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Libella Gene Therapeutics (Manhattan, KS, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第195回)ー

更新日:2020年12月30日


テロメラーゼ発現アデノ随伴ウイルスベクターを用いたアルツハイマー病、老化に対する治療法を開発しているバイオベンチャー



背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病やパーキンソン病は、高齢化に伴い先進国を中心に患者数が増加しており、問題化してきている。しかし、今のところ緩和治療が中心で根本的な治療薬は存在しない。アルツハイマー病の原因遺伝子としてはアミロイド前駆たんぱく質(APP)遺伝子やプレセニンリン遺伝子、パーキンソン病の原因遺伝子としてはαシヌクレイン遺伝子やパーキン遺伝子、LRRK2遺伝子などが報告されているが、原因遺伝子に異常がない孤発性患者さんがほとんどである。これらの疾患の一番のリスクファクターは「加齢(老化)」であることから、近年の老化研究の進展から加齢に着目した治療法の開発が進んできている。


・ただ、老化研究からの治療薬開発を目指しているバイオベンチャーでは、変形性膝関節症やがんを最初の適応症とするケースが多く、アルツハイマー病やパーキンソン病という代表的な加齢性疾患への適応は、適応拡大や将来的な展望に含まれていることが多い(参考:加齢性疾患バイオベンチャー紹介ページ)。


・今回紹介するLibella Gene Therapeuticsは、加齢性疾患に対する遺伝子治療法の開発を行っているバイオベンチャーであり、アルツハイマー病を適応としたPhase I治験をすでにスタートさせている。真核生物の染色体末端(テロメア)の特異的反復配列を伸長させる酵素テロメラーゼのサブユニットであるテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた加齢、アルツハイマー病、重症虚血肢治療の臨床開発を行っている。


・テロメアは、染色体の末端にある異色の保護構造であり、シェルテリンとして知られる6つのタンパク質複合体によって結合したTTAGGGリピートから構成されている。テロメラーゼは逆転写酵素であり、染色体末端にテロメアリピートを付加することでテロメアを伸長させることができる。テロメラーゼは2つの必須サブユニット、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)とテロメラーゼRNAコンポーネント(Terc)で構成されており、テロメアリピートの合成のためのテンプレートとして使用される。


・幹細胞を含む成人組織は、組織再生および細胞分裂に伴うテロメア短縮を補うのに十分なテロメラーゼ活性を有していない。テロメアが決定的に短い長さに達すると、テロメアにおける持続的なDNA損傷反応の活性化と、それに続く細胞の老化やアポトーシスの誘導を誘発する。テロメアの短さ/機能不全は、ゲノムの不安定性、細胞の老化、組織の再生能力の喪失などの老化の他の特徴につながるため、マウスとヒトの両方で老化の主要な特徴の一つと考えられている。幹細胞のテロメアが極端に短くなると、組織の再生と恒常性の低下につながる。


・先天性角化不全症、再生不良性貧血、肺線維症などを含む「テロメア症候群」は、極端に短いテロメアの存在によって特徴づけられ、組織の再生能力が早期に損なわれ、高増殖組織と低増殖組織の両方に影響を及ぼす。


・TERT 過剰発現マウスは、老化を遅らせ、マウスの寿命を 40%延長するのに十分であることが示されている。TERT発現アデノ随伴ウイルスベクター(AAV9-Tert)を用いた成体組織におけるテロメラーゼ再活性化が、野生型マウスの加齢関連疾患を有意に遅延させ、長寿を延長することも示されている。特に、AAV9-Tertを投与すると、加齢に伴う骨粗鬆症の減少、耐糖能の低下、神経筋協調性の向上、物体認識テストでの記憶力の向上、ミトコンドリアの体力の向上、癌の遅延をもたらし、テロメア短縮が老化の原因であり、認知機能の低下を含む幅広い加齢関連疾患の原因となっていることが示されている。


・AAV9を介したテロメラーゼ活性化が、テロメア短縮に関連する疾患、例えば、再生不良性貧血、心筋梗塞、肺線維症などのマウスモデルにおいて、治療効果を示すことが示されている。また、いくつかの研究では、進行したアルツハイマー病患者の短いテロメアの存在が示唆されている。AAV9ベクターを用いた脳内テロメラーゼの再発現は、野生型マウスの認知機能を改善することも示されている。


・テロメラーゼ療法(hTERT遺伝子治療)の進歩を阻む最大の障害の一つは、テロメラーゼ誘導が、がんを引き起こすかどうかという問題である。実際テロメラーゼを阻害するがん治療薬の開発が進められている。しかし、マウスを用いた実験では、AAV9-Tertを投与してもがんが引き起こされないことが報告されている(参考)。Libella Gene Therapeuticsは hTERT遺伝子治療ががんを引き起こさずにアルツハイマー病などの加齢性疾患を治療できると考え、慎重に開発を進めている。



パイプライン:詳細未開示

LGT(AAV-hTERT)

ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を発現するAAVベクター。静脈内投与(アルツハイマー病、老化、重症虚血肢)もしくは髄腔内投与(アルツハイマー病)。南米コロンビアで実施。

開発中の適応症

・Phase I


コメント:

・これらの治験参加者は100万ドルを支払った後、母国で登録される。参加者はコロンビアに渡航し、インフォームド・コンセントに署名し、厳重に管理された病院環境の下で遺伝子治療を受けるとのこと(参考)。私はこれまで聞いたことがないが、不老長寿を望むお金持ちに対して、お金を払ってもらって治験に参加してもらうというシステム。アルツハイマー病で治験を行う試みは注目に値するが、そのやり方には疑問符がつく。


キーワード:

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)

・テロメア

・アルツハイマー病

・加齢性疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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