免疫チェックポイント阻害療法に反応しない患者さんに対して、改変型のがん細胞由来細胞外小胞を用いた併用療法を開発しているバイオベンチャー
背景とテクノロジー:
・cytotoxic T lymphocyte-associated protein (CTLA-4) 、programmed cell death-1 (PD-1)/PD-1 ligand-1 (PD-L1)のなどの免疫チェックポイント経路を標的とした治療法は、がん治療法に革命をもたらした。大腸がんでは、免疫チェックポイント阻害療法がマイクロサテライト不安定の高いサブタイプ(MSI-H)の30-60%に有効である。しかし、ほとんどの大腸がん患者(85%以上)はマイクロサテライト安定(MSS)腫瘍であり、免疫チェックポイント阻害療法に効果を示さない。現在は MSI/MSS表現型は、免疫チェックポイント阻害療法応答のバイオマーカーとして考えられている(参考)。しかし、免疫細胞の浸潤は大部分のMSS腫瘍でも観察されるため、このMSI/MSSに基づく層別化だけでは、免疫チェックポイント阻害治療への反応の違いを十分に説明できない(参考)。
・腫瘍微小環境(TME)におけるがん細胞と免疫細胞の間の細胞間コミュニケーションは、抗腫瘍免疫応答と免疫チェックポイント阻害療法に対する腫瘍応答の両方に影響を与える。がん細胞が周囲の細胞に影響を与える方法の一つに、細胞外小胞(EV)の分泌がある(参考)。がん細胞由来のEV(TEV)は、その内包物に応じて免疫原性または免疫抑制性を持つ。例えば、TEVに含まれるPD-L1は強い免疫抑制作用を持つ(参考)。一方で、EVで運搬されるがん抗原やその他の免疫刺激因子は、免疫応答を誘導することができる(参考)。
・CD28-CD80/86共刺激シグナルが免疫チェックポイント阻害療法の応答に重要であることが実証されている。例えば、がんに浸潤したCD8+ T細胞におけるCD28-CD80/86シグナルが抗PD-1反応(免疫チェックポイント阻害反応)に必須であることが示されている(参考)。また、抗原提示細胞上でCD80がPD-L1とシスヘテロダイマーを形成することにより、T細胞上のPD-1シグナルを制限することも報告されている(参考)。
・今回紹介するEV Therapeuticsの共同創業者の一人で同社のChief Scientific OfficerであるDr. Subree Subramanianらは、TEVの中にあるmicroRNAの一つであるmiR-424をブロックすることで、CD28-CD80/86シグナルの共刺激作用が増強され、その結果TEVの免疫抑制作用が緩和され、免疫刺激作用が増強されたことを示し、大腸がん治療における免疫チェックポイント阻害療法のアジュバント治療としての臨床応用を目指している。
・EV Therapeuticsは、miR-424をノックダウンした改良型がん細胞外小胞(mTEV)をベースとした独自の新規免疫チェックポイント阻害併用療法を開発している。T細胞のCD28機能を回復させる共刺激経路を活性化することで、患者さんの免疫システムを再活性化し、免疫療法(抗PD-1抗体など)が意図した通りに作用すると考えている。大腸がん動物モデルにおいて、改変TEVを静脈内に注射することで、免疫チェックポイント阻害療法の効果を高めることができたとのこと。
・また、mTEV単独療法として、がんワクチンとして大腸がん患者さんの微小残存病変におけるがんの再発を予防することが期待される。
パイプライン:詳細未開示
・EV101(併用療法)
CD28の機能回復によるT細胞共刺激経路の活性化を促すmTEV。免疫チェックポイント阻害薬との併用療法。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
転移性大腸がん
・EV101(単独療法)
自然免疫系を活性化するがんワクチンとしてのmTEV。
開発中の適応症
・コンセプト妥当性検証段階
転移性大腸がんの微小残存病変におけるがんの再発予防
・その他のEV101開発
抗CD28作用による免疫抑制作用(詳細不明)。
開発中の適応症
・探索研究段階
移植片対宿主病(GvHD)
臓器移植時の拒絶反応
・EV102
大腸腺腫および膵上皮内腫瘍性病変の悪性化をターゲットとするがんワクチン(詳細不明)。
開発中の適応症
・探索研究段階
すい臓がん
・EV103
BRCA1-BRCA2の遺伝性がんに対するがんワクチン(詳細不明)。
開発中の適応症
・探索研究段階
乳がん
コメント:
・がん細胞由来の細胞外小胞は、がん診断のバイオマーカーになったり、がん細胞の増殖や転移を増強する機能を持つことが報告されているが、そのがん細胞由来の細胞外小胞中のmiR-424をノックダウンすることで、むしろがん細胞に対して抑制的に働くようになるというコンセプト。たった一つのmicroRNAをノックダウンするだけで、これほど劇的に機能が変わるのは驚き。非臨床研究のデータはbioRxivにアップロードされている(こちら)。
・私が知る限り、エクソソームなどの細胞外小胞を治療に用いるアプローチはまだ実用化されていないが、製造コストがどの程度なのか(抗体よりは安い?)やロット間の生物学的同等性の担保はどうするのかなど、製造面での課題はないのか気になるところ。
キーワード:
・がん細胞由来細胞外小胞
・免疫チェックポイント阻害療法の併用療法
・がんワクチン
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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