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IgGenix (South San Francisco, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第179回)ー


患者さん由来のIgE抗体配列を同定し、同一配列を持つIgG抗体を作ることでピーナッツアレルギーなどのアレルギーを治療できるモノクローナル抗体の開発を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://iggenix.com/


背景とテクノロジー:

・過去数十年間の人間の環境や活動の変化によって、食物アレルギーの流行が起こっている。例えば、微量のピーナッツが皮膚に付着したり、他の食品にピーナッツが混入したりすると、ピーナッツに感作された人にとっては危険な場合がある。


・この食物アレルギーを引き起こす原因は免疫グロブリン E (IgE) 抗体が媒介していると考えられている。IgE抗体は、ヒトではすべてのアイソタイプの中で最も少ないが、寄生虫感染に対する宿主防御において重要な役割を果たしているが、無害な抗原に誤って誘導されることもあり、アレルゲンとなる食物タンパク質のIgE抗体による認識は、じんま疹から致命的なアナフィラキシーまでの症状を引き起こす可能性がある。しかし、IgE抗体が免疫やアレルギー疾患において中心的な役割を果たしているにも関わらず、明らかになっていないことが多い。特に、個々のIgE抗体を構成する単一のIgE産生細胞やIgE抗体のヘビーチェーン・ライトチェーン配列の単離には成功しておらず、これらの抗体の機能的特性、これらの細胞の転写プログラム、そしてこれらの特徴が個体間でどの程度共有されているのかについてはわかっていなかった。


・今回紹介するIgGenixを共同創業したスタンフォード大学のProf. Stephen QuakeとDr. Kari Nadeauは、2018年のScienceに、ピーナッツアレルギーを持つ6人の患者から採取した単一B細胞を分析し、ピーナッツアレルギーの原因となるIgE発現B細胞からIg重鎖と軽鎖を同定したことを報告した(参考)。この報告の中で、2人の血縁関係のない患者さんが、それぞれのVHおよびVL内の同一の遺伝子再構成からなる高親和性の交差反応性ピーナッツ特異的IgE抗体を産生しているという、抗体の収束という驚くべき事例を発見したことを明らかにしている。


・IgGenixはこの技術をベースとした抗アレルギー薬の開発を行っているバイオベンチャーである。IgGenixは、アレルゲン特異的IgE抗体を単離し、IgG抗体に再構築することで、アレルギー反応のカスケードを緩和し、場合によっては予防するモノクローナル抗体の開発を行っている。


パイプライン:詳細未開示


コメント:

・このベンチャーは、ピーナッツアレルギーの複数の患者さんから同定した、ピーナッツアレルゲンに反応するIgE抗体の配列を調べると、Ara h 2抗原とAra h 3抗原の両方に交差反応性を持つ抗体が単離できたという知見から、このIgE抗体のVHおよびVLと同じVHおよびVLを持つIgG抗体を作製し患者さんに投与すれば、IgG抗体でIgE抗体による作用を抑制でき、アレルギー反応を抑えられるというストラテジーで開発を行っている。


・実際に患者さんから単離したIgE抗体産生B細胞をシングルセルRNAシークエンス解析して配列を同定しており、臨床のエビデンスに基づいた創薬のため治療効果が得られることが期待される。一方で、このアプローチで作った抗体が効く患者さんが、全体のどの程度のポピュレーションなのかは未知数。もしかするとアレルギーの個別化医療のような形に発展するのかもしれない。


・リード開発品はピーナッツアレルギーに対する治療薬のようだが、同様のアプローチでさまざまなアレルギーに対する治療薬を作ることができるかもしれない。ここでもシングルセルRNAシークエンス解析のちからを感じることになるのだろう。


キーワード:

・ピーナッツアレルギー

・抗体医薬品

・シングルセルRNAシークエンス解析


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

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