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Amphista Therapeutics (Cambridge, the United Kingdom) ーケンのバイオベンチャー探索(第280回)ー

更新日:2022年10月30日


現在主にがん領域での臨床応用が進められている標的たんぱく質分解誘導薬(PROTACなど)について、免疫、中枢神経系疾患など他の疾患領域に最適化した技術を開発しその臨床応用を目指しているバイオベンチャー


ホームページ:https://amphista.com/


背景とテクノロジー:

・PROTAC(proteolysis targeting chimera)を始めとする標的たんぱく質分解誘導(Targeted Protein Degradation(TPD))技術は、細胞内に備わるたんぱく質分解プロセスであるユビキチンープロテアソーム系を、低分子化合物を使ってハイジャックすることで疾患の原因となる標的たんぱく質を分解誘導する技術である。従来の低分子化合物医薬品の多くは、標的たんぱく質の活性部位(酵素活性ドメインや受容体のリガンド結合部位など)に存在するポケットに対して結合することで、その機能を阻害したり活性化したりすることで効果を発揮する。一方。、TPD技術の低分子化合物は標的たんぱく質に結合するパーツとE3ユビキチンリガーゼに結合するパーツ、その2つのパーツをつなぐリンカーの2機能性分子で構成され、標的たんぱく質とE3リガーゼを近接させ、標的たんぱく質をユビキチン化させることで、標的たんぱく質がプロテアソームに運ばれ分解されることで作用する。


・このTPD技術は、以下のような利点を持つ。

これまで薬の標的たんぱく質することが難しかったたんぱく質を創薬標的とできる

従来の低分子化合物医薬品は、主に酵素・受容体・イオンチャネル・トランスポーターが創薬標的となるが、TPD技術では、それらに加え、明確な活性部位を持たない転写因子や、エピジェネティクス分子なども標的とすることが可能となる。

リサイクルできるため、長時間効果が持続できる

従来の低分子化合物医薬品は、標的たんぱく質に結合し続けなければ効果を発揮できない。TPD技術の化合物は、標的たんぱく質が分解されると、残っている標的たんぱく質に再度作用し、分解誘導できる(リサイクル)。このため少量でも化合物があれば効果が持続される。

(特異的な結合であれば)標的たんぱく質のどこに結合してもよい

従来の低分子化合物医薬品は、標的たんぱく質の活性部分にピンポイントに結合しなければ効果を発揮できない。TPD技術の化合物は、標的たんぱく質に特異的に結合できれば、標的たんぱく質のどこに結合しても作用を発揮できる。このため、従来の低分子化合物医薬品より薬剤設計がしやすい。


・今回紹介するAmphista TherapeuticsはこのTPD技術について、治療用途の拡大、腫瘍耐性のリスクの低減、医薬品の薬効特性の向上が期待できる新規かつ独自のメカニズムを見出し、第2世代のTPD技術として臨床応用を目指しているバイオベンチャーである。


・第1世代のTPD技術に用いられているアプローチは、ある細胞や組織ではよく効くが、他の組織ではあまり効かないことが示されており、治療への適用が制限されている。これは、第1世代のTPDアプローチで効果を発揮するために必要な仕組みのたんぱく質の発現量にばらつきがあることが原因と考えられる。これに対し、Amphista Therapeuticsの分子は、異なるメカニズムと高度に広く発現しているたんぱく質を使用しているため、第1世代のアプローチでは到達できなかった幅広い治療適用性を開くことができるとのこと。

・例えば、がん領域では、第1世代のTPD治療薬が特定の適応症で抗腫瘍効果を発揮している。しかし、これらの第1世代アプローチのターゲットは、がん細胞に薬物作用を回避するメカニズムを提供し、臨床効果を制限する腫瘍耐性につながる。また、第1世代のアプローチは、経口バイオアベイラビリティと中枢神経系への浸透性において、限られた特定の例以外では最適とはいえない性能を有しており、新たな治療領域への拡大が制限されている。


・Amphista Therapeuticsの次世代技術は、メカニズム的な洞察と新規メカニズムに基づいており、これらの制限に直接対処することが可能である。Eclipsysプラットフォームは、TPDの可能性を最大限に発揮できる新しい治療法を開発するための技術プラットフォームである。


・Eclipsysプラットフォーム技術の分解メカニズムには、がん細胞の成長に必要なたんぱく質も組み込まれているため、腫瘍は自らの成長を損なわずにこれらのたんぱく質の機能を容易に変更することができない。その結果、この新しい分解機構に基づいて開発された薬剤は、耐性のリスクを低減し、より持続的な抗腫瘍効果を発揮する可能性を持っている。


・Eclipsysプラットフォーム技術の新しいメカニズムのアプローチと化学主導の戦略は、経口バイオアベイラビリティと中枢神経系を含む組織への効率的な浸透をもたらす、より優れた薬物類似性を持つTPD医薬品の開発をサポートし、幅広い難病をうまく治療できるベストインクラス医薬品の開発の可能性を拡大するとのこと。


パイプライン:詳細未開示


最近のニュース:

Bristol Myers Squibbと戦略的提携およびライセンス契約を締結。Bristol Myers SquibbとAmphista Therapeuticsは、低分子たんぱく質分解薬の創製と開発に共同で取り組む。Bristol Myers Squibbは、開発された分解剤の全世界における独占的ライセンスを付与され、さらなる開発および商業化活動を担当。


Amphista Therapeutics独自のEclipsys PDプラットフォームを活用し、腫瘍学および免疫学において新規のたんぱく質分解治療薬を創出するためにMerckと協業する。最初の3つのターゲットに対する低分子たんぱく質分解薬の創製と開発に共同で取り組む。


コメント:

・TPD技術のボトルネックの一つは、利用できるE3ユビキチンリガーゼが限定されている(CRBN, VHL, XIAP, cIAP など)ことである。これはE3ユビキチンリガーゼを認識できる低分子パーツ(E3リガーゼバインダー)があまり見つかっていないため。現在多くの製薬会社、バイオベンチャーが新たなE3リガーゼバインダーを探索している。E3ユビキチンリガーゼはヒト生体内に600種類以上あると推定されており、もっとTPDに適したE3ユビキチンリガーゼがあると思われる。Amphista Therapeuticsは、独自のE3リガーゼバインダーを持っていると推測される。


・中枢神経系疾患にTPD技術を応用するためには、血液脳関門を透過できる低分子化合物を見出す必要があり、一つのハードルになっている。特にTPDでは2機能性の分子をリンカーでつないでおり、分子量が大きくなりやすい。一般的に分子量が大きいと血液脳関門は透過しにくくなる。詳細は開示されていないがAmphista Therapeuticsではそのあたりのノウハウを持っているのかもしれない。


キーワード:

・標的たんぱく質分解誘導薬

・PROTAC

・中枢神経系疾患

・免疫疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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