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Immetas Therapeutics (East Hanover, NJ, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第187回)ー


老化に伴って起こる慢性炎症のメカニズムを明らかにし、その知見からの加齢性疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャー。がん、変形性関節症に対する治療薬を開発している。



ホームページ:https://immetas.com/


背景とテクノロジー:

・最近の加齢研究の進展に伴い、老化と免疫・炎症の関係が明らかになってきている。例えば、自然免疫系を司る貪食細胞による非自己の貪食能・分解機能、抗原提示機能などが、加齢に伴い低下している。また、獲得免疫系においても、胸腺で産生されるナイーブT細胞(抗原暴露を受けていないT細胞)の産生効率が加齢によって低下する。その他にも細胞内殺菌能の低下、遊走能の低下、リンパ球の活性化などが見られている。これらの免疫系の老化のために感染症にかかりやすくなったり、ワクチンの効果が得られにくくなる。


・一方で、高齢者の血中ではIL-6やTNFαなどの炎症促進性サイトカインの慢性的な上昇が見られる。これらの原因の詳細は分かっていないが、老化に伴い生体内で炎症状態が持続し、結果として慢性炎症性疾患(がん、生活習慣病など)や自己免疫疾患を引き起こしていると考えられている。


・取り除かれるべき炎症の原因がないまま慢性炎症が持続すると、細胞・組織への損傷・障害が起こり、これに対して生体内では血管新生や細胞の増殖や線維化によって修復しようとする。組織障害と組織修復が繰り返されることにより、線維化等により組織構築が改変され(組織リモデリング)、これが進行することにより臓器の機能が不可逆的に障害されていく。


・このように老化と免疫・炎症の関係が明らかになってきたことから、このメカニズムに着目した創薬を行っているバイオベンチャーが出てきている(参考)。今回紹介するImmetas Therapeuticsも、慢性炎症のメカニズムに着目した創薬を行っているバイオベンチャーである。


・Immetasでは、ヒトの遺伝子疾患に関する臨床データや、ターゲット分子が関連する臨床試験のデータを用いて、ターゲット経路の分子プロファイリングと疾患の症状の関係性を明らかにするために、統計的アルゴリズムを適用して疾患の病態とその臨床経過を探る。これらのアプローチから得られた知見をベースに創薬を行うことで、創薬の成功確率を上昇させる。


・Immetasでは以下の2つの疾患領域に対する治療薬を開発している。

がん

腫瘍関連マクロファージ(TAM)、骨髄由来抑制性細胞(MDSC)、制御性T細胞Tregなどの主要な細胞タイプは、がんの成長を促進し、免疫活性化を防ぐために、がん微小環境の多くのメカニズムを利用している。重要な炎症促進経路を遮断することで、これらの細胞の表現型と活性を逆転させ、がん支持性と免疫抑制性のがん微小環境を変化させるアプローチでの創薬開発を行っている。

変形性関節症

変形性関節症の複雑な病態において、滑膜の炎症は軟骨の浸食に直接関与している。Immetasは、関節内注射剤を用いて上流の自然免疫経路を標的とし、マクロファージやリンパ球の活動を抑制し、炎症促進性サイトカインレベルを減少させ、全身的な副作用を回避するアプローチでの創薬開発を行っている。


・Immetasでは、独自技術の2重特異性抗体の開発を行っている。この中には、1つの抗原に対して2つの結合サイトを持つものもある(図参照)。

図:Immetasが開発する2重特異性抗体(出典:Immetas Therapeuticsホームページより)

パイプライン:未開示

コメント:

・Immetas Therapeuticsは、ハーバード大学医学部教授のDavid Sinclairらによって創業された。David Sinclairは、サーチュイン遺伝子、レスベラトロール、NAD前駆体など、老化を遅らせる遺伝子や低分子の研究で知られる。Immetasのサイエンティフィックアドバイザーを務めている。パイプラインの詳細は明らかになっていないが、Sinclairラボで明らかになった知見をベースに創薬を行っていると思われる。


・慢性炎症にはサイトメガロウイルスやEBウイルスなどの不顕性感染が関わっているという可能性が示唆されているが、ヒトは生きていく中で様々な微生物の暴露を受けており、それらが老化、加齢性疾患に影響している可能性は十分考えられる。しかし、微生物暴露の長期的影響、潜在的感染の影響については分かっていないことが多く、今後の解明が待たれる。


・世界的に老化研究がホットな領域になっており、Googleが設立したCalicoなど加齢性疾患治療薬バイオベンチャーが注目を集めているが、老化は長期的・持続的な変化であり、それを元に戻す(治癒する)のも一筋縄ではいかないかもしれない。しかし、アルツハイマー病など加齢性疾患には治療薬が求められている疾患が多い。また、不老不死は古来から多くの人の夢であり、何らかの成果が得られると良いなと思う。


・加齢性疾患バイオベンチャーとしてはUnity Biotechnologyが有名だが、変形性膝関節症を適応とし、MDM2とp53のタンパク質間相互作用を阻害する低分子化合物UBX0101のPhase 2治験で主要評価項目を達成できなかった(参考)。



キーワード:

・加齢性疾患

・慢性炎症

・2重特異性抗体

・がん

・変形性関節症


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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