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Cellvie (Zuerich, Switzerland) ーケンのバイオベンチャー探索(第271回)ー


臓器移植などの時に起こりうる虚血再灌流によって発生する細胞死に対して、自家ミトコンドリア移植による治療法の開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://cellvie.bio/


背景とテクノロジー:

・心臓は非常にエネルギーの高い臓器であり、正常な機能を維持するためには継続的な酸素の供給が必要である。好気的条件下では、心臓は主にミトコンドリアからエネルギーを得ており、ミトコンドリアは心筋細胞総量の30%を占めている。ミトコンドリアは、高エネルギーリン酸の合成、カルシウム貯蔵量の調節、および細胞の運命に直接影響を与えるシグナル伝達経路の活性化に重要である。これらのプロセスの維持には酸素が必要であり、したがって、虚血を引き起こす血流の停止は致命的となりうる。


・これまでの研究で、虚血の開始後、ミトコンドリアの構造、容積、酸素消費量およびATP合成の変化を伴い、高エネルギーリン酸レベルが急速に低下することが示されている。薬理学的および/または外因性基質への介入により、心筋組織壊死を軽減し、虚血後の機能を改善する試みは、単独でまたは手技と組み合わせて、限られた心臓保護しか得られていない。これらの介入にもかかわらず、ミトコンドリアの損傷と機能不全は心筋虚血後の大きな問題であり、罹患率と死亡率の重要な原因であることに変わりはない。ミトコンドリアの損傷は主に再灌流時よりも虚血時に起こる。再灌流時にミトコンドリアの呼吸機能を維持することが収縮回復を高め、心筋梗塞サイズを小さくすることが示されている。


・今回紹介するCellvieは、虚血に影響されない遠隔組織から分離した自己由来のミトコンドリアを増強し、再灌流の直前に心臓の虚血部位に移植する治療法を開発しているバイオベンチャーである。この治療により、心筋壊死が抑制され、心筋機能が向上することが期待される。


・急性冠動脈閉塞を伴うヒトの心臓虚血再灌流と、それに続く心臓の患部への血流を再確立するための外科的介入で起こる事象を模倣しているin situ blood-perfusedモデルウサギを用いた非臨床研究の方法と結果を紹介する。

①ミトコンドリア単離のために、非虚血性大胸筋から2つの小さな生検を採取。これらの組織サンプルは約0.3gで、5-6×10^9個のミトコンドリアが得られた。ミトコンドリアは60分未満で分離された。ミトコンドリアの生存率は99.99%以上だった。

②ウサギの左前下行動脈を一時的に結紮し、局所的な虚血域を誘発させた。29 分間の局所虚血の後、9.7 ± 1.7 × 10^6 個のミトコンドリア(局所虚血-ミトコンドリア処置群)を28ゲージ針付きインシュリン注射器で直接注入して局所虚血域に移植し た。

③30分間の虚血の後、左前下行動脈結紮を解放した。2時間または28日間回復させた。

④自己由来のミトコンドリアを移植した直後の心電図記録では、心室頻拍、徐脈、細動、または伝導系障害や再分極の不均一性は認められなかった。これらの観察結果は、回復の2時間後および回復の7-28日後の連続観察でも変わらなかった。また、心室由来の異所性リズムや心臓突然死の主な原因となる心室頻拍の診断指標であるQRS時間や補正QT間隔の解析では、局所虚血-ミトコンドリア処置群 の心臓では回復28日時点で虚血前と比較して差がなかった。これらのデータは、ミトコンドリアの移植が不整脈を誘発しないことを強く示唆した。

⑤再灌流直前の虚血領域へのミトコンドリア移植は、28日後の心筋細胞壊死を有意に減少させ、虚血後の機能を有意に向上させた。

⑥28日後の心筋梗塞サイズは、局所虚血-ミトコンドリア処置群 の心臓ではコントロール群の心臓と比較して有意に減少していた。

⑦28日後のミトコンドリア移植に伴う収縮期および拡張期の非侵襲的血圧に変化はなかった。

⑧移植されたミトコンドリアは、注入後0、2、4、8、24時間で心筋細胞周囲の間質に観察され、心外膜から心内膜下にかけて広範囲に分布していることが確認された。標識されたミトコンドリアの一部は注入後2時間で心筋細胞内に局在していた。

⑨移植されたミトコンドリアが移植後数時間以内に心筋細胞に容易に内在化し、これらの器官において生存能力と機能を維持し、ATPレベルを増加させた。移植されたミトコンドリアがどのようなメカニズムで心筋細胞内に取り込まれるかはまだ不明である。

⑩自家ミトコンドリア移植によってIL-6およびTNFαレベルが有意に減少したことから、ミトコンドリア移植により炎症の程度が改善されることが示唆された。


パイプライン:詳細未開示

虚血再灌流障害は、心臓発作や脳卒中、長時間の外科手術、臓器移植などの際に生じる病状。最初に目指す適応症は、「腎臓移植を受けた患者の最大50%に生じる移植片機能遅延の発生を抑える治療法開発」。虚血再灌流障害以外にも、ミトコンドリアに関連する老化の退行過程を遅らせたり戻したりする技術として応用することに特に関心を持っている。


コメント:

・自家ミトコンドリアを心臓に局所注入することで心筋細胞内にミトコンドリアが入り込み、機能するというコンセプトの治療法。ミトコンドリアが細胞間でやり取りされているという報告があったが、Cellvieの治療法は外部から投与したミトコンドリアが細胞内に入り込むというアプローチ。非臨床研究では、細胞内に入って機能していることを確認している。


・ミトコンドリアの機能低下については、パーキンソン病などでもその可能性が報告されている。また他家ミトコンドリア移植が可能になれば、ミトコンドリア病もターゲットになるかもしれない。老化防止としての治療法が開発されるとしたら結果が見てみたい。投与方法が局所投与というのがネックだが、斬新なアプローチだと思う。


キーワード:

・自家ミトコンドリア移植

・虚血再灌流

・臓器移植


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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