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Cerevel Therapeutics (Boston, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第171回)ー

更新日:2020年8月15日


ファイザーの中枢神経系パイプラインを引き継いで設立されたバイオベンチャー


ホームページ:https://www.cerevel.com/


背景とテクノロジー:

・このブログで精神疾患治療薬のバイオベンチャーを紹介することは少ないが、これは精神疾患治療薬分野では、他の分野に見られるような新しいモダリティや技術革新が使われていることがあまり見られないためである。要は派手さがないからだが、それでも精神疾患領域はアンメットメディカルニーズが高く、新薬開発が求められている。


・例えば、麻酔薬ケタミンの誘導体の治療抵抗性うつ病治療薬エスケタミン(SPRAVATO®)は、ジョンソン&ジョンソンが開発し、2019年FDAより承認された(参考)。うつ病患者さんの30-40%が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で治療効果が見られないため、新たな治療薬が求められていた。


・治療抵抗性うつ病薬としてエスケタミンが開発されたのは、麻酔薬ケタミンがうつ病に治療効果を持つことが見つかったことが発端で、その作用機序については不明な点が多い。ケタミンやエスケタミンにNMDA受容体アンタゴニスト作用があることはわかっているが、他のNMDA受容体アンタゴニストではそのような効果は報告されておらず、他にも作用点がある可能性がある(参考)。


Intra-Cellular Therapiesが開発したLumateperone(CAPLYTA™)が2019年新規抗精神病薬としてFDAより承認された。セロトニン5-HT2Aアンタゴニスト、ドパミンD2受容体パーシャルアゴニスト、セロトニントランスポーター阻害の3つを併せ持つ低分子化合物で、5-HT2A受容体への親和性がD2受容体のそれより非常に高いのが特長で、既存の抗精神病薬と違う薬理作用が期待されるとIntra-Cellular Therapiesは考えている。


・このように精神疾患治療薬はメカニズムが不明であったり、複数のターゲット分子に作用するものが多いため、臨床における効果を予測するのが非常に難しい。そのため、ケタミンのように他の治療薬からの転用や、複数のターゲット分子に対して異なる強さで作用する化合物、ターゲット分子の選択性を向上させた化合物を臨床で検証するアプローチが多い。


・今回紹介するCerevel Therapeuticsも、これまで精神疾患治療薬が作用している分子として知られているターゲット分子に対して既存薬に比べて高い選択性を持たせて作用させたり、複数のターゲット分子に作用させることで新たな精神疾患治療薬、神経疾患の精神症状治療薬などを見出そうとアプローチしているバイオベンチャーである。


パイプライン:

Tavapadon

ドパミンD1/D5受容体パーシャルアゴニストの低分子化合物。経口投与。

ドパミンD1/D5受容体サブタイプは、視床から大脳皮質へのシグナル伝達を調節するニューロンのサブセットで発現している。この経路は、直接運動経路として知られており、運動活動の適切な開始に関与している。Tavapadonはこの経路を選択的に刺激することでパーキンソン病の運動症状を改善するようにデザインされている。日中の鎮静や傾眠、衝動制御の低下、幻覚を含む精神病症状のリスクなど、ドーパミンを非選択的に刺激する薬剤(既存パーキンソン病治療薬)に典型的な副作用を最小限に抑えながら、運動機能の改善を促進する可能性がある。また、Tavapadonはパーシャルアゴニストであり、フルアゴニストによって引き起こされる受容体の過剰興奮や脱感作を軽減しながら、運動機能を最大限に発揮させることが期待される。

開発中の適応症

・Phase III

初期パーキンソン病

・Phase II

後期パーキンソン病(L-Dopaとの併用療法)


CVL-871

ドパミンD1/D5受容体選択的パーシャルアゴニストの低分子化合物。経口投与。

大脳皮質と中脳のD1/D5受容体サブタイプに作用するドーパミンは、認知機能、報酬処理、意思決定を調節する細かく調整されたダイナミックな神経ネットワークにおいて重要な役割を果たしている。意識的な目標指示行動は、中脳辺縁系ドーパミン経路によって媒介される。非運動脳領域のD1受容体は、認知、報酬、意思決定を調節すると考えられている。認知症患者では、認知、意欲、行動を司る神経ネットワークを微調整し、ダイナミックレンジを正常化することが必要とされている。

開発中の適応症

・Phase I

無気力(アパシー)


