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Autotac Bio (Seoul, South Korea) ーケンのバイオベンチャー探索(第256回)ー

更新日:2022年3月6日


標的たんぱく質をオートファゴソームに誘導することで分解する低分子化合物Autotac技術の臨床応用を目指すバイオベンチャー。PROTACに比べて大きな分子も標的にできる可能性からPROTACとは異なる疾患の治療薬となる可能性がある。


ホームページ:http://autotacbio.com/


背景とテクノロジー:

・標的たんぱく質分解(Targeted protein degradation)は、創薬開発における最新の手法であり、指キチンE3リガーゼ結合部位と標的たんぱく質結合部位をリンカーでつないだヘテロ機能性キメラ分子を用いて、疾患関連たんぱく質、特にかつて治療不可能と考えられていたたんぱく質をターゲットとできる魅力的な治療手段である。現在の標的たんぱく質分解技術は、PROteolysis-TArgeting Chimera (PROTAC) に代表されるように、標的基質をユビキチン化し、その分解を誘導することに限定されている。


・しかし、ユビキチン依存性であるPROTACは、基質-PROTAC-E3複合体の形成が技術的に困難なため、標的たんぱく質とE3リガーゼのセットが限定されているのが現状の課題である。これらの技術的課題が意味するのは、現在までのところPROTACでは汎ユビキチン化および非特異的に機能するE3リガーゼを用いたたんぱく質分解の可能性が難しいことを示している。このため、PROTACが適用可能な臨床標的は、短命のユビキチン化基質、特に腫瘍たんぱく質のごく一部に限定されている。さらに、ユビキチン依存性PROTACは、神経変性たんぱく質のようなミスフォールドや凝集を起こしやすい病的たんぱく質種を分解する理想的な標的たんぱく質分解プラットフォームではないかもしれない。これらのたんぱく質種は、サイズの制限により、プロテアソームによる分解やその後の展開に通常抵抗性があるからである。

AUTAC(AUtophagy-TArgeting Chimera:オートファジーを呼び寄せる働きを持つ化学構造(グアニン誘導体)と標的たんぱく質結合部位で構成され、S-グアニル化を介して選択的オートファジー・パスウエイに認識されるポリユビキチン化を誘導、分解する)l、ATTEC (AuTophagosome-TEthering Compound:オートファゴソームのマーカであるLC3たんぱく質を結合することでオートファゴソームに標的たんぱく質を取込んで分解する)、LYTAC(LYsosome-TArgeting Chimaeras:リソソームへのシャトル輸送に関わる細胞表面上のカチオン非依存性マンノース-6-リン酸受容体と標的たんぱく質の両方に結合するキメラ分子を設計・創製し,利用することで膜および細胞外たんぱく質を分解する)などのオートファジーに基づく分解剤や分子のり(Molecular Glue)の分野における最近の進歩は、ライソゾームを介して多くの標的を分解することに成功している。しかし、LYTACは細胞外たんぱく質、細胞膜たんぱく質にしか適用できず、ATTECは変異型Httや脂質滴を事前に隔離することなく直接オートファゴソームにターゲットしており、AUTACはS-グアニル化を利用しているが、標的のユビキチン化に依存している。このような既存の標的たんぱく質分解技術の課題から、ユビキチンやプロテアソームに依存しない、一般的に適用可能な標的たんぱく質分解プラットフォームのさらなる開発が必要と考えられる。

・選択的マクロオートファジーはたんぱく質、凝集体、オルガネラなどの不要または有害な細胞質成分がリソソームでの加水分解のためにオートファゴソームによって特異的に隔離される異化プロセスである。オートファジーの選択的標的化には、p62や他のSequestosome様受容体(SLR)のような、積荷たんぱく質上のユビキチン鎖とオートファゴソーム内膜の脂質化LC3をそれぞれUBAおよびLIRドメインを介して同時に認識する特異的受容体が必要である。

