が向上することで患者さんのアドヒアランスが向上する可能性があると考えられる。さらに、Vaxxineプラットフォームは、標的抗原を単一の製剤にまとめることができるため、多価のアプローチでより効果的な治療が可能な適応症では、Vaxxineプラットフォームが他の治療法よりも有利になる可能性がある。また、Vaxxineプラットフォームは内因性の抗体を誘発するように設計されているため、一部のモノクローナル抗体の有効性を制限してしまう、抗薬物抗体の現象を軽減または完全に回避することができる可能性がある。

安全性

これまでの臨床試験においてVaxxinityの製品候補は、プラセボと同等の安全性プロファイルを示し、良好な忍容性を示している。


パイプライン:

UBX-311

脳内で凝集した有害な形態のアミロイドβ(Aβ)を標的としたアルツハイマー病(AD)治療薬。Phase 1、Phase 2aおよびPhase 2a長期継続試験では、UB-311が軽度から中等度のAD被験者を対象に3年間の反復投与でプラセボと同等の安全性を示し、アミロイド関連画像異常-浮腫(「ARIA-E」)の症例がなく、免疫原性があり、高いレスポンダー率と目的のターゲットに結合する抗体が得られることが確認されている。2022年に早期ADの有効性に関するPhase 2b試験の開始を予定している。

開発中の適応症

・Phase II

アルツハイマー病


UB-312

脳内で凝集したαシヌクレインの毒性型を標的とし、パーキンソン病(PD)およびレビー小体型認知症や多系統萎縮症などの他のシヌクレイン症に対抗する。健康なボランティアを対象としたPhase 1試験では、UB-312の忍容性、安全性に問題はなく、高い応答率と血液脳関門を通過する抗体を伴った免疫原性が確認されている。また、Phase 1試験のパートAでは、重篤な有害事象は認められなかった。2021年後半にPD被験者を対象としたPhase 1試験の第2部を開始する予定。

開発中の適応症

・Phase I


抗タウ

ADを含む複数の神経変性疾患を対象に、異常なタウたんぱく質を除去する抗体を誘導する。単独もしくはAβなどの他の病的たんぱく質と組み合わせて、複数の病的プロセスに同時に対処する可能性がある。今後2年間でリード製品の候補を特定する予定。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

タウ蓄積疾患(ADなど)


UB-313

CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした片頭痛治療薬。IND申請に向けた試験を開始しており、2022年にヒトでの第1相臨床試験を開始する予定。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

偏頭痛


抗PCSK9

PCSK9を標的とし、LDLコレステロールを低下させ、心イベントのリスクを低減する。2022年にIND準備試験を開始する予定。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

高脂血症


UB-612/UB-612A

SARS-CoV-2ウイルスを中和する「マルチトープ」アプローチを採用しており、複数のウイルスエピトープに対する抗体免疫と細胞免疫の両方を活性化するように設計。

開発中の適応症

・Phase II/III

新型コロナウイルス感染症COVID-19予防


コメント:

・これまでAβの一部ペプチドを用いたワクチンの開発は行われてきたが、どれも成功しているものはない。また、AducanumabやDonanemabなどの抗Aβモノクローナル抗体についても、アルツハイマー病の認知機能改善効果を持つかどうかは現状はっきりしていない。Vaxxinityのアプローチがうまくいくかどうかは全く未知数だが、現状行われているアプローチの中で、ワクチンが安全かつ安価になる可能性が高いのは確かだろう(AducanumabのFDA承認後議論されているように 抗体医薬品は効果があってもコストが高く広く普及するにはハードルが高い)。


・公開されている情報を見る限り、これまでのワクチンとどう違うのかがわからなかった。アジュバントやペプチドデザインに工夫があるのだろうか?脳に入るほどの抗体量となると相当の抗体が誘導されないといけないが、果たしてそれほどの抗体が誘導されているのだろうか?いずれにせよ臨床で病態改善したかを見てみないとわからないことが多い領域なので、結果発表を待ちたい。

・モノクローナル抗体でうまく行っているPCSK9やCGRPはうまくいく確率は高いのかなと思う。こちらではなくよりハードルが高いアミロイドβやタウ、シヌクレインの方が先行しているのは、強気な姿勢だと思う。


キーワード:

・ペプチドワクチン

・アミロイドβ

・タウ

・シヌクレイン

・神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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