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Ambagon Therapeutics (San Carlos, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第262回)ー


14-3-3と標的たんぱく質の結合を安定化するmolecular glue(分子のり)型の低分子化合物の開発を行っているバイオベンチャー。主にがん治療薬にフォーカスして創薬を目指している。


背景とテクノロジー:

・アダプターたんぱく質は、多くの重要な分子プロセスを促進し、内在性成長状態を操作する興味深いターゲットである。14-3-3たんぱく質ファミリー(7つのアイソフォーム(β, γ, ε, ζ, η, θ, σ)がある)は、酵母からヒトに至るすべての真核細胞生物に,そして,脳だけでなく広範な組織・細胞に普遍的に発現しており,酵素の活性調節のみならず,多様な細胞内信号伝達経路にかかわり,発生,増殖,分化,細胞死誘導など生命維持に重要な事象に関与しているアダプターたんぱく質ことが知られている。


・14-3-3はクライアントたんぱく質の特定の配列内にあるSer/Thr残基をリン酸化依存的に認識捕捉し,クライアントのリン酸化状態の生理的機能を発現させる役割を担っている。14-3-3はリン酸化部位周辺配列のみを標的とするシングルドメイン–マルチクライアント型たんぱく質(ヒト細胞中に限っても約200種の14-3-3のクライアントが同定されている)で,クライアント全体を認識しているわけではない。そのため、14-3-3によるたんぱく質ーたんぱく質間相互作用(PPI)が多