CVL-865

α-2/3/5サブユニットを含むGABA-A受容体の選択的ポジティブアロステリック調整剤(PAM)。経口投与。

α-1サブユニットを含むGABA-A受容体は、脳全体に広く発現しており、ベンゾジアゼピン(BZD)によるそれらの調節は、BZDの使用に関連する多くの忍容性の問題(鎮静、運動障害および認知障害を含む)の根底にあり、脱感作および忍容性に寄与すると考えられている。他のα受容体サブユニットを標的とすることによりα-1サブユニットの活性化を選択的に最小化することは、てんかんに対する魅力的な治療オプションを提示する。CVL-865は、α-1サブユニットを含むGABA-A受容体を介した活性を最小限に抑えることで、BZDなどの従来の非選択的GABA-A受容体モジュレーターに見られる鎮静の副作用や依存症の可能性を最小限に抑えることができると考えられる。CVL-865は、内因性GABAの効果を増強するPAMとして設計されており、正常な神経活動を阻害したり、過剰に興奮させたりすることなく、耐性を発現しにくくなっている。これらの特徴を踏まえ、CVL-865は、現在販売されているBZDと同等の抗てんかん作用を有しながら、忍容性、鎮静性、離脱性を低下させ、慢性的な使用を可能にする可能性がある。

開発中の適応症

・Phase II

てんかん

・前臨床研究段階

不安症


CVL-231

ムスカリン性アセチルコリン4(M4)受容体サブタイプを選択的に標的とするポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)。M4に関連すると考えられている抗精神病薬の効果を利用しながら、パン-ムスカリン作動薬に特有の副作用を最小限に抑えることが期待される。

M4受容体サブタイプのプレシナプス発現は、精神病症状の主な原因となる脳の領域である線条体において、アセチルコリンとドーパミンのバランスをとる。アセチルコリンとドーパミンのアンバランスは、統合失調症の精神病に関与していると考えられている。他のムスカリン受容体とは異なり、M4受容体のサブタイプは線条体で異なる発現を示す。ムスカリン受容体の活性化はアセチルコリンの放出を抑制し、現在の抗精神病薬による運動症状の原因となっているD2/D3受容体の直接的な遮断を伴わずに、間接的にドーパミンレベルを調節することが示されている。

このように、M4の選択的活性化は、現在の抗精神病薬の副作用の一部を緩和する可能性がある一方で、統合失調症やアルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患に関連する精神病、焦燥感、認知障害などの神経行動要素の治療に有効である可能性を秘めている。

開発中の適応症

・Phase I

統合失調症


CVL-936

ドーパミンD3受容体指向性の選択的D2/D3受容体サブタイプアンタゴニスト。D2受容体のサブタイプよりもD3に優先的に結合するため、鎮静や急性離脱などのD2誘発性の副作用を最小限に抑える可能性がある。

ヒトにおける依存性行動との具体的な因果関係は完全には解明されていませんが、D3受容体を介した過剰なシグナル伝達が、強い報酬を求める行動に寄与している可能性がある。一般的に乱用される薬物は、D3受容体が優先的に発現している側坐核におけるドーパミンレベルを増加させることが示されており、死後の研究では、コカイン過剰摂取による死亡者の側坐核におけるD3 mRNAレベルが、年齢をマッチさせた対照者と比較して6倍に増加していることが示されている。これらのエビデンスに加え、臨床データやCVL-936を含むD3受容体選択的拮抗薬の前臨床試験結果から、D3受容体は薬物乱用の神経生物学の中心に位置していると考えられ、D3受容体選択的拮抗薬は薬物依存症の治療薬としての価値があると考えられる。

開発中の適応症

・Phase I

物質使用障害(アルコールや薬物などの乱用およびそれらへの依存をまとめた概念)


CVL-354

オピオイドκ受容体アンタゴニスト。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

物質使用障害

最近のニュース:

Bain Capitalとファイザーは中枢神経系の障害の治療薬候補の開発に特化したバイオ医薬品の新会社、Cerevel Therapeuticsを設立した。ファイザーは、3つの臨床段階の化合物と、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、統合失調症、依存症を含む広範な中枢神経系疾患をターゲットに設計された複数の前臨床化合物を含む、商業化前の神経科学資産のポートフォリオをCerevel Therapeuticsに提供した。


コメント:

Intra-Cellular TherapiesのLumateperone(CAPLYTA™)を紹介した際に、そんなに新規性を感じないと思っていたが、2019年にFDA承認されて驚いた。精神疾患の治療薬は、Intra-Cellular TherapiesやCerevel Therapeuticsのように、すでに知られているターゲット分子を組み合わせたり選択性を高めるだけでも、まだまだ新しい薬になる領域なのだろうと考えられる。


Trevenaが取り組んでいるようなバイアスドリガンドは新たな精神疾患治療薬の可能性がありそうな気がするが、どうなのだろうか?

キーワード:

・精神疾患

・てんかん

・パーキンソン病

・低分子化合物


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

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