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Priavoid (Düsseldorf, Germany) ーケンのバイオベンチャー探索(第284回)ー

更新日:2022年11月27日


プロテアーゼ耐性と非免疫原性が知られているd-エナンチオマーペプチドをスクリーニングするプラットフォームを持ち、アルツハイマー病などの神経毒性凝集物質に対して阻害効果を持つペプチドを開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://priavoid.com/


背景とテクノロジー:

・ペプチドは生物学的活性が高く、毒性が低く、特異性が高いため、治療薬として有用であると考えられている。現在、数百種類のペプチド治療薬が開発され、数十種類のペプチドが臨床試験中である。その中には、がん、エイズ、アルツハイマー病、マラリア、抗菌剤などの治療において重要な役割を果たすと期待されるものもある。


・このような進歩にもかかわらず、ペプチド医薬品の開発は、その生体内での半減期の短さによって医薬品としての利用の大きな妨げとなることがある。この問題は、d-エナンチオマーペプチドの使用により、少なくとも部分的には克服することができる。一般に、天然のたんぱく質やペプチドはl-エナンチオマーアミノ酸で構成されており、通常、与えられたリガンドの1つのエナンチオマーだけを特異的に認識する結合部位を持っている。


・d-ペプチドはl-エナンチオマーペプチドと比較していくつかの利点がある。最も重要なことは、d-ペプチドはプロテアーゼに耐性があり、血清中や唾液中の半減期を劇的に長くすることができる。さらに、d-ペプチドは経口投与により全身に吸収される(その効率は配列に依存する)が、l-ペプチドは消化を避けるために注射しなければならない。d-ペプチドは保存期間が長く、化学合成されたものであるため、改変が容易である。しかし、大きなたんぱく質は合成が難しいので、合成の準備が必要なことはデメリットとなる。


・d-ペプチドがl-ペプチドに比べて免疫原性が高いか低いかはまだ明らかにされていない(あるいはケースバイケース)。一般に、l-アミノ酸からなるペプチドは、主要組織適合性複合体(MHC)クラスIIに制限されたヘルパーT細胞への提示のために処理され、活発な液性免疫応答を誘導する。このような利点から、近年、d-ペプチドを治療薬として応用することが検討されている(d-ペプチド以外の方法としてl-ペプチドのレトロインバーソ型を使用するアプローチもある。レトロインバーソペプチドは、アミノ酸の配列が逆になっており、伸長すると親分子と同様の側鎖トポロジーを持つが、アミドペプチド結合が逆になっているものである)。


・d-ペプチドからなるコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングが行われているが、多くの合成工程が必要であり,煩雑であると思われる。特定のターゲットに結合するd-ペプチドを得るための非常にエレガントで魅力的な方法として、鏡像ファージディスプレイがある。1990年に発明された一般的なファージディスプレイ法では、l-ペプチドライブラリーをファージ表面に提示し、与えられたターゲットたんぱく質に結合するl-ペプチドを(例えば、バイオパニングによって)選択する。鏡像ファージディスプレイでは、ペプチド標的のd-エナンチオマーを合成し、ファージディスプレイに使用する。


・d-ペプチドは天然たんぱく質と特異的かつ高親和性の相互作用を形成できることが示され,さらに,注射による投与やプロテアーゼ分解による高用量の要求など,現在のl-ペプチド阻害剤に関連する制限に対処していることが示されている。


・アルツハイマー型認知症は、細胞外にアミロイドβ(Aβ)線維からなるプラーク、神経細胞内に高リン酸化タウタンパク質線維からなる神経原線維変化、神経変性が病態の特徴で、2020年には世界の認知症患者数が5000万人を超えると推定されている。可溶性のAβオリゴマーは最も毒性の高い物質と考えられており、特にシナプス毒性および神経毒性を有すると報告されている。


・今回紹介するPriavoidは、Aβモノマーをその本来の、本質的に無秩序なコンフォメーションで安定化させるように設計された化合物を鏡像ファージディスプレイを用いて探索、開発しているバイオベンチャーである。この化合物は、Aβオリゴマーや他のAβアセンブリを不安定化し、最終的にそれらを直接分解して、ネイティブなAβモノマーにする。この作用機序を実現するために、Priavoidは、プロテアーゼ耐性と非免疫原性が知られている全d-エナンチオマーペプチドを使用している。


・リード化合物のD3は、鏡像ファージディスプレイによって選択され、ADモデルマウスにおいて経口投与でもAβ凝集と神経炎症を抑制し認知機能を改善することが示されている。それ以降、D3 の結合特性や薬物動態特性を最適化するために、数多くの誘導体が開発されている。最も有望かつ臨床的に最も進んだ候補としてRD2 を見出している。RD2 の経口投与は、AD の異なるモデルマウスにおいて認知機能を改善し、病態が本格化した老齢マウスにおいても改善した。後者の研究において、 RD2 投与によって脳ホモジネートの表面蛍光強度分布解析 (sFIDA) で測定した Aβオリゴマー濃度が著しく低下することが示されている。


パイプライン:

PRI-002

アミロイドβをターゲットとする。

開発中の適応症

・Phase I

アルツハイマー病

PRI-100

αシヌクレインをターゲットとする。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

パーキンソン病

PRI-200

タウをターゲットとする。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

アルツハイマー病、タウオパチー(タウ蛋白の異常が見られる疾患の総称)


コメント:

・エーザイ/Biogenのアミロイドβ抗体レカネマブが軽度アルツハイマー病を対象としたPhase III治験で認知機能改善効果を示したことから、アミロイドβをターゲットとした創薬が再び注目されている。PriavoidのPRI-002のコンセプトはアミロイドβオリゴマーをモノマーにするペプチドだが、レカネマブはアミロイドβ線維を除去する抗体というコンセプト。PRI-002のコンセプトでも認知機能改善効果が見られるのかが注目。

・d-ペプチドは経口投与可能で、血液脳関門を透過できるものを作れるとのことだが、どの程度の効率なのだろうか?マウスでは効果が出ているようだが、血液脳関門は種差がある可能性があるので、臨床結果がどうなるのかも注目。

・プリオン発見者でノーベル賞学者のスタンリー・プルシナーがPriavoidのsupervisory boardに加わっている。


キーワード:

・ペプチド創薬(d-ペプチド)

・神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病)

・鏡像ファージディスプレイ


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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