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LEXEO Therapeutics (New York, NY, USA)  ーケンのバイオベンチャー探索(第288回)ー

更新日:2023年1月29日


アルツハイマー病の発症リスクが高いAPOE4ホモ接合子を持つアルツハイマー病患者さんに対してアデノ随伴ウイルスベクターを用いた1回限りの遺伝子治療での寛解を目指す治療法を開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://www.lexeotx.com/


背景とテクノロジー:

・2022年9月エーザイ/Biogenの抗アミロイドβ抗体レカネマブがPhase III治験で認知機能悪化抑制効果を示したことを報告した(参考)。この報告までエーザイ/Biogenのアデュカヌマブ、Eli Lillyのソラネズマブ、Pfizerのバピネズマブなど抗アミロイドβ抗体によるアルツハイマー病治療は、臨床試験において認知機能に対する効果を示せず失敗してきた。そのためレカネマブの結果は驚きを持って受け止められた。


・2022年11/29-12/2にサンフランシスコで開催された第15回Clinical Trials on Alzheimer's Disease(CTAD)では、詳細な知見が発表された。全体として、レカネマブ投与群では、プラセボ投与群に比べ認知機能測定スコアCDR-SBの悪化が遅く、18ヵ月後の進行が4分の1に抑制された。一方、8人中1人の治験参加者にARIA-Eとして知られる脳浮腫を引き起こした。本データは、発表と同日の11/29にNew England Journal of Medicine誌に掲載された(参考)。


・レカネマブは、調査したすべてのサブグループ(APOE4、性別、年齢、民族性、人種)で同様の効果を示したが、男性は女性よりも、高齢者は若年者よりも、APOE4非キャリアはキャリアよりも有益であった。

・この治験におけるAPOE4についてフォーカスすると、APOE4キャリアはコホートの3分の2を占め、非キャリアよりもレカネマブの恩恵が少なかった。特に、APOE4を2つ保有する15%の参加者は、認知機能測定スコアCDR-SBに治療効果がなく、別の認知機能測定スコアADAS-Cog14とADCS MCI-ADLにわずかな治療効果があっただけだった。APOE4キャリアがAPOE4ノンキャリアよりも早い時期からアミロイド沈着を引き起こすことがわかっており、非キャリアの方がアミロイド負荷が低いので、より良い結果が得られた可能性があるとのこと。

・重要なこととして、このAPOE4非キャリアにおいてレカネマブが高い効果を示したという結果は、アデュカヌマブのデータとは対照的であり、EMERGE試験で認められた認知機能改善効果は、APOE4キャリアに多く見られたと報告されている。


・このようにAPOE4が抗アミロイドβ抗体などアルツハイマー病治療に大きく影響している可能性がある。今回紹介するLEXEO TherapeuticsはAPOE4キャリアに対し、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療を行うことで、アルツハイマー病の進行抑制を目指すバイオベンチャーである。その他にも中枢神経系疾患や心臓血管系疾患に対する遺伝子治療法の開発を行っている。


パイプライン:

LX2006

ヒトフラタキシンを発現するAAVrh.10ベクター。静脈内投与。

フリードライヒ失調症(FA)は、米国では約4万人に1人が罹患する、まれな変性多系統疾患である。FAは、細胞のミトコンドリア(エネルギー生産工場)で機能するフラタキシンと呼ばれる重要なたんぱく質の正常な産生を阻害する遺伝子変異によって引き起こされる。症状は一般的に小児期に始まる。患者は進行性の筋力低下と協調運動障害を起こし、多くは心臓病、特に肥大型心筋症や不整脈を発症する。FAはしばしば寿命の短縮につながる。FAに関連した死亡の大部分は心不全によるものである。

開発中の適応症

・Phase I/II

心臓病性フリードライヒ失調症


LX2020

plakophilin-2 (PKP2)を発現するAAV(9?)ベクター。

不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、心筋細胞同士をつなぐデスモソームの構造が遺伝子変異により損なわれ、心細胞死、線維化、心臓機能障害、リズム異常、突然死などが頻繁に起こる遺伝性心疾患である。米国におけるARVCの有病率は、2000〜5000人に1人と推定されている。ARVC患者の40%以上が診断から10年以内に死亡するか、心臓移植を受ける。

