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Turn Biotechnologies (Mountain View, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第253回)ー

更新日:2022年2月13日

山中4因子などのリプログラミング因子を、mRNA+脂質ナノ粒子を用いて、タイミング・期間・投与量を厳密に制御して細胞に作用させることで、in vivo & in vitroで細胞のアイデンティティを保ったまま若返りさせる独自技術を開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://www.turn.bio/


背景とテクノロジー:

・エピゲノムとは、細胞がどのように機能するかを制御し、細胞の年齢を記録するものである。細胞はその寿命の間にエピゲノムに異常を蓄積し、それが遺伝子発現や細胞外シグナルの異常となり、最終的に細胞や組織の機能不全を引き起こす可能性がある。人工多能性幹細胞(iPSC)への核初期化プロセスは、完了時に由来細胞のエピジェネティックな景観が大きくリセットされ、細胞のアイデンティティと年齢の両方が胚に似た状態に戻ることが特徴である。iPSCへの核初期化は、初期化、成熟、安定化からなる多段階のプロセスである。


・iPSCでは、細胞は十分な量のリプログラミング因子に十分な期間さらされ、細胞のアイデンティティを消失させられる。これにより、肺や皮膚など特定の機能を持つ体細胞が、あらゆる種類の細胞に分化できる多能性幹細胞に効果的に変換される。一方で、リプログラミング因子の発現を一過性に行い、その後停止した場合、細胞は初期体細胞の状態に戻るということが知られている。


・一過性の初期化が老化の表現型を改善することを示す最初の証拠は、Ocampoらによって、Dox誘導性OSKMカセット(リプログラミング因子Oct4/Sox2/Klf4/c-Myc遺伝子を発現する)を持つ早老症モデルマウスで示された。この報告では、早老症モデルマウスにおいて、OSKMカセットの短期間の周期的発現による部分的初期化が、細胞および生理的老化の特徴を改善し寿命を延長させた。同様に、OSKMカセットを生体内で発現させると、高齢の野生型マウスの代謝性疾患や筋損傷からの回復が改善された。このように、細胞の初期化におけるエピジェネティックなリモデリングによって加齢に伴う表現型が改善されることが示された。


・老化研究の世界的第一人者の一人であるハーバード大Prof. David A. Sinclairらによって創業されたバイオベンチャーLife Biosciencesでは、山中4因子のうちの3つのたんぱく質Oct4, Sox2, Klf4を発現させ、エピゲノムを若々しい状態に戻す独自の遺伝子治療法の開発を行っている。Prof. Sinclairらの報告によると、この遺伝子治療は、緑内障モデルマウスおよび加齢に伴う視力低下マウスにおいて、視力を回復させることを確認している(参考)。


・今回紹介するTurn Biotechnologiesは、共同創業者の一人であるスタンフォード大学のDr. Vittorio Sebastianoらによって見出された、若返り因子による老化改善遺伝子治療法の開発を行っているバイオベンチャーである。

・Turn Biotechnologiesの独自技術であるEpigenetic Reprogramming of Age (ERA™)は、細胞のアイデンティティを維持したまま、特定の細胞の機能性若返りを誘導し、加齢に伴う疾患と闘う能力を回復させる技術(パーシャルリプログラミングと言われる)である。ERA™では、細胞が(OSKMカセットなどの)転写因子にさらされる量とタイミングが慎重に制御され、iPS細胞よりも制限される。ゴールは、細胞のアイデンティティを維持しつつ、エピゲノム(細胞の機能を制御し、細胞の年齢を記録する)の「時間を戻す」ことによって、細胞の有効性を回復させることである。mRNAを用いて一過性の細胞初期化法により、エピジェネティックな細胞同一性の消失が起こっていない初期段階において、幅広い老化の特徴を非常に迅速に回復させる。転写因子の投与時間、期間、投与量を慎重に制御し、各適応症に応じたmRNAカクテルを最適化している。細胞に転写因子を注意深く作用させることで、エピゲノムを一歩ずつ若々しい状態へと移行させ、リプログラミングをコントロールすることができる。エピゲノムをより元気な状態へと導き、患者さんを守りながら、着実に細胞の機能性を回復させる。


