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Cognition Therapeutics (Pittsburgh, PA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第192回)ー


アミロイドβオリゴマーが結合する受容体として同定されたシグマ2受容体のアンタゴニストCT1812を用いたアルツハイマー病治療薬開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://cogrx.com/


背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病の原因遺伝子としては、家族性アルツハイマー病で変異が見つかっているアミロイド前駆たんぱく質(APP)や、そのAPPを切断する酵素の主体であるプレセニリンなどが同定されている。しかし、アミロイドβを除去する目的で作られた抗アミロイドβ抗体は、現在のところアルツハイマー病において確実な認知機能改善効果を示すに至っていない。バイオジェン/エーザイの抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブが1勝1敗のP3治験結果でFDAに申請したが、2020年11月6日のFDA諮問委員会では有効性を十分に証明できなかったとの見解に8票、証明できたとの見解に1票、判断保留に2票という結果となった(参考)。また、APP切断酵素であるγセクレターゼやBACEの阻害剤も今のところ、臨床において認知機能改善効果を示せていない。


・そのような状況の中で、アルツハイマー病治療薬のターゲット分子として注目が集まってきているのがタウである。アルツハイマー病の病理像として老人斑以外に神経原線維変化がある。神経原線維変化は、アミロイドβ蓄積を伴わない認知症にも見られることから疾患特異性がないため、アルツハイマー病のターゲット分子とはアミロイドβほどは注目されていなかった。しかし、アミロイドβをターゲット分子とする創薬がうまく行っていない中で再び注目されてきている。神経原線維変化は、微小管結合たんぱく質の一つであるタウが細胞質内で線維化し、沈着した病理像のことである。近年タウをターゲット分子とした薬の開発が進んできている。


・しかし最近、抗タウ抗体セモリネマブの早期アルツハイマー病のP2治験において認知機能改善効果が見られなかった(参考)。ただ、抗体は細胞内に入ることができず、細胞外のタウしか除去できない。アミロイドβと異なり細胞内に蓄積するタウがどの程度減少していたのか、今後の報告が待たれる。


・2016年にはタウータウ結合を阻害するタウ凝集阻害剤TRx0237 (LMTX™)の軽度または中等度の患者を対象としたP3試験で主要評価項目を達成することができなかった(参考)。タウを標的とした新たな創薬は現在も進行中であり、今後の報告を待ちたい。


・今回紹介するCognition Therapeuticsは、このような非常にハードルの高いアルツハイマー病治療薬の開発に挑んでいるバイオベンチャーの1社である。抗アミロイドβ抗体によるアミロイドβ除去というコンセプトが治験で未だ成功していないのは先述のとおりだが、アミロイドβがアルツハイマー病の原因遺伝子としての可能性を否定されている訳ではないと考えられる。Cognition Therapeuticsでは、アミロイドβ除去ではなく、アミロイドβの毒性発現機構を阻害する低分子化合物CT1812の開発を行っている。

・アミロイドβは神経毒性を持つことが示されているが、アミロイドβモノマーやアミロイド繊維は神経毒性は強くなく、最も強いのがアミロイドβモノマー(2−30個のアミロイドβモノマーが重合したもの)が最も毒性が強いことが知られている。そのアミロイドβオリゴマーが神経毒性を示すメカニズムの一つに、アミロイドβオリゴマーが神経細胞の細胞膜上のシグマ2受容体(別名Transmembrane protein 97:TMEM97)に結合し、細胞内シグナルが流れるというメカニズムが報告されている。Cognition TherapeuticsのCT1812は、アミロイドβオリゴマーとシグマ2受容体の結合を競合的に阻害する。これによりアミロイドβによる神経毒性を抑制することが期待される。


・CT1812は現在P2治験にまで進んでいるが、現在のところ認知機能の改善効果は得られていない。一方で、CT1812が脳脊髄液中のアミロイドβオリゴマーを増加させたことを報告し、CT1812が脳からのオリゴマークリアランスを促進した可能性があることを示した(2019年AAIC会議抄録より)。


パイプライン:

CT1812

シグマ2受容体(TMEM97)アンタゴニストの低分子化合物。詳細は上記「背景とテクノロジー」欄に記載。Synaptic Vesicle Protein 2A(SV2A)に結合する治験用PETトレーサーUCB-Jを用いて、治療前後のシナプス密度のモニタリングを試みている。

開発中の適応症

・Phase II

アルツハイマー病

・前臨床研究段階

ウェット型加齢黄斑変性症


コメント:

・抗アミロイドβ抗体のこれまでの治験での失敗により、アミロイド仮説に基づいた創薬は全般的に注目を失ってきている。確かにアミロイドβはアルツハイマー病のトリガーであり、発症時にアミロイドβを除去しても手遅れである可能性はある。同じく失敗したアミロイドβ産生を阻害するBACE阻害剤やγセクレターゼ調整剤などもアミロイドβ除去という類似のコンセプトである。Cognition TherapeuticsのCT1812のコンセプトはアミロイドβオリゴマー毒性発現の作用点に作用する化合物であり、これまでのコンセプトとは少し違う。これがアミロイドβ除去と同じ結果となる可能性はあるが、すでに治験は進行中であり結果に注視したい。


・アルツハイマー病の遺伝学、病理学については非常に多くのことが明らかになっているが、それでも治療薬はできていない。論理的に攻めても治せないということは、やはりキーとなることが未だ分かっていないということだろう。現状の知見では太刀打ちできないので、数打って当てる戦略で偶然見つかるのを待つしかない。中枢創薬には偶然発見されたものが多いのも実情。。。。


キーワード:

・神経変性疾患(アルツハイマー病)

・低分子化合物

・アミロイドβオリゴマー

・シグマ2受容体アンタゴニスト


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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