
RNAに結合することで遺伝子発現を制御する低分子化合物を探索する独自プラットフォームを用いて、がん、循環器、神経変性疾患、希少疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャー
ホームページ:https://arrakistx.com/
背景とテクノロジー:
・抗体医薬品、核酸医薬品、細胞治療、遺伝子治療など、新たなモダリティ技術の創薬が進み、これまで治療不可能だった疾患に治療薬が作られてきている。例えば、Ionis Pharmaceuticals/Biogenによって開発されたヌシネルセン(Spinraza)は、遺伝性の難病である脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療できる核酸医薬品(アンチセンスオリゴヌクレオチド)で、2016年にFDA、2017年にPMDAに承認された。脊髄性筋萎縮症はSMN1遺伝子の変異によってSMN1たんぱく質が正常に働かないことが原因となって発病するが、ヌシネルセンは、通常はたんぱく質分解されているSMN2の、産生段階におけるスプライシングを変えることでSMN2たんぱく質の分解を抑制し、SMN2たんぱく質によってSMN1たんぱく質の機能を代替させるという治療法である。
・ヌシネルセンは医薬品としての革新性もさることながら、1年間の薬剤費が治療初年は75万ドル、2年目以降も37.5万ドルという超高額であることから話題となった(日本では初年は5592万円、2年目以降年間2796万円)。核酸医薬品だけでなく、抗体医薬品、細胞治療製品、遺伝子治療製品も非常に薬剤費が高いことがネックとなっている。
・そこで、これらの高額医薬品と同等の機能を持つ低分子化合物を作る可能性について検討が行われてきている。例えば、ヌシネルセンと同じようにSMN2遺伝子のスプライシングを変えることができる低分子化合物としてrisdiplam(Roche)、branaplam(Novartis)が開発中で、現在後期治験が行われている(参考)。これら低分子化合物も、メカニズムはヌシネルセンと同じでSMN2のmRNA前駆体に結合することでスプライシングを変え、SMN2たんぱく質でSMN1たんぱく質の機能を代替させる。これまでのところ、非常に高い効果が得られていることが報告されている。
・このような新しいモダリティの医薬品の低分子化は、薬剤費を下げることができる可能性を持つだけでなく、経口投与であるという点においても利便性がある。ヌシネルセンの投与回数は年4回、投与法は髄腔内投与という非常に侵襲性の高い投与方法であり、非常に患者さんに負担がかかるという点においても低分子化合物による代替は価値がある。
・今回紹介するArrakis Therapeuticsは、RNAに結合する低分子化合物の探索プラットフォームrSM(RNA-targeted small molecule)を持つバイオベンチャーである。rSMプラットフォームは、最先端のRNAバイオインフォマティクスとケミカルバイオロジーのツール、RNAに特化した化学的・生物学的アッセイ、そしてRNAを標的としたメディシナルケミストリーを統合したプラットフォームである。その概要は以下の通り。
①RNA配列からRNA立体構造へ
DYNAMOー最近接熱力学モデル(nearest neighboring thermodynamic model)を用いて、RNA配列から2次構造を予測する。
SHAPEー共有結合型ケミカルプローブを用いたハイスループットな実験技術によるRNAの2次構造、3次構造の推測。
②RNA立体構造から生物学へ
SHAPEーさまざまな細胞株において発現しているRNA配列のデータベースを構築している。機能的に関心の高い領域が細胞株間で一致している構造を持つようなケースを優先的なターゲット候補として選別している。
③低分子化合物の同定へ
CURATED LIBRARYードラッグライクな低分子化合物のライブラリーを構築し、新たなRNA結合の実験データによってライブラリーを更新している。
SCREENINGーRNAとの結合データにフォーカスしてHTSを行っている。HTSで見つかった化合物についてOrthogonal testing(異なるアッセイ系)でも検証を行う。
④細胞アッセイとケミカルバイオロジーへ
PEARL-Seq™(MAP)ーRNA分子上の低分子化合物結合サイトを同定。
PEARL-Seq™(Selectivity)ートランスクリプトーム中のRNA選択性の解析(特異性解析)。
PEARL-Seq™(Occupancy)ー細胞内でのターゲット分子との結合の実証。
パイプライン(詳細未開示):
・がん領域のターゲット5つ
翻訳阻害(2つ)、スプライシング阻害(2つ)、複数メカニズム*(1つ)
・脂質異常症のターゲット1つ
複数メカニズム*(1つ)
・希少疾患のターゲット2つ
スプライシング阻害(1つ)、翻訳阻害(1つ)
・神経疾患のターゲット1つ
翻訳阻害(1つ)
*複数メカニズムとは、翻訳阻害、スプライシング阻害、分解促進などのメカニズムの組み合わせ
最近のニュース:
Arrakis TherapeuticsのRNA結合低分子化合物の探索プラットフォームを用いて複数の創薬プログラムを始める共同研究、ライセンス契約をRocheと締結。
コメント:
・詳しくないのだが、RNAの2次構造、3次構造は分子ごとにユニークな構造を取るのだろうか?配列依存だろうが、どの程度のバリエーションがあるのか知りたいところ(誰かご存知でしたら教えて下さい)。ターゲットとなる領域は、翻訳に関するたんぱく質やスプライシングに関するたんぱく質が結合できるところなので、RNA間で似たような構造を取っていてもおかしくないのかなと思うのだが(素人意見)。
・個人的には上記のような印象を持ったのだが、risdiplamは非常に高い選択性を持つことが報告されている(参考pdf)ことから、特定のRNAの特定の領域に特異性を持つ低分子を作ることができるということ。RNA結合性を持つ低分子化合物ライブラリーを持っているArrakis TherapeuticsからどんなRNA制御低分子薬が出てくるのか、楽しみである。
キーワード:
・RNA結合低分子化合物
・がん
・希少疾患
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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