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MOMA Therapeutics (Brighton, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第257回)ー

更新日:2022年3月13日


Brandeis UniversityのProf. Dorothee Kernら生物物理学のトップサイエンティストグループによって創業された、ATPaseなどの分子機械をターゲットとした低分子創薬を行っているバイオベンチャー。合成致死を引き起こすがん治療薬の創製を目指している。


ホームページ:https://momatx.com/


背景とテクノロジー:

・分子機械(Molecular Machine)は、細胞の労働者である。 分子機械は、細胞のエネルギー通貨であるATPの加水分解を燃料とする「構造駆動型」エンジンであり、その構造を協調的かつ段階的に変化させることで力と動きを生み出し、仕事を成し遂げる。分子機械たんぱく質ファミリーは、400以上のメンバーから成り、細胞内の多くの重要なプロセスを支配している。例えば、遺伝情報の維持と発現を制御するDNAヘリカーゼやクロマチンリモデラー、ウイルスの感知とパターン認識を仲介するRNAヘリカーゼ、細胞内や膜を越えて生体分子を移動させるトランスポーターなどである。


・最近の遺伝学と機能ゲノミクスの進歩は、未だ満たされていない医療ニーズに応えるために、分子機械の重要な役割を明らかにしつつある。がんにおいては、CRISPRスクリーニングにより、腫瘍の変異が成長と生存を分子機械に強く依存させる多くの事例が明らかになりつつある(「合成致死」)。 同様に、稀な遺伝子疾患では、分子機械自体の点変異により、機能が変化したり、不十分であったりすることがある。実際、細胞の分子機械の半分以上が、ヒトの病気の原因となりうる変異を有していることが示されている。 このような場合、装置の機能を回復させることが、有力な治療法となる。

・このコンセプトを代表する承認薬として、変異によって病気を引き起こす分子機械である嚢胞性線維症トランスポーターの調節薬がある。Vertex PharmaceuticalsのIvacaftor(商品名Kalydeco)はATPaseクラスの酵素である cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) の増強薬である。現在までのところ、分子機械を標的とする承認薬はほんの一握りである。その他の例としては、H+/K+ ATPaseを標的とするオメプラゾール、トポイソメラーゼIIを阻害するエトポシドなどがある。これらの医薬品は、これらの酵素の治療の可能性をさらに強調するだけでなく、分子機械をターゲットとした創薬の可能性を示している。ほぼすべてが天然物から、セレンディピティによって、あるいはたんぱく質自体の生化学を調べるための体系的アプローチなしに発見されたものである。

・今回紹介するMOMA Therapeuticsは、分子機械研究の第一人者の一人であるBrandeis UniversityのProf. Dorothee Kern、低温電子顕微鏡と構造生物学の分野のパイオニアであるカリフォルニア大学バークレー校のProf. Eva Nogales、分子機械とゲノムメンテナンスの分野のリーダーであるハーバード大学のProf. Johannes Walterら、世界トップクラスの研究者によって設立されたバイオベンチャーである。分子機械の創薬に特化したプラットフォームを確立することを目標に、このクラスのすべての酵素に固有の重要な脆弱性、すなわち、たんぱく質構造の協調的かつ段階的な変化に依存することに着目した創薬をおこなっている。

・MOMA Therapeuticsでは、分子機械のすべての構造状態を調査して、低分子結合薬を特定するアプローチを行っている。これにより、酵素の秩序ある構造サイクルを阻害することで機能に影響を与える化合物を同定することができると考えている。クライオ電子顕微鏡によるたんぱく質の立体構造の可視化、最新の化学スクリーニングによるヒット化合物の創出、生物物理学・生化学・計算機による化学物質の特性評価と進化を駆使し、患者さんのための革新的新薬の発見と開発に特化した研究を行っている。


パイプライン:未開示


コメント:

・生物物理学では、分子一つ一つの機能を明らかにし、それをパーツとして捉え、パーツを組み立てて生物(細胞)を作り上げていくアプローチが一つの研究領域となっている。そこではATPaseは主要なパーツの一つであり、多くの生物物理学者が着目して研究を行っている。MOMA Therapeuticsは、そんな生物物理学者たちが集まって作られたバイオベンチャーであり、多くのバイオベンチャーとは異なった視点を持った創薬を行っている。こういうタイプのバイオベンチャーからどんな薬が作られるのか注目される。



キーワード:

・分子機械(ATPase)

・精密医療

・合成致死

・低分子化合物

・構造生物学


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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