開発中の適応症

・前臨床試験段階

PKP2遺伝子の変異による不整脈原性心筋症

LX2021

コネキシン43(CX43)を発現するAAV(9?)ベクター

開発中の適応症

・探索研究段階

CX43遺伝子欠損に伴う不整脈原性心筋症


LX2022

TNNI3を発現するAAV(9?)ベクター

肥大型心筋症(HCM)は、最も一般的な遺伝性心筋症の一つで、約75%の症例で心臓のサルコメアに影響を与える変異によって引き起こされる。常染色体優性遺伝し、米国だけでも50万人以上の患者さんがHCMの遺伝形式を有している。

開発中の適応症

・探索研究段階

TNNI3遺伝子の変異による肥大型心筋症


LX1001 / LX1020 / LX1021

APOE2を発現するAAVrh.10ベクター(LX1001)。APOE2発現に加えAPOE4の発現を抑制するmicroRNAを発現するAAVrh.10ベクター(LX1020)。APOE2のChristchurch変異導入型を発現するAAVrh.10ベクター(LX1021)。脳脊髄液内投与。

アルツハイマー病は、進行性の神経変性疾患であり、成人後期における認知機能低下の主な原因となっている。脳細胞内およびその周辺に蓄積されたたんぱく質の異常と関連している。一般的なアポリポ蛋白(APOE)対立遺伝子(E4、E3、E2)は、アルツハイマー病(AD)の主要な遺伝的危険因子であり、E4対立遺伝子は、より早い年齢でのAD発症の最も強い危険因子として認識されている。APOE4ホモ接合体(APOE4/4)キャリアは、一般集団に比べ約15倍もアルツハイマー病を発症しやすいと言われている。2021年には米国だけでも620万人のアルツハイマー型認知症患者がいると推定されている。人口の高齢化により、今後数十年でこの病気の社会経済的負担が大幅に増加することが予想される。APOE2やAPOE3(Christchurch変異型)にはアルツハイマー病を防ぐ効果があることが知られている。

開発中の適応症

・Phase I/II(LX1001)/前臨床試験段階(LX1021)/探索研究段階(LX1020)

APOE4キャリアのアルツハイマー病


LX1004

CLN2を発現するAAVベクター。

バッテン病は、神経系セロイドリポフスチン症として知られる、まれで致命的な遺伝性疾患の広範な分類の通称。CLN2バッテン病は、神経細胞のリソゾームでたんぱく質を分解するTPP1というたんぱく質の産生を担うCLN2遺伝子の欠損によって引き起こされる。2歳末頃から発達の遅れが始まり、徐々に運動機能や認知機能が低下し、コミュニケーションがとれなくなり、発作や失明を起こすようになる。CLN2型バッテン病の子どもの多くは、6歳から12歳の間に死亡する。

開発中の適応症

・Phase I/II

CLN2バッテン病


最近のニュース:

軽度認知障害から軽度・中等度認知症までの臨床診断を受けたAPOE4ホモ接合体患者さんを対象としたLX1001のPhase I/IIの中間結果報告によると、以下のことが明らかにされている。

①3ヶ月以上のフォローアップデータを有するすべての評価対象患者(3ヶ月目までのデータを有する2名、12ヶ月目までのデータを有する2名)における脳脊髄液中における保護的APOE2たんぱく質の発現。

②3ヵ月目の時点で追跡調査データを有するすべての評価対象患者における、ベースラインからの脳脊髄液中APOE2値の増加(それぞれの脳脊髄液中APOE4値との相対比較)。

③2ヵ月目に追跡調査データを得た2人の患者におけるベースラインからの脳脊髄液中APOE2値の増加(それぞれの脳脊髄液中APOE4値に対する相対的な増加)。

④12ヵ月目までのデータがある2人の患者において、脳脊髄液中コアバイオマーカーの総タウ(T-tau)およびリン酸化タウ(P-tau)たんぱく質レベルがベースラインと比較して減少。


コメント:

・APOEのサブタイプ(E2, E3, E4)とアルツハイマー病の関係は強く示唆されているが、APOE2を発症してから発現させても治療効果を持つかどうかは明らかになっていない。レカネマブはAPOE4キャリアはむしろ効果がないとの報告もあり、APOE4キャリアの患者さんに対する治療法としてLX1001の結果が気になる。


・中間報告は2例のみの結果ではあるが、脳脊髄液中の総タウおよびリン酸化タウたんぱく質レベルがベースラインと比較して減少と良好な結果となっている。レカネマブのPhase III治験ではp-tau181は脳脊髄液および血漿中で約16〜18%低下したと報告されている。LX1001でも認知機能の悪化抑制が見られることが期待される。


キーワード:

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター)

・アルツハイマー病

・APOE4

・ライソゾーム病

・心臓血管系疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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