・静止状態の幹細胞を使用することで、特定の種類の損傷した組織の修復や置換に大きく役立つことが分かってきている。しかし、これらの幹細胞の静止状態を維持し、活性化、増殖、分化を見越した態勢を確保する技術が必要となる。Turn Biotechnologiesは独自技術であるArtificial Niche (AN) テクノロジーを開発している。ANテクノロジーは、幹細胞生物学と生体分子材料工学、微細加工技術を組み合わせ、ニッチの重要な生化学的・構造的側面を模倣した新しい細胞培養プラットフォームを生成するものである。


・Turn BiotechnologiesのANテクノロジーは、マイクロ環境で維持された筋幹細胞(MuSCs)が、移植後の生着、組織再生、自己再生の可能性を高めることを見出している。加齢マウスモデルにおいて、ANとERA技術を組み合わせて加齢幹細胞を再生させた場合、その効果は増大し、併用療法を施した加齢MuSCsは、若いドナーから移植したMuSCsと同様に加齢による筋機能障害(筋力低下など)を完全に再生することが示されている。


Nature Biotechnologyの記事によるとTurn Biotechnologiesは、皮膚に着目しているとのこと。創傷治癒の障害といった加齢に伴う深刻な問題だけでなく、美容上の適応にも可能性があると考えている。また、皮膚へのアクセスが容易であり、皮膚に関する詳細な知識があれば、翻訳を加速させることができるとも述べている。Turn Biotechnologiesは、Oct4、Sox2、Klf4、Oct-4、LIN28、NANOGの6つの初期化因子のカクテルに基づくmRNAを、脂質ナノ粒子をベースにして送達する方法を開発している。これらの因子は外部から制御できないが、Turn Biotechnologiesの外来mRNAの半減期が短いので、その活性は数日にとどまると考えている。Turn Biotechnologiesが追求しているもう一つの選択肢は、生体外で細胞を再プログラムすることで、患者に戻す前に研究室が細胞の品質管理を行うことができる。


パイプライン:詳細未開示

TRN-001

皮膚疾患。非臨床研究(in vivo)段階。


TNR-003

変形性関節症・軟骨損傷。非臨床研究(in vitro)段階。


TRN-004

眼疾患。非臨床研究(in vivo)段階。


TNR-005

筋肉疾患。非臨床研究(in vivo)段階。


コメント:

・in vitroで体細胞に山中4因子を作用させても、全ての細胞がiPS化できるような技術はまだ開発されていない(リプログラミング効率は上がってきているが)。Turn Biotechnologiesはタイミング、期間、投与量を厳密に制御することで細胞を若返りさせられるというコンセプトだが、現状の技術限界を見る限り、意図したとおりに遺伝子発現させられても全ての細胞を若返りできるような技術にはなっていないだろうと考えられる。つまり遺伝子発現はしているが、思い通りにコントロールできていない細胞が混在する(大多数?)状態になる。機能的に十分な効果が出るかどうかが注目される。


・上記のように、遺伝子発現はできているのに、若返りできていない細胞が混在する可能性がある。このような場合に安全性は非常に慎重に見ていかないといけないだろう。Turn Biotechnologiesの場合は、mRNAを用いて短期的にしか遺伝子発現しないとのことだが、リプログラミング因子を発現させれば、エピジェネティック的には恒常的な変化が起こっている可能性があり、その影響はやはり長期的に見ていく必要があるだろう。


キーワード:

・若返り(リプログラミング)

・エピジェネティクス

・山中4因子

・遺伝子治療(mRNA)

・DDS(脂質ナノ粒子)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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