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Amylyx Pharmaceuticals (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第208回)ー


細胞内小器官である小胞体とミトコンドリアの間の相互作用の乱れがALSやアルツハイマー病の原因であるとの仮説に基づいた治療薬AMX0035の開発を行っているバイオベンチャー。ALSを対象としたPhase II/III治験で治療効果を報告して注目されている。


ホームページ:https://www.amylyx.com/


背景とテクノロジー:

・筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病などの神経変性疾患は根本的治療薬がなく、既存の承認された治療薬についても効果が限定的なものが多い。例えば、FDAにより承認されたALSの治療薬であるリルゾールは、治療によりALS患者さんの死亡までの期間や気管切開までの期間を約3ヶ月遅らせることが期待される。もう一つのFDAにより承認されたALSの治療薬であるエダラボンは運動機能を維持し、その低下を遅らせることが期待される。しかしこれらの薬の効果は、その病気の重度(参考)から見て治療満足度が高いとは言えない。


・ALSは筋肉を動かす神経細胞である運動ニューロンの脱落によって起こると考えられている。運動ニューロンは長いもので1mもの軸索を持ち、軸索先端での神経伝達に必要なたんぱく質などを細胞体から輸送するために非常に多くのエネルギーを必要とする。このような高い代謝需要は、たんぱく質の分泌、細胞内小器官の生合成、および欠陥成分の蓄積を回避する分解プロセスの間の緊密な調整を必要とする。これらのことから、長い軸索を持つ運動ニューロンはエネルギー供給に滞りが生じた場合に脆弱となると考えられている。


・小胞体(ER)はたんぱく質と脂質の生合成と細胞内カルシウム貯蔵の主な場所であり、ミトコンドリアは酸化的リン酸化を介して神経細胞のATPの大部分を生成している。ミトコンドリアのATP生成は、ERによって制御されるカルシウム濃度に依存する。ER-ミトコンドリア間のコミュニケーションには、ミトコンドリア表面の約20%までがER膜に密着しているような、2つの小器官間の密接な物理的接触(10-30nmの距離)が関係している。このような小胞体の領域は、mitochondria-associated ER membranes(MAMs)と呼ばれている。ERとミトコンドリアは神経細胞の変性の初期段階で機能不全に陥るため、MAMの障害は、疾患の最初の引き金となっている可能性がある。さらに、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSを含むいくつかの神経病理学的疾患では、MAMの制御異常が見られている(参考)。


・ER-ミトコンドリア間では、以下のようなクロストークが報告されている。

リン脂質交換

特定の脂質を合成する酵素がどちらかの小器官に存在するため、前駆体交換がこれらの脂質の生産に必要とされる

Ca2+イオン交換

イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)受容体を介してERの貯蔵庫から放出されたCa2+をミトコンドリアが取り込むことを促進する。いくつかのミトコンドリア脱水素酵素がCa2+で制御されており、このようなCa2+の取り込みは、TCAサイクルを介してATPを生成するミトコンドリア機能に必要である。しかし、ミトコンドリアによるCa2 +の過剰な取り込みは、ミトコンドリアの透過性遷移孔の開口部とアポトーシスシグナルにつながる可能性がある。

ミトコンドリアの生合成

ミトコンドリアの分裂はER-ミトコンドリアの接触部位で起こり、ミトコンドリアのDNA合成はこれらの接触によって制御される。

ミトコンドリアとERの細胞内輸送制御

ミトコンドリアの細胞内輸送に関わるキネシン-1は、Ca2+センサーミトコンドリアRho GTPase (Miro)を介してミトコンドリアに接着する。MiroはER-ミトコンドリアの接触部位に局在している。

ER-ミトコンドリア接触部位はオートファジーに関連

MAMを介した、ERからミトコンドリアへのCa2+の輸送がオートファゴソーム形成を調節する。

ERとミトコンドリアの接触は、ERストレスとUPRに関連

MAMにはいくつかのERたんぱく質フォールディングシャペロンが存在し、ER-ミトコンドリア接触を阻害するとUPR(小胞体ストレス応答)が誘導され、UPRの化学的誘導によりER-ミトコンドリアの結合が増加する。

ERとミトコンドリアの接触は、インフラマソーム形成に関連

炎症過程の開始、特に炎症促進性サイトカインであるインターロイキン-1βのタンパク質分解成熟に関与するインフラマソームの形成にリンクしている。


・ALSでは、これらの機能のいくつかが欠損していることが多く、運動ニューロンの機能障害や変性に寄与していると考えられている。一方で別の可能性として、疾患におけるER-ミトコンドリアシグナルの変化は、他の損傷を受けた特徴に対する生理的な反応であるということも考えられる。


パイプライン:

AMX0035

sodium phenylbutyrate(フェニル酪酸ナトリウム)とtaurursodiol(タウロウルソデオキシコール酸)の配合剤。 フェニル酪酸ナトリウム は化学シャペロンとして働き、小胞体ストレス応答や、誤って折り畳まれたたんぱく質や突然変異たんぱく質の蓄積によって誘導される神経細胞死を抑制する。また、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することで遺伝子発現をエピジェネティックに制御する。 タウロウルソデオキシコール酸は、抗アポトーシス作用と神経保護作用を持つ天然に存在する胆汁酸。ミトコンドリアが媒介するアポトーシスと活性酸素種の形成を阻害し、ERストレスによって引き起こされるアポトーシスを抑制する。137人のALS患者さんが登録されたプラセボ対照Phase II/III治験において、AMX0035はALSFRS-Rでの低下を遅らせた。治療群では、プラセボが1.66点/月だったのに対し、治療群では1.24点/月の低下が見られた。この効果はリルゾール、エダラボン併用においても見られた(参考)。

開発中の適応症

・Phase II/III

ALS

・Phase II

アルツハイマー病



コメント:

・AMX0035は、既存のALS治療薬であるリルゾール(作用機序不明、Naチャネル阻害作用、カイニン酸受容体、NMDA受容体阻害作用による神経保護効果)やエダラボン(フリーラジカル消去による脂質過酸化を抑える作用により、神経細胞の酸化的障害を抑制)とは異なる作用メカニズムを持ち、疾患メカニズムにより直接的に作用している可能性があり、期待される。


・臨床において運動ニューロンの脱落抑制が見られるかどうかが知りたいが、明らかになっているのだろうか?


キーワード:

・神経変性疾患(ALS、アルツハイマー病)

・低分子化合物

・ER-ミトコンドリア間相互作用


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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