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Cellarity (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第250 回)ー

更新日:2022年1月23日


シングルセルRNA解析と機械学習を組み合わせた独自プラットフォーム技術を用いて、フェノタイプベース創薬で、新たな創薬を目指しているバイオベンチャー


ホームページ:https://cellarity.com/


背景とテクノロジー:

・現在、創薬の主流となっているのは、疾病を引き起こす単一のターゲットを対象とした、構造ベースのドラッグデザインである。このパラダイムは、多くの医薬品を提供することに成功してきているが、多くの疾患には治療の選択肢や明確な標的がないままのことが多い。またこのアプローチは、疾患生物学の強力なネットワーク化された特徴を見落とす危険性がある。このことが、有望な前臨床化合物の多くがヒト試験に進めない一因となっており、最終的に患者さんのもとに届く医薬品候補は10個に1個に過ぎない。


・そんな中で新たなアプローチとして、あらゆる細胞や分子の構成要素を定量化する、強力な新しい生物学的および計算機的技術を用いた疾患生物学に基づいた創薬が生まれてきた。これらの技術によって、生物学の複雑性を解明するために必要なデータを生み出すことができると考えられている。

・今回紹介するCellarityは、細胞の挙動を研究し、それを変化させる医薬品を発見・開発する、世界初の治療薬メーカーとして創業されたバイオベンチャーである。Cellarityは、シングルセルテクノロジー(シングルセルRNAシークエンシング)と機械学習を活用した強力で汎用性の高いプラットフォームを開発し、特定の細胞のネットワーク状態を明らかにし、細胞の挙動を定義する。Cellarityのプラットフォームは、細胞の挙動をデジタル化して定量化し、それらの挙動を支配するネットワークダイナミクスを解明し、それを指示する医薬品を生成する。これらの医薬品は、疾病の原因となる細胞の挙動を変えるように合理的に設計されており、長くてコストのかかるハイスループットスクリーニングの必要性がない。この独自の能力により、創薬の成功率と速度を劇的に向上させることができるとCellarityは考えている。


・Cellarityは、高次元生物学と機械学習の進歩を融合させ、新しい創薬アプローチを構築している。細胞中心の創薬パラダイムは、細胞全体を重視し、ヒト生物学の複雑性を利用する。この新しいアプローチは、健康から病気への移行を理解し、それに影響を与えるための巨視的な視点が改善されているという利点がある。


Cellarity maps™:解像度のシングルセルデータと機械学習を活用して、細胞の挙動をデジタルにモデル化し、最も複雑な疾患をも解決できる高度な標的医薬品の設計を行っている。

まず、個々の細胞に関するさまざまな種類のシングルセルデータを取得する。次に、高次元データをCellarity Mapsと呼ばれる機械的に解釈可能な形式に変換することで、個々の細胞をデジタル化する。このCellarity Mapsは、複雑な生物学をかつてない解像度で観察することを可能にし、健康から病気へ移行する際に細胞がどのように変化するかを理解することを可能にしてくれる。強力なナビゲーションツールとして、Cellarity Mapsは、疾病を解決するために標的とすることができる隠れた細胞挙動を明らかにする。そして、Cellarity Mapsは、病気の細胞挙動を修正することができる薬理学的介入の予測を可能にする。加えて、独自のAI拡張学習プロセスを用いて細胞挙動標的薬(CBT)を設計し、さらにCBT候補の選択の有効性と効率性を着実に向上させる。


・以下の3つのステップで細胞挙動をターゲットとした医薬品を同定する。

① このマップを用いて、疾患を解決するために標的となりうる細胞挙動を特定

②細胞行動の変化をデジタルデータとして指定可能な行動群に変換し、細胞行動を変化させる数千次元の設計図を明らかにする。

③独自の機械学習アルゴリズムとAIを活用したドラッグデザインにより、細胞の挙動を変化させる分子を予測し、創製する。

上記3つの画像はCellarityホームページより転載。


・このプラットフォームの利点は以下の通り。

創薬のスピードアップ

迅速なデジタル予測により、医薬品候補の特定にかかる時間を短縮し、長いスクリーニング工程を省くことができる。

臨床的成功の予測

細胞の挙動は、単一の分子標的よりも疾患をより正確に表現するため、治療薬候補の臨床での活性はより予測可能である可能性が高い。

画期的な治療法

細胞中心のアプローチにより、現在ターゲットが知られていない疾患や、分子標的アプローチでは生物学の複雑性を十分に捉えられない疾患をターゲットとすることができる。

無限の可能性

細胞の挙動がすべての疾患の根底にあるため、このアプローチをあらゆる疾患領域に広く適用することができる。


パイプライン:未開示


コメント:

・シングルセルRNAシークエンシングにより、各臓器における細胞機能の多様性が明らかになってきている。これまで同じ細胞と分類されていた細胞が違う機能を担っていることが明らかになっている。また、疾患によって変化している細胞と変わっていない細胞があることも明らかになってきている。例えば、個体老化に伴い、各臓器では細胞老化している細胞とそうでない細胞がミックスした状態となるが、細胞老化した細胞にフォーカスした創薬が必要となる。このように細胞を集団としてではなくシングルセルで見ることで、まったく新しい創薬アプローチが可能になるかもしれない。Cellarityはその可能性に挑戦している。


・一方で、フェノタイプベースの創薬は過去に試みられてきた中で問題点があったため、現在ターゲットベースの創薬が主流となっている。フェノタイプベース創薬の問題点の1つは、ターゲット特異性が低い治療薬候補が取れてくる可能性が高いため、毒性が強い可能性である。ターゲットベース創薬ではできる限りターゲット分子特異的な治療薬候補取得を目指すため、ONターゲット毒性(ターゲット分子に作用したことに由来する毒性)がメインであり、OFFターゲット毒性のリスクは少ない。一方、フェノタイプベース創薬では、複数のターゲット分子に作用することで薬効を示す場合が多いが、複数のターゲットに作用できるということは、ターゲット分子以外にも作用する可能性が高くなり、OFFターゲット毒性を持つリスクも高くなる(そもそもターゲット分子が全て明らかでない場合ONターゲット毒性かOFFターゲット毒性かも不明となってしまう)。


キーワード:

・シングルセル解析

・機械学習

・疾患生物学


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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