リキッドバイオプシーを用いたがんのコンパニオン診断薬を開発、上市しているバイオベンチャー
ホームページ:https://guardanthealth.com/
背景とテクノロジー:
・従来のがん治療薬は、がん細胞が正常細胞に比べて増殖が早い特徴を利用したものが多い。主に以下のようなものがある。
①アルキル化薬
DNA(AやG)にアルキル基を結合させることで、DNA複製を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する。シクロフォスファミドなど。
②白金化合物
DNAの二本鎖に白金が架橋することでDNA複製を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する。シスプラチン、オキサリプラチンなど。
③代謝拮抗薬
葉酸、プリン、ピリミジンといった核酸の元となる物質の構造類似体で、DNA複製酵素がDNAと間違えて結合することで正常なDNA複製を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する。フルオロウラシル、フルダラビンなど。
④トポイソメラーゼ阻害薬
DNAを切断してねじれをほどき、つなぎ直す働きを持つトポイソメラーゼを阻害することで、DNA複製を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する。イリノテカンやエトポシドなど。
この他にも微小管作用薬パクリタキセルなどがあるが、これらは上記の通り、がん細胞が正常細胞より増殖が早い特徴を利用しているため、正常細胞にも作用する。そのため副作用が強く出る場合があるという課題がある。
・そこでがん細胞に過剰に発現しており、がんの増殖に関与している分子を見つけ出し、その分子の作用を阻害する分子標的薬が誕生した。EGFR、HER2、ALK融合たんぱく質、Bcr-Abl融合たんぱく質など、がん細胞で発現が異常に高まっていたり、遺伝子の転座などにより異常たんぱく質が発現したりすることから、これらのメカニズムを阻害する治療薬が創製された(ゲフィチニブ、ラパチニブ、クリゾチニブ、イマチニブなど)。分子標的薬は、がん細胞に特異的に働くために副作用が少ないことが期待される。一方で、それらの分子の異常が確認されていないがんに対して投与されても効果を発揮することができない。
・がん細胞の分子異常を明らかにするには、これまでは組織生検や手術による腫瘍組織の採取が必要だった。しかし、がん組織生検はしばしば侵襲的で時間と費用がかかるため、組織検査の有用性が制限されている。さらに、組織検査は、がんの早期発見のためのスクリーニングなどの用途には適していない。
・既存のバイオマーカー検査である単一タンパク質バイオマーカー検査またはX線画像診断は、スクリーニングに使用する場合には、高い偽陽性率という課題がある。例えば、The New England Journal of Medicineに報告された肺スクリーニング試験の結果によると、低線量CT(LDCT)画像検査では、ヘビースモーカーの肺結節を特定することができるが、そのうち95%は良性である。さらに、これらの検査は一般的に特定のがんにのみ適用可能であり、複数のがんを検出するための広範なスクリーニングを行うことはできない。
・そこで、血液、尿、唾液、脳脊髄液、心嚢膵、胸水、腹水、便などの体液サンプルを用いて、がん診断のための詳細な遺伝子情報の入手(コンパニオン診断)やがんの超早期発見が可能となる技術としてリキッドバイオプシーが注目されている。これはがん細胞から遊離して体液内で遊離している分子を検出する方法で、以下のような分子の検出が行われる。
①循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells (CTC))
原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から上皮間葉転換 (EMT)を経て体液中(血中)へ遊離し循環するがん細胞。
②セルフリーDNA(Cell-free DNA (cfDNA))
体液中の遊離DNA。多くは体液中の細胞の死滅に由来するDNA。
③循環腫瘍DNA(Circulating Tumor DNA (ctDNA))
セルフリーDNAの中でも、がん細胞が免疫によって破壊されたり、アポトーシスをおこしたり、体液中(血中)に漏れ出した循環腫瘍細胞(CTC)が何らかの影響によって体液中(血中)で破壊されたりした、がん細胞のゲノムDNA。
④細胞外小胞(Extracellular Vesicle(エクソソーム含む))
細胞が分泌する小胞(膜に包まれた袋状の構造)で様々なタンパク質や脂質、マイクロRNAなどが含まれている。ほとんどすべての細胞から分泌されていると考えられ、早期がん細胞が分泌したエ細胞外小胞を体液中から検出することも期待される。
⑤セルフリーRNA(cfRNA)
体液中の遊離RNA。多くは体液中の細胞の死滅に由来するRNA。
⑥マイクロRNA(miRNA)
約22塩基の短い一本鎖のノンコーディングRNA。④の細胞外小胞(エクソソーム)中に含まれている。がん細胞から放出されるmiRNAは異常なものが含まれていると考えられている。
・リキッドバイオプシーには以下のような利点がある。
①低侵襲
体液を針で採取、もしくは排泄物(便、尿、唾液)を採取するだけであり、従来のがん組織生検に比べると侵襲性が低い。がん組織生検は、侵襲性が高く、合併症のリスクがある。
②繰り返し採取可能
低侵襲かつ簡便に採取できるため、繰り返し採取し検査することが可能で、リアルタイムにがんの状態を把握でき、治療に対する効果のモニタリングが可能。
③網羅的な解析が可能
がん組織内では、異なる遺伝子変異を持つがん細胞が存在している。従来のがん組織生検では組織の一部しか採取できないため、部分的な情報しか得られていなかったが、リキッドバイオプシーは網羅的な解析ができる。
・一方で、リキッドバイオプシーには以下のような課題がある。
①確立されたバイオマーカーが少ない
多くのがんでは、バイオマーカーとなる分子が同定できていないか、信頼性の高いバイオマーカーが見出されていない。
②がん全体を把握できていない可能性
不均一ながん組織から、体液中にすべてのがん細胞の情報が出ているとは限らない。リキッドバイオプシーで得られる情報はがん全体の一部でしかない可能性が高い。また、検出された遺伝子変異がドライバー変異でなくパッセンジャー変異である可能性もある。
③患者さんの生存率上昇に寄与できるか未知数
リキッドバイオプシーから得られた情報によって、がん患者さんの生存率が上昇しているかどうかについては現状確定していない。今後の検証が必要。
・今回紹介するGuardant Healthは、リキッドバイオプシーで世界をリードするバイオベンチャーである。すでにがん臨床検査リキッドバイオプシーとしてGuardant360、GuardantOMNIを上市している。これらは、患者さんの血液サンプル中のctDNAを次世代シーケンサーを用いて解析し、がんに関係する遺伝子異常(一塩基多型、挿入欠失変異、融合変異、コピー数異常など)を報告する。
パイプライン:
・Guardant360
固形がんの進行期がん患者の治療選択をサポートする73遺伝子のシークエンス検査パネル。患者さんの血液サンプルから検出された体細胞突然変異、関連する治療法の選択肢、および患者さんの所在地付近で実施可能な臨床試験が報告される。Guardant360を用いることで、組織生検ベースのゲノム検査では見逃した患者さんの標的となるEGFR変異や、乳がん組織生検でERBB2(HER2)陰性であった患者さんにおける、標的となるERBB2(HER2)の増幅を発見という事例が見つかっている。
開発中の適応症
・上市
固形がんの診断
・GuardantOMNI
相同組換え修復欠損症に関連する遺伝子や、腫瘍の突然変異負荷やマイクロサテライト不安定性などの免疫腫瘍学的応用のためのバイオマーカーを含む500の遺伝子をカバーしたシークエンス検査パネル。臨床的に有効なバイオマーカーの検出において、Guardant360の感度を上回ることが示されている。
開発中の適応症
・上市
固形がんの診断
・LUNAR-1
根治性のあるがん治療を終えた患者さんのサーベイランスを行い、再発を早期に発見、もしくは手術後のがん患者さんの血液中の残存病変を検出する目的で開発中の遺伝子検査パネル。アジュバント療法の恩恵を受ける可能性が最も高い患者さんの特定。
開発中の適応症
・研究段階
肺がん、大腸がん、乳がん、卵巣がん
・LUNAR-2
高リスクの無症候性患者さんを診断するためのエピゲノムとゲノムを組み合わせた遺伝子検査パネル。スクリーニング適格者、無症状者、およびがん発症のリスクが高い人のがんの早期発見のための感度と特異性の高い検査を開発している。
開発中の適応症
・研究段階
大腸がんなど
最近のニュース:
非小細胞肺がんの治療薬として研究中のEGFR-MET双特異的抗体アミバンタマブのコンパニオン診断薬としてGuardant360® CDxの承認取得と製品化を目指す戦略的提携をJanssen と締結。本契約は、米国、カナダ、日本、欧州を対象。
CDK4/6阻害剤とホルモン療法の併用に抵抗性のある進行性ER陽性、HER2陰性乳がんの治療を目的とした選択的エストロゲン受容体分解剤であるエラセストラント(RAD1901)のコンパニオン診断薬として、Guardant360 CDxアッセイの承認取得を目指す戦略的提携をRadius Healthと締結。
コメント:
・血中ctDNAをターゲットとしているため、何らかの形でがん細胞が血中に出てきていないと検出できない。つまり転移などある程度ステージが進んだ段階を想定していると考えられる。LUNARプログラムでは早期診断を目指しているが、血中にどの程度ctDNAが出ているかは未知数なのでは。
・リキッドバイオプシーは検出感度の課題もある。DNAをPCR増幅して検出感度を上げているが、当然だが限界があり検出下限以下のがんは診断できない。Guardant Digital Sequencingという独自技術でノイズを減少させているとのこと。
・コストの課題もある。Guardant360は日本では保険適用外で40万円以上(参考)。FoundationOne CDx® など競合製品もあり、今後の普及に注目。
キーワード:
・リキッドバイオプシー
・次世代シーケンサー
・がん診断
・固形がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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