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Lyell Immunopharma (South San Francisco, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第237回)ー

体外(ex vivo)で遺伝子発現操作やエピジェネティック操作を施すことで、T細胞の疲弊抑制や、持続的な幹細胞性(T細胞の継続的な増殖能力、自己再生能力、固形がんを排除するエフェクター状態への分化能力)の維持を誘導する独自技術によって、固形がんに適用可能な養子細胞免疫療法の開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://lyell.com/


背景とテクノロジー:

・免疫系を利用してがんを治療するがん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬が一部の患者さんで著効したことから近年注目を浴びている。だが、がん免疫療法には古くから行われている治療法として、養子細胞免疫療法がある。 がん患者さんのT細胞は活性化しているという推測から、患者さんのT細胞を取り出し、体外でさらに活性化・増殖させた後、体内に戻し免疫反応の増強を狙う治療法である。この治療法は一部の患者さんでは効果が見られたが、多くの患者さんには治療効果が見られなかった。そこで、この治療法を発展させ、患者さんから取り出したT細胞に対して、体外においてCAR(キメラ抗原受容体)を遺伝子導入した上で体内に戻したのがCAR-T療法である。これが特に血液がんにおいて非常に高い治療効果が見られたために、注目を浴びている。


・しかし、CAR-T療法は現在のところ、固形がんに対しての治療効果は限定的と言われている。それは、固形がんがより複雑で、免疫系を回避し、最終的に免疫系を克服するための複数のメカニズムを進化させているためだと考えられている。


・今回紹介するLyell Immunopharmaは、固形がんに対する養子細胞免疫療法 の開発を行っているバイオベンチャーである。Lyell Immunopharmaでは、T細胞の疲弊と持続的な幹細胞性の欠如(T細胞の継続的な増殖能力、自己再生能力、固形がんを排除するエフェクター状態への分化能力の喪失)が、固形がんに対する養子細胞免疫療法 の有効性を制限する2つの大きな障壁であると考え、新たな治療法の開発を行っている。その独自技術プラットフォームは、Gen-RおよびEpi-Rと名付けられている。

Gen-R:T細胞が機能不全状態に分化する際に生じる転写およびエピジェネティックな変化に起因するT細胞の枯渇を克服するための、独自の生体外遺伝子再プログラム技術。

Lyell Immunopharmaの共同創業者は、T細胞の疲弊が、CAR -T細胞が有効性を示している血液がんよりも固形がんでより頻繁に起こることを発見した。Gen-Rの発見は、T細胞が慢性的な抗原刺激を受けている場合や 、T細胞が常に「オン」の状態で、免疫抑制的な固形腫瘍微小環境(TME)と組み合わさると、T細胞の疲弊が促進される可能性が高いという認識から、Gen-Rを開発した。Gen-Rとは、前臨床の固形がんモデルにおいて、T細胞の疲弊に重要な役割を果たすことが明らかになっているc-JUNを最適に過剰発現させることで、T細胞の疲弊を克服し、抗腫瘍活性を回復させる技術である。

Epi-R:耐久性のある幹細胞性を持つ新しいT細胞集団を作り出す、独自の生体外エピジェネティック再プログラム技術。

ここで言う幹細胞性とは、自己再生、増殖、持続、抗腫瘍効果などの能力を持つT細胞の性質のことで、これまでに免疫療法の臨床効果との関連性が報告されている。しかし、固形がんに対する長期的な効果を得るためには、持続性のある幹細胞性が必要であると考えている。持続性のある幹細胞性とは、がんが消滅するまでT細胞がその幹細胞性を維持する能力、すなわち、がんからの持続的なシグナルによって活性化、増殖、分化が促進されているにも関わらず、T細胞が自己複製する能力を有することを意味する。また、これらの細胞が増殖することで、多機能なエフェクター細胞に分化したり、分化の進んでいないT細胞の集団を再増殖させたりする子孫細胞が生成され、それによって幹細胞性が維持されると考えている。Epi-Rは、このような永続的な幹細胞の特性を持つT細胞集団を意図的かつ再現性よく生成するように設計されている。さらに、腫瘍浸潤リンパ球 TILに関連して、Epi-Rを適用することで、増殖中にポリクローナリティが増加し、多様な腫瘍ネオアンチゲンを標的とする能力を維持したT細胞の調製物が生成される。

・Lyell Immunopharmaでは、Gen-RおよびEpi-R技術プラットフォームを活用して、マルチモダリティ製品のパイプラインを開発しており、2022年末までに4つのIND申請を予定している。


パイプライン:

LYL797

ROR1を認識して結合するウサギの抗R12抗体に由来する一本鎖の可変フラグメントと、独自に最適化した上皮成長因子受容体(EGFRopt)の安全スイッチを持つ、ROR1を標的とした静脈内投与の自家移植CAR -T細胞製品。Gen-RとEpi-R技術を用いている。

ROR1の発現は予後の悪さと関連している。また、一般的ながん患者のかなりの部分がROR1を発現しており、ROR1の発現率が最も高い2つの適応症であるトリプルネガティブ乳がん(約60%)および非小細胞肺がん(約40%)もその一例である。

開発中の適応症

・前臨床研究段階(2022年第1四半期IND申請予定)

ROR1陽性の非小細胞肺がん、トリプルネガティブ乳がん、その他固形がん


LYL845

Epi-R技術を用いて作製された自家移植の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL)。

現行のTILを用いた治療法の有効性は、腫瘍反応性T細胞の貧弱な濃縮、増殖したT細胞の質と増殖力の低さ、TILの製造時にポリクローナリティを維持できないことによって制限されていると考えられる。LYL845は、独自技術であるEpi-R技術を取り入れて設計されており、T細胞の力価、抗腫瘍活性、TILのポリクローナリティが向上する。

開発中の適応症

・前臨床研究段階(2022年後半IND申請予定)

メラノーマ、子宮頸部、頭頸部、膵臓、乳房、大腸、非小細胞肺がんなどの固形がん


NY-ESO-1(GSK3377794)

NY-ESO-1抗原を認識するT細胞受容体を発現するT細胞製品。Gen-RもしくはEpi-R技術もしくはその両方を用いる。詳細不明。GSKとの共同研究開発を行っている。

開発中の適応症

・前臨床研究段階(2022年前半IND申請予定)

滑膜肉腫、その他固形がん


最近のニュース:

GSKと、がん患者さんのための細胞治療を向上させるための新技術の開発を目的とした5年間の共同研究を締結。Lyell Immunopharmaの技術を応用して、複数のがん種に発現するNY-ESO-1抗原を標的とする、GSK3377794をはじめとするGSKの細胞治療パイプラインを強化。


コメント:

・Epi-R技術についてはどのような技術なのか詳細は明らかにされていない。エピジェネティクスを制御する技術とのことだが、T細胞の幹細胞性を維持するということで、最近流行の細胞の若返りを起こす技術だろうか?


・CAR-T細胞療法の固形がん応用は非常に競争が激しい。この会社の独自技術の詳細はわからないが、LYL797はROR1抗原を発現しないがん細胞があれば抵抗性が出る可能性があるし、LYL845は患者さん自身のT細胞ががん抗原を認識できないと効果が低い可能性がある。固形がんの多様性に対応できるかどうかは未知数では?


キーワード:

・細胞治療(CAR-T療法)

・固形がん

・T細胞疲弊

・エピジェネティクス


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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