・Seoul National UniversityのProf. Yong Tae Kwonらは、幅広い細胞内たんぱく質を選択的に認識し、オートファジー膜にターゲティングしてライソゾーム分解することができる汎用的な分解剤AUTOTAC(AUTOphagy-TArgeting Chimera)を開発した。AUTOTACの作用機序の中心は、p62結合部位が、不活性なp62をオートファジーに適合した形にコンフォメーション活性化させることである。p62リガンドに結合すると、p62はPB1ドメインとLIRドメインを露出し、それぞれターゲットとの複合体におけるp62の自己重合とオートファジー膜上のLC3との相互作用を促進させる。このように、AUTOTACは、ミスフォールドした凝集体を含む広範な細胞内たんぱく質の分解を誘導することができる。

・このAUTOTACは、単量体の腫瘍たんぱく質(がんシグナルが機能的に抑制されている)だけでなく、神経変性たんぱく質疾患の特徴的基質を含む凝集しやすいたんぱく質のオリゴマー種も標的として分解することが可能である。さらにAUTOTACは、標的たんぱく質のユビキチン化も、p62を介した標的たんぱく質上のユビキチン鎖の認識も、その持続的分解に必要としなかった。これらのことから、AUTOTACが、幅広い細胞内標的たんぱく質のユビキチン非依存的かつp62を介したオートファジーによるクリアランスのための一般的に適用可能なヘテロ機能性キメラ分解体であることを示した。


・プロテアソーム固有のサイズと基質構造の制限により、単量体を超えた構造的に安定なたんぱく質は、ユビキチンプロテアソーム系によって分解されないばかりか、プロテアソームサブユニットの孔を塞いでしまうことさえある。最近、PROTACsを用いたいくつかの試みにより、病的で凝集しやすいタウの分解に成功しているが、標的となった種は単量体である可能性が高く、凝集防止効果があるとしても、治療というよりは予防に近いと考えられる。この意味で、AUTOTACは、これらの病的な特徴的なたんぱく質の単量体だけでなく、オリゴマーや凝集体を標的とする直接的な手段を提供する可能性がある。


パイプライン:詳細未開示

ATC-102

タウたんぱく質を標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・リード化合物最適化段階/非臨床研究段階?

アルツハイマー病


ATC-104

TDP-43たんぱく質を標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・リード化合物最適化段階/非臨床研究段階?

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

ATC-202

変異トランスサイレチンを標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

ATTRアミロイドーシス

ATC-205

デスミンを標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

デスミン変異に伴う筋肉疾患


ATC-301

パンRasを標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

固形がん


ATC-303

p53を標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

固形がん


ATC-401

ATE1?を標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

デュシェンヌ型筋ジストロフィー


ATC-503

細菌/ウイルスを標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

多剤耐性菌/敗血症

ATC-601、602

Lipophagyを標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階

肥満、糖尿病


ATC-902

ATE1?を標的とするAUTOTAC

開発中の適応症

・探索研究段階


コメント:

・ユビキチンープロテアソーム系を利用して標的たんぱく質分解するPROTACと異なる、オートファゴソームにたんぱく質を誘導しライソゾームで標的たんぱく質を分解するAUTOTAC。ライソゾームはミトコンドリアなどの細胞内小器官まで分解可能なため、異常ミトコンドリアやたんぱく質凝集体なども標的にできる可能性がある。PROTACと異なる標的を分解できる可能性がある。一方で、PROTACの特徴である触媒的な作用(AUTOTAC分子がリサイクルされてもう一度標的分解できるか?)や、高い選択性があるかは不明とのこと。


・2022年2月16日にNature CommunicationsにAUTOTACが報告され(こちら)、そのときにすでにAutotac Bioが創業済みということで、世界レベルのスピードで進められている。一方でパイプラインを見る限りそのほとんどはまだ初期段階であり、コンセプト検証が必要なレベルのものも多いと考えられる。今後の展開が注目される。


キーワード:

・たんぱく質分解誘導薬

・オートファジー

・低分子化合物

・神経変性疾患

・がん


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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