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OptiKira (Cleveland, OH, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第203回)ー

更新日:2021年2月14日


小胞体ストレスのセンサーたんぱく質IRE1αのキナーゼ阻害型RNaseアテニュエーター(減衰薬)(KIRA)低分子化合物を発見したカリフォルニア大学サンフランシスコ校のProf. Feroz Papaらが創業したバイオベンチャー。糖尿病や線維症治療薬としての開発を行っている。



ホームページ:http://www.optikira.com/


背景とテクノロジー:

・新しく合成されたたんぱく質は、正しい立体構造を取るようにフォールディングされ、翻訳後修飾される。分泌たんぱく質や細胞膜たんぱく質は、細胞内小器官の一つである小胞体内で、小胞体固有の活性によって触媒される反応によって折りたたまれ、組み立てられる。しかし、細胞が低酸素や低栄養などの条件にさらされたり、ウイルス感染などによるたんぱく質の大量合成、遺伝子変異によるたんぱく質合成の異常などの現象が起こると、小胞体機能の限界を超え、正常な立体構造がとれないたんぱく質が蓄積する。このような状態になると細胞は「ERストレス(小胞体ストレス)」を経験し、小胞体に蓄積された異常たんぱく質が、アンフォールドたんぱく応答(UPR)と呼ばれる細胞内シグナル伝達経路を誘発する。UPRは、翻訳を阻害する一方で、ERシャペロン、酸化還元酵素、およびER関連分解(ERAD)成分をコードする遺伝子の転写を誘導する。これらの現象は、ERタンパク質の折りたたみ能力を高め、ERアンフォールドたんぱく質の分解を促進する、細胞の適応機構を引き起こす。しかし、小胞体ストレスが不可逆的に高いままで、適応機構が圧倒されると、代替的に「terminal UPR」シグナルがアポトーシスの引き金となる。高小胞体ストレス下での細胞死は、不適切に折り畳まれたたんぱく質への曝露から生物を保護するかもしれないが、糖尿病および網膜症などの多くのヒト変性疾患は、過剰な小胞体ストレス誘発性の細胞死によって引き起こされる可能性がある。terminal UPR シグナル伝達イベントのメカニズムを理解することは、このような疾患に対する効果的な治療法につながる可能性がある。


・小胞体ストレス下では以下のような適応機構のシグナル経路が活性化される。

小胞体のアンフォールドされたたんぱく質は、PERK、ATF6、IRE1αの3つのER膜貫通センサーを活性化させる。中でも最も古くから研究されているIRE1αは、ストレス時にオリゴマー化するIRE1αのER内腔ドメインを介して、アンフォールドされたタンパク質を直接または間接的に感知する。その後、IRE1αのキナーゼ/エンドリボヌクレアーゼ(RNAを内部で切断する酵素)二機能性活性が細胞質面で並置される。キナーゼの自己リン酸化はIRE1αの エンドリボヌクレアーゼ を活性化し、Xbp1 mRNAから短いヌクレオチドフラグメントを除去して機能的転写因子XBP1を生成する。この転写因子によって、ERたんぱく質のフォールディングと品質管理を強化するたんぱく質を発現させる。


・しかし、高い小胞体ストレス下では、IRE1αのエンドリボヌクレアーゼ は、その基質特異性を緩和してER膜に局在するXBP1以外の多くのmRNAをに切断する。IRE1αのエンドリボヌクレアーゼ はまた、アポトーシスを阻害するmicroRNAの前駆体を切断し、様々な炎症性および線維化促進の経路を活性化するとともに、細胞のアポトーシスを誘導する(terminal UPR)。IRE1αはUPRのマスターレギュレーターであり、細胞応答を適応機構経路またはterminal UPR 経路に向けて誘導します


・上記のように、この過剰な小胞体ストレス誘発性の細胞死は糖尿病や網膜症などのヒト変性疾患の原因となっている可能性から創薬ターゲットとして注目されている。今回紹介するOptiKiraの科学的創業者は、terminal UPR 経路を阻害できるIRE1αのキナーゼ阻害型RNaseアテニュエーター(減衰薬)(KIRAs:kinase-inhibiting RNase attenuators)を見出した(参考)。これらの低分子化合物は、IRE1αのオリゴマー化を阻害し、そのエンドリボヌクレアーゼ をアロステリックに阻害する。これらの化合物が、肺線維症、糖尿病、網膜色素変性症の動物モデルにおいて、細胞を変性から保護できることを実証している。OptiKiraではこの化合物を発展させ、薬として開発可能な経口投与し全身に作用できる低分子化合物を見出し、線維症、糖尿病、神経変性疾患、その他の免疫疾患の治療薬候補として開発している。


パイプライン:詳細未開示

IRE1αキナーゼ阻害型RNaseアテニュエーター(減衰薬)

詳細は上記”背景とテクノロジー”欄に記載。

開発中の適応症

・ステージ不明

線維症、糖尿病、神経変性疾患、その他の免疫疾患


コメント:

・線維症、糖尿病、神経変性疾患パーキンソン病、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症など)のすべての患者さんに共通して小胞体ストレスが見られるのではないだろうか。小胞体ストレスが亢進している患者さんとそうでない患者さんを層別化するバイオマーカーがあると成功確率が上がるのではと思われる。


・このKIRAという化合物は、IRE1-αのエンドリボヌクレアーゼ活性を、キナーゼドメインを介して離れた場所から(アロステリックに)制御することができる。創業メンバーのUCSFのProf. Feroz Papaのグループは、IRE1-αの特定の低分子キナーゼ阻害剤の中に、エンドリボヌクレアーゼ活性を上昇させる化合物(タイプI)や、減衰させる化合物(タイプII、こちらがKIRA)があることを報告している(こちら)。


・小胞体ストレス反応の中でも、細胞死を引き起こすterminal UPRを止めるが、異常たんぱく質の蓄積を防ぐ適応機構は止めないという絶妙なバランスを持つ薬が必要となる。ただ、神経変性疾患などでは、異常たんぱく質の蓄積が進んでいることから、細胞死を止めるだけでなく、異常たんぱく質の除去機構を活性化させる必要がある可能性がある。非常に制御が難しそうだ。


キーワード:

・小胞体ストレス

・低分子化合物

・糖尿病、線維症


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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