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Arcellx (Gaithersburg, MD, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第270回)ー

更新日:2022年7月3日


CAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法のCARの抗原認識ドメインを独自設計したD-ドメインプラットフォームを導入したCART-ddBCMAが、Phase Iで全奏効率100%という結果を米国臨床腫瘍学会(ASCO)2022で発表したバイオベンチャー


ホームページ:https://www.arcellx.com/


背景とテクノロジー:

・免疫系を利用してがんを治療するがん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬が一部の患者さんで著効したことから近年注目を浴びている。だが、がん免疫療法には古くから行われている治療法として、養子細胞免疫療法がある。 がん患者さんのT細胞は活性化しているという推測から、患者さんのT細胞を取り出し、体外でさらに活性化・増殖させた後、体内に戻し免疫反応の増強を狙う治療法である。この治療法は一部の患者さんでは効果が見られたが、多くの患者さんには治療効果が見られなかった。そこで、この治療法を発展させ、患者さんから取り出したT細胞に対して、体外においてCAR(キメラ抗原受容体)を遺伝子導入した上で体内に戻したのがCAR-T療法である。これが特に血液がんにおいて非常に高い治療効果が見られたために、注目を浴びている。

・CARは、がん細胞の表面抗原に結合する抗体の重鎖、軽鎖領域を単鎖抗体(single chain variable fragment:scFv)の形で利用し,そこにT細胞内に刺激を伝達する分子であるCD3ζをつなげた受容体分子。そこに、CD28、4-1BB等の共刺激シグナル分子を組み入れることで、CAR-Tの機能が増強される。細胞内ドメインの共刺激シグナル分子によってT細胞が活性化されるが、開発されてきているCAR(第2-4世代CAR)は、この共刺激シグナル分子を複数組み込むなどの改変により、より強力にT細胞を活性化できるようになっている。


・その他にも次世代CAR-T細胞として、低分子化合物でCARの活性化をON/OFFできるスイッチCARや、抗原認識ドメインとそれ以外のCARを分割しても機能を発揮できるようにし、抗原認識ドメインをあとから投与できるCARもあり、活性化のON/OFFだけでなく、抗原認識ドメインを変更することで異なる抗原を認識できるCARや複数の抗原に同時対応可能なCARも作製されている(SUPRA CAR)。また、2つのターゲット分子認識で活性化する2重毒異性CAR、CAR-T細胞と免疫チェックポイント阻害剤との併用などのアプローチも試みられている。


・今回紹介するArcellxは、CARの抗原認識ドメインを最適化することで、CAR-T細胞療法の効果増強、副作用軽減を目指すバイオベンチャーである。上記のようにCARの抗原認識ドメインscFvを用いていることが多いが、Arcellxでは従来のscFv結合ドメインの代わりに、D-ドメインとよばれる独自の抗原認識ドメインを利用してたD-ドメインプラットフォーム技術を保有している。


・D-ドメインとは、コンピューターでデザイン、合成された抗原認識ドメインで、scFvなどのCARコンストラクトに使用される他の抗原認識ドメインと比較して、サイズが小さく安定性が高い。D-ドメインはscFvと比較して高い導入効率、高い表面発現、低い持続性シグナルをもたらすことを実証しており、治療効果の向上と毒性軽減の細胞療法につながる可能性がある。Arcellxでは、D-Domainプラットフォームを用いて、ddCARやARC-SparXなど、複雑ながんの性質に合わせた様々なCAR-T療法を開発している。ddCARは古典的な単回注入自家移植CAR-TにD-ドメインプラットフォームを組み合わせた技術である。


・ARC-SparXは、Arcellx独自の万能CAR-T細胞であるAntigen-Receptor Complex T cell(ARC-T)と、soluble protein antigen-receptor X-linker(SparX)たんぱく質を組み合わせたプラットフォーム技術である。SparXたんぱく質は、特定の疾患細胞に結合する抗原結合D-ドメインと、ARC-T細胞のみが認識するように設計されたユニーク結合ドメインであるタグで構成されている。ARC-T細胞は万能細胞(SparXたんぱく質のユニーク結合ドメインタグがあれば活性化されるという意味での万能性)であるため、抗原結合D-ドメインの認識抗原が異なる2種類以上のSparXたんぱく質を同時に投与できる可能性があり、抗原の消失や疾患細胞の不均一性に対応し、治療効果を向上させることが期待される。


パイプライン:

CART-ddBCMA

多発性骨髄腫の標的抗原であるB細胞成熟抗原(BCMA)を発現する特定の細胞を認識・殺傷するように遺伝子改変された患者由来(自己)T細胞を含む細胞治療製品候補。従来の細胞治療薬のscFv結合ドメインの代わりに、D-ドメインを利用している。再発・難治性多発性骨髄腫の治療薬として、FDAからファスト・トラック指定、希少薬指定、再生医療先進治療指定を受けている。

開発中の適応症

・Phase II

再発・難治性多発性骨髄腫


ACLX-001

ARC-T細胞と、BCMAを標的とする二価のSparXたんぱく質で構成された細胞治療製品候補。このSparX-BCMAたんぱく質は、CART-ddBCMAと同じ抗原結合ドメインを利用している。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

再発・難治性多発性骨髄腫


ACLX-002

CD123を標的とするSparXたんぱく質を用いたARC-SparXプラットフォームの細胞治療製品候補。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

再発・難治性の急性骨髄性白血病(AML)、ハイリスクの骨髄異形成症候群(MDS)


ACLX-003

AML/MDSに関連する第2の抗原ターゲットを認識するCAR-T細胞治療製品候補。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

AML、MDS


AML-3、AML-4

さらに優先順位の高い抗原標的の同定を目指している

開発中の適応症

・探索研究段階

AML、MDS

SCLC、HCC

既存のddCARおよびARC-SparX治療プラットフォームのそれぞれの強みを活かしながら、様々な固形がんの適応症に対応する複数の資産と新規技術を開発している。

開発中の適応症

・探索研究段階

肝細胞がん、小細胞肺がん


コメント:

・米国臨床腫瘍学会(ASCO)2022において発表されたCART-ddBCMAのPhase I試験結果は以下の通り(参照PDF

①高いCAR-T細胞生存率

②CAR+細胞の患者間変動が少ない

③組織特異的な毒性は観察されない

④グレード3(以上)のサイトカイン放出症候群(CRS)は認められず、グレード3の神経毒性(ICANS)事象が1例(4%)

⑤100%の前奏効率を達成(12ヶ月フォローアップ時点まで)

これらの結果は先行している他社のCAR-T細胞療法を上回っている(Phase I結果のため症例数は少ない)。

・ARC-SparXは「背景とテクノロジー」欄で紹介したSUPRA CARと同じコンセプトの治療薬で、複数のターゲットに作用する、作用させるタイミング・期間をコントロールできるなどの特徴を持つ次世代CAR-T細胞治療技術。CART-ddBCMAとARC-Tは同じddCAR技術を使っており、先行するCART-ddBCMAのPhase I試験結果を見る限り、非常に期待がもてる。


・CAR-T細胞治療の次への展開として最も期待される固形がんへの適応はまだ探索研究段階で、こちらの動向も気になるところ。


キーワード:

・細胞治療

・次世代CAR-T細胞療法

・血液がん


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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