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Carmine Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第177回)ー

更新日:2020年8月15日


赤血球細胞由来の細胞外小胞を用いた非ウイルスベクターによる遺伝子治療(RNA治療法)による希少疾患治療薬の開発を目指すバイオベンチャー



背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いたin vivo遺伝子治療(生体内で直接遺伝子治療する方法)の開発が進むにつれて,AAVベクターの課題が浮き彫りになってきている。その一つがAAVベクターは最大サイズ4.7 kbまでの遺伝子しか搭載できない(プロモーター含む)という点である。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子はおよそ14 kb,嚢胞性線維症の原因遺伝子であるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子はおよそ189 kbもある。これらの遺伝子をAAVベクターに搭載することはできない。また、ゲノム編集で汎用されるCas9もAAVベクターに搭載するには遺伝子サイズが大きい(約4.1 kb)。


・そのため遺伝子サイズの制限を受けにくい,非ウイルスベクターを用いた遺伝子治療法の開発も進められている。例えばGeneration Bioは、細胞質内に取り込まれ核内に移行することができるDNAであるclosed-ended DNA (ceDNA) Technologyを開発しており、全身投与によってceDNAを肝臓に届けることができる脂質ナノ粒子と組み合わせた、非ウイルスベクターによる遺伝子治療の開発を行っている。

Ligandalは、標的細胞に特異的に結合するたんぱく質分子を同定し、その分子の重要部分のペプチドを、陽イオンチャージされたポリマーと陰イオンチャージされたポリマーの2つで構成されたナノ粒子上に発現させた非ウイルスベクターを開発している。ナノ粒子内部には治療効果を持つmRNA分子やCRIPSR分子を封入する。標的細胞にmRNA分子やCRISPR分子が取り込まれることで、遺伝子を発現させたりゲノム編集されたりするシステムである。


・今回紹介するCarmine Therapeuticsは、赤血球細胞が放出する細胞外小胞を用いた非ウイルスベクターによる遺伝子治療法の開発を行っているバイオベンチャーである。主な非ウイルスベクターである脂質ナノ粒子(LNP)は免疫原性や細胞毒性がある場合がある、また肝臓に指向性が高いのに対し、赤血球細胞由来細胞外小胞は、免疫原性や細胞毒性が低く、肝臓以外の臓器にも指向性がある(詳細は下記に記載)という特徴がある。


・エクソソームを含む細胞外小胞を薬物送達システム(DDS)のキャリアとして用いる技術が開発されてきている(例:Evox TherapeuticsCodiak BiosciencesArunA Bio)。ただ、核を持つ細胞から抽出した細胞外小胞を用いる場合、その細胞自身が持つDNAが細胞外小胞に持ち込まれるリスクがある。特に不死化細胞の細胞外小胞の場合、発がん性DNAやレトロトランスポゾン(転写されたRNAから逆転写でゲノムに組み込まれる自己増殖性の転移因子)混入のリスクがある(とこのバイオベンチャーの関係者は考えている)。そこで、Carmine Therapeuticsでは、赤血球細胞由来の細胞外小胞を用いている。


・赤血球細胞由来の細胞外小胞の特徴は以下の通りである。

①赤血球細胞はゲノムDNAとミトコンドリアDNAの両方が欠損している

②赤血球細胞は生体内において最も豊富な細胞種である(全細胞の84%)

③赤血球細胞はヒトから取得可能であり、何十年ものあいだ輸血として安全かつ日常的に使用されてきている

①〜③の赤血球細胞の特徴から、赤血球細胞由来の細胞外小胞は、安全性が高く、製造も(他の細胞に比べて)簡便である。また、AAVベクターと比較すると、反復投与が可能であること、11kbを超える遺伝子を搭載可能であること、細胞外小胞の膜表面に修飾を行うことで組織指向性を付与することができるという特徴がある。


共同創業者らの報告によると、赤血球細胞由来の細胞外小胞にエレクトロポレーション(電気穿孔法)でアンチセンスオリゴヌクレオチドやmicroRNAなどのRNAを導入することができる。この細胞外小胞を腫瘍内局所投与するとがん細胞にRNAを送達できることをマウスの実験で確認している。またこの細胞外小胞をマウスに全身投与(腹腔内投与)すると肝臓や小腸、胃、骨髄などの細胞にRNAを送達できることを確認している。また、in vitroの実験だが、Cas9 mRNAとガイドRNAをエレクトロポレーションで導入した赤血球細胞由来の細胞外小胞をがん細胞に添加すると、ゲノム編集が可能となることを確認している。


・上記の結果から、Carmineでは、赤血球細胞由来の細胞外小胞を用いて、アンチセンスオリゴヌクレオチドやmicroRNAなどのRNA分子を送達する遺伝子治療法Red Cell EV Gene Therapy (REGENT™)の開発を行っている。


パイプライン:未開示


最近のニュース:

赤血球細胞外小胞を基盤としたREGENT™プラットフォーム技術を用いて、2つの希少疾患を対象とした非ウイルス性遺伝子治療薬の創製、開発、販売を目的とした共同研究契約を武田薬品工業と締結。


コメント:

・不死化細胞を用いずに献血からの赤血球細胞を用いるのであれば、ロットごとに異なるヒトからの赤血球細胞を用いることになるので、細胞外小胞のロット間での生物学的同等性をどう担保するという課題があるのではないだろうか?


・脂質ナノ粒子(LNP)、赤血球細胞由来の細胞外小胞とも同じだが、細胞質までは遺伝子をデリバリーできるが、核内には届かないので、小胞内に入れるのはRNA(siRNA、microRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、mRNAなど)がメインになるだろう(低分子化合物・たんぱく質・ペプチドなども可能かもしれない)。Generation Bioのclosed-ended DNA (ceDNA) Technologyのように細胞質内に取り込まれ核内に移行することができるDNA技術があればその限りではないが。


・脂質ナノ粒子(LNP)を用いた技術としてはModernaの新型コロナウイルスワクチンやAlnylam Pharmaceuticalsのオンパットロ(一般名:パチシラン)があるが、LNP技術はArbutus Therapeuticsの特許に抵触する可能性があるようだ(参考)。


・in vivoのCRISPR/Cas治療法はデリバリーに大きな課題があり、非ウイルスベクターによる遺伝子治療法技術の開発は喫緊の課題。非ウイルスベクターの独自技術を持つCarmineに注目が集まる可能性がある。


キーワード:

・細胞外小胞

・薬物送達システム(DDS)

・遺伝子治療

・CRISPR/Cas


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

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