現在注目されているRNAをターゲットとした低分子化合物創薬の技術プラットフォームを持つバイオベンチャー。がんおよび神経疾患を適応とした創薬を行っている。
ホームページ:https://rgentatx.com/
背景とテクノロジー:
・RNAスプライシングは、成熟したメッセンジャーRNA(mRNA)やその他のRNA種を生成する上で必須のステップである。スプライソソームによるメッセンジャーRNA前駆体(プレmRNA)のスプライシングは、核でコードされたほとんどの真核生物遺伝子の翻訳前に起こる必須のプロセシングステップである。過去20年間、遺伝子またはエクソン特異的スプライシング修飾剤が、脊髄性筋萎縮症(SMA)、デュシャンヌ型筋ジストロフィー(DMD)などいくつかのヒト疾患状態の治療のために開発されている。また、17番染色体に関連する前頭側頭型認知症およびパーキンソニズム(FTDP-17)、酵母感染症、家族性自律神経失調症などの疾患に対する前臨床医薬品開発も行われている。これらの化合物は、従来のたんぱく質標的の薬物様式ではなく、プレmRNAに直接結合することで作用する。
・RNAスプライシング調節薬は以下の2つの状況で使用もしくは使用が試みられている。
①異常なRNAスプライシング、早期停止コドン、または読み取りフレームシフトを誘発する変異に起因する疾患。これらの疾患の治療には、スプライシングを調節することによって、ミススプライシングを修正したり、破壊されたオープンリーディングフレームを回復させたりすることが有望な戦略となる。例としては、DMD、SMA、FTDP-17などの希少遺伝性疾患が挙げられる。
②異常スプライシング、ナンセンス、またはフレームシフト変異によって引き起こされない疾患。スプライシングの調節によって、特定の遺伝子アイソフォームの発現レベルの低下につながり、最終的に疾患状態を緩和する可能性がある。このカテゴリーには、様々な感染症が含まれる。
・臨床的に有効なスプライシング修飾薬には、①アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と②低分子化合物の2つの主要なクラスがある。
①アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)
ASOは、RNAスプライシングを調節するための現在のゴールドスタンダードである。RNA干渉(RNAi)が二本鎖(ds)RNAを用い、RNA-induced silencing complex(RISC)を介して標的プレmRNAを分解するのに対して、ASOはワトソン-クリック塩基対形成を介して標的プレmRNAに直接結合して作用するssDNA/RNAである。このようなシス作用調節要素への化学量論的結合は、プレmRNA配列がスプライシング調節たんぱく質をリクルートするのを妨げたり、スプライシング調節RNA構造の平衡を変化させたりする。したがって、ASOがスプライシングエンハンサー配列(ESEまたはISE)に結合するとスプライシングが阻害され、一方、ASOがスプライシングサイレンサー配列(ESSまたはISS)に結合するとスプライシングが活性化されることになる。スプライシング修飾薬の他に、ASOはRNase H依存性のRNA分解を誘導する化学遺伝学的ツール またはリボソーム集合に対する立体障害として使用することも可能である。
一般に、ASOの細胞への取り込みは悪く、これがその応用の本質的な限界である。特に課題となるのはASOが血液脳関門を通過することができないことである。SMAの治療薬としてFDAに承認されたASOであるヌシネルセンは、中枢神経系の運動ニューロンに作用するために、脳脊髄液への髄腔内注射によって投与されなければならない。また、長いASOの免疫原性は、治療用途としては課題であり、医薬品開発において注意深くモニターされる必要がある。
②低分子化合物
細胞透過性のRNA標的低分子化合物は,スプライシングを調節するための新たな薬理学的手段である。Risdiplamは、SMAの治療薬としてFDAに承認された最初の低分子スプライシング調節薬である。Risdiplamは血液脳関門を容易に通過し、経口薬として処方されている。また、Risdiplamは、非リボソームRNAに結合して作用する初めての薬として承認されている。
・今回紹介するRgenta Therapeuticsは、プレmRNAとスプライソソーム(RNA結合たんぱくしつ:RBP)に結合することでスプライシングを調節する経口低分子化合物の開発を行っているバイオベンチャーである。スプライシングを調節することで、標的たんぱく質の発現を変化させる。がん、免疫、神経、希少疾患などを対象疾患とした創薬を行っている。
・現在、ヒトの疾病に関与するたんぱく質のうち、従来の低分子化合物開発アプローチで薬物投与が可能なものは4分の1に過ぎない。一方、疾患遺伝子のmRNAを直接標的とする新しいアプローチは、医薬品開発の前例のない機会を開く。Rgenta Therapeuticsでは、豊富なゲノムデータから、有効性が高く、特異性の高いRNA標的部位を探索する新しい方法を開発している。また、そのRNA標的部位を認識し、その機能(特に制御たんぱく質を介した機能)を調節する可能性の高い化合物ライブラリーを構築している。
・Rgenta Therapeuticsの保有する技術の特長は以下の通り。
①標的遺伝子における数千のユニークなmRNA/RBP/スプライソソーム相互作用を同定し、薬物介入を行う。
②RNA/RBP相互作用のために特別に設計された堅牢なHTSアッセイ。
③選択性を高めるためにカスタムデザインされたRNAターゲティング選択性パネル。
④RNA標的低分子化合物の設計原理とマルチパラメーター最適化
パイプライン:未開示
最近のニュース:
神経疾患の原因遺伝子のRNA制御およびスプライシングを標的とした低分子化合物の創製を目的とする戦略的研究開発提携をLundbeck と締結
コメント:
・Risdiplamの登場以降、非常に注目されているRNAをターゲットとした低分子化合物創薬。従来のたんぱく質をターゲットとした低分子化合物とは大きく異なるプロファイルの化合物ライブラリーが必要となる。Rgenta Therapeuticsは独自のRNAをターゲットとした化合物ライブラリーを保有している。
・特定のターゲット分子のプレmRNAースプライソソーム/RBPに作用する低分子化合物が数多く見つかるのだろうか?それらが経口投与できるプロファイルを持っているのだろうか?まだまだ未開拓なフィールドであり、未知数な部分が多い。
キーワード:
・プレmRNAをターゲットとした低分子化合物
・スプライシング
・神経疾患
・がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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