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Longevity Biotech (Philadelphia, PA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第152回)ー


非天然アミノ酸によるペプチドミメティクス(ペプチド模倣物)を使った独自のペプチド創薬技術Hybridtides® を用いて神経疾患、糖尿病、がんの創薬を行っているバイオベンチャー





背景とテクノロジー:

・生体内ではたんぱく質とたんぱく質が相互作用して反応が進み(たんぱく質ーたんぱく質間相互作用)、機能を発揮している現象が数多く見られ、信号伝達系、輸送、代謝などほぼ全ての細胞機能に関与している。たんぱく質ーたんぱく質間相互作用を調節することによる創薬の例としては、PD-1たんぱく質とPD-L1たんぱく質の結合による免疫チェックポイント機構を、抗体を用いて阻害するがん免疫治療薬などがある。


・これまで、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用を調節する方法は限定されていた。低分子化合物はたんぱく質のポケットと呼ばれる構造部分に結合し、そのたんぱく質の機能を調節するが、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用の場合、たんぱく質とたんぱく質の相互作用領域は広い場合が多く、低分子化合物によるポケット部分への結合では十分に相互作用を調節することができなかった(最近はたんぱく質ーたんぱく質相互作用を阻害する低分子化合物の開発も進められている。こちらのpdfを参照)。


・近年のモダリティ多様化により、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用を阻害・ミミックする方法として抗体・ペプチドなどの高分子医薬品を用いた方法が開発されてきている。高分子であれば、たんぱく質とたんぱく質の相互作用領域を広くカバーすることが可能なためである。


・抗体医薬品はこれまでの低分子化合物では難しかったターゲット分子に対して作用できたため、多くの新たな医薬品が作られた。一方で抗体医薬品はその性質上、細胞内のターゲット分子に作用することができないため、細胞外のターゲット分子に限定されるという限界がある(最近は細胞内に入る抗体も開発されてきている。こちらのpdfを参照)。また、抗体では受容体に対するアゴニスト作用を持つものを作ることも難しい。


・そこでペプチドを用いて、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用を阻害したり、たんぱく質(受容体など)に対してアゴニストとして働く創薬が進められている。ペプチドは生体内に存在するため生体適合性が高く、ターゲット分子のたんぱく質との親和性も高い。しかし、ペプチドは生体内において安定性が悪かったり、分解されやすいなどの問題点がある。


・これらのペプチド創薬の問題点を解決するためにさまざまなアプローチがなされているが、その一つにペプチドフォルダマーという技術がある。ペプチドフォルダマーとは、非天然アミノ酸をつなげてオリゴマーを作ることで、一定の2次構造を取ることができるペプチド(ペプチドミメティクス(ペプチド模倣物))のことである。このペプチドフォルダマーにたんぱく質−たんぱく質間相互作用を阻害したり、たんぱく質/ペプチドと類似活性を持つものがあり、創薬応用が試みられている。


・今回紹介するLongevity Biotechは、1996年に低分子をオリゴマー化して2次構造をとるものをフォルダマーと命名したウィスコンシン大学のProf. Samuel H Gellmanらによって創業されたバイオベンチャーである。Longevity Biotechは、α−アミノ酸とβ−アミノ酸を組み合わせた独自のペプチドフォルダマー技術Hybridtides® を用いて神経疾患および糖尿病に対するペプチドミメティクス創薬を行っている。


・α−アミノ酸とβ−アミノ酸を組み合わせたペプチドフォルダマーは安定した2次構造を持ち、生体内においてもプロテアーゼによる分解に抵抗性を持つ。また非天然アミノ酸によるペプチド(ペプチドミメティクス)でありながら、MHC分子や抗体を介した免疫応答も引き起こしにくい。


・Longevity Biotechではデータ駆動型のハイスループットプラットフォームであるOral Peptide Platformを用いて、経口で体内に吸収されるペプチドフォルダマーの探索を行っている。


・Longevity Biotechでは、たんぱく質の異なる状態(Open vs. Closed)を標的に出来ることに加えて、GPCRの2つの下流経路(cAMP経路とβアレスチン1/2経路)を調節するHybridtides®を作るArtisan Biologyという独自技術を持つ。



パイプライン:

LBT-3627

VPAC2(血管作動性腸管ペプチド受容体2、VIP)に作用する選択的アゴニストのHybridtides®。末梢血中の制御性T細胞を活性化し免疫を調節することにより神経保護作用を持つ。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

パーキンソン病


LBT-6030

Glucagon-like peptide-1 (GLP-1)とGastric inhibitory polypeptide receptor (GIP)のデュアルアゴニストのHybridtides®。Oral Peptide Platformを用いて経口での投与を検討している。GLP-1アゴニストはすでに他社よりII型糖尿病薬として販売されている(エキセナチドリラグルチド)。GIPは体重減少と関係があることが期待される。LBT-6030は、上記「背景とテクノロジー」欄に記載したArtisan Biologyを用いて創製している。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

糖尿病


パーキンソン病のバイオマーカープログラム

詳細不明。免疫系と神経系の関係を調べるためのバイオマーカーについて臨床試験進行中。


・その他

Fusion阻害剤LBT-5001やがん治療薬プログラムが進行中。



コメント:

・詳細は不明だが、Artisan Biologyとはバイアスドリガンドと似たような、GPCRの2つの下流経路(βアレスチン非依存経路とβアレスチン依存経路)のうち、片方だけのシグナルを活性化する技術ではと推測される。バイアスドリガンドによる創薬としてはTrevenaがあるが、Trevenaは低分子化合物を用いているのに対して、Longevity Biotechはペプチドミメティクスを用いているという違いがある。


・Longevity Biotechのペプチドフォルダマーはα−アミノ酸とβ−アミノ酸の組み合わせだが、組み合わせ次第で2次構造が不安定になったり、生物活性がなくなってしまったりするようだ。作るのにノウハウがかなり必要な感じに見受けられる。


・現状のパイプラインを見る限りは細胞外のターゲット分子に対する創薬を行っていて、細胞内ターゲット分子に体する創薬は行われていない。ペプチドフォルダマーで細胞内透過性を持つものは報告があるのだが、まだいろいろ問題があるのだろうか(安全性など?)。



キーワード:

・ペプチドミメティクス

・神経疾患(パーキンソン病)

・糖尿病



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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