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CohBar (Menlo Park, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第157回)ー


ミトコンドリアゲノム由来のペプチドを用いて代謝疾患、慢性疾患、加齢性疾患の創薬を目指すバイオベンチャー



ホームページhttps://www.cohbar.com/



背景とテクノロジー:

・先進国を中心に人口の高齢化が進む中で加齢に伴って罹患するリスクが上がる加齢性疾患に対する治療薬のニーズが高まっているが、アルツハイマー病を中心に治療薬創製がなかなか進まない。その一因としては、加齢性疾患が加齢に伴って長期的に変化が蓄積した結果起こる疾患のため、発症した時点から病気の原因に手を打っても手遅れになっている可能性がある。また、加齢に伴い生体内で変化していく現象はいろいろあるため、疾患の原因となり得る現象とそうでない現象を切り分けるのが難しいためという可能性もある。


・そんな状況の中でも加齢性疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャーは数多くある。例えば、Elevianは、Growth Differentiation Factor 11 (GDF11)が、高齢マウスが若齢マウスの血液によって若返る現象に関わっている血中タンパク質であるという研究成果を基にGDF11の製剤化によってアルツハイマー病やサルコペニアの治療薬創製を目指している。Unity Biotechnologyでは、老化した細胞を除去することで加齢性疾患を回復、進行抑制するというSenolytic Medicine(老化細胞除去医療)と呼ばれるコンセプトの薬を創製することを目指している。Numeric Biotechも、老化細胞除去作用を持つペプチドFOXO4-DRIを用いてがん、および加齢性疾患の治療薬開発を目指すバイオベンチャーである。


・今回紹介するCohBarも、加齢性疾患・慢性疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャーである。ミトコンドリアゲノム由来のペプチドが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)や肥満、がん、II型糖尿病、線維症、心血管疾患、神経変性疾患など代謝異常が背景にあると考えられる加齢性疾患に効果を持つ可能性を示す非臨床試験結果を基に臨床開発を進めている。


・ミトコンドリアは細胞が活動するためのエネルギーの源であるATPを作り出す細胞内小器官であり、その内部に16,569bpの二本鎖DNAであるミトコンドリアゲノムを持つ。このヒトミトコンドリアゲノム中には13個のたんぱく質、22個のtRNA、2個のrRNAの計37個の遺伝子がコードされている。ミトコンドリアはエネルギーの源であるとともにフリーラジカルの生成源であり、加齢や加齢性疾患において重要な役割を担っていることが示唆される。また、ミトコンドリア機能は加齢に伴い低下することが示唆されている。


・最近の研究からヒトミトコンドリアゲノムには、さらに多くのペプチドがコードされている可能性が報告されてきている。南カリフォルニア大学のDr. Pinchas Cohenらは、ミトコンドリアゲノムの12S rRNAをコードする領域からMOTS-c (mitochondrial open reading frame of the 12S rRNA-c)という16アミノ酸のペプチドが発現していること、このMOTS-cが加齢や高脂肪食によって起こるインスリン抵抗性を抑制すること、肥満を抑制することを報告した(参考)。


・このようにミトコンドリアゲノムにコードされるペプチドmitochondrial-derived peptide (MDP)が、代謝異常や加齢性疾患の治療薬として効果を持つ可能性があるということから、mitochondria based therapeutics (MBTs)というコンセプトでDr. Pinchas CohenらによってCohBarが創業された。


・CohBarはこのような生理活性ペプチドをミトコンドリアゲノム内から100以上見出しており、65以上の特許を取得しているとのこと。CohBarでは、ミトコンドリアゲノムから新たな生理活性ペプチドを同定する独自プラットフォームを保有している。このプラットフォームでは、代謝制御・酸化ストレス・細胞内エネルギーレベル・細胞増殖・細胞死・細胞保護・炭水化物代謝・脂質代謝・体重量・体脂肪制御・インスリン感受性・糖制御・耐糖能・肝機能などの領域の生理活性を測定している。同定した生理活性ペプチドは、生理活性を上昇させるために場合によっては改変し(アナログ)、活性を最適化させる。



パイプライン:

CB4211

上記”背景とテクノロジー”欄記載のMOTS-cの最適化アナログ。1日1回の皮下投与。非臨床試験において、トリグリセリド量を制御する効果を持つ、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)やNASHの肝臓マーカー分子に好ましい効果を持つため、NASHに治療効果を持つ可能性がある。また既存薬に比べて、脂肪量/除脂肪量の値を選択的に減らすなど顕著な体重減少効果を持つことから肥満に治療効果を持つ可能性がある。

開発中の適応症

・Phase Ia/Ib

NAFLD、肥満


新規ミトコンドリア由来ペプチドアナログ

独自プラットフォームから見出した100以上のミトコンドリア由来ペプチドのアナログで加齢性疾患治療薬を開発するプログラム。適応疾患としてNASH、肥満、II型糖尿病、がん、心血管疾患、アルツハイマー病などを想定している。以下の4つの非臨床段階のパイプラインを公表している。

①特発性肺線維症モデルに効果を持つミトコンドリア由来ペプチド(MBT2アナログ)

②メラノーマモデルにおいてがん組織のサイズ縮小効果を持つCXCR4阻害ペプチドアナログ(MBT5アナログ)

③がん免疫ペプチド(MBT3アナログ)

④体重減少効果、耐糖能改善効果を持つアペリン受容体アゴニスト(CB5064)



コメント:

・ミトコンドリア由来のペプチドが疾患治療薬となる可能性を持つのは非常に興味深いが、細胞内小器官で作られるペプチドは、そのまま細胞内で機能するのだろうが、細胞外、体外から投与して同様の薬理作用を持たせるのはなかなか大変かもしれない。どんな標的分子に作用するかにもよるが、生理活性を保持したままペプチドに細胞膜透過能をもたせたり、体内安定性を上げたりするのも簡単ではないだろう。最適化(アナログ化)は活性を上げるだけでなく、これらの課題解決のためという側面も大きいのだろう。


・いわゆるフェノタイプベース創薬によって生理活性ペプチドを見出しているが、ペプチドが作用しているターゲット分子同定はなかなか大変だろう。ターゲット分子不明だと大手製薬との共同開発はハードルが高いかもしれない。



キーワード:

・ミトコンドリア由来生理活性ペプチド

・ペプチドアナログ

・代謝疾患(NASH、肥満、II型糖尿病)

・加齢性疾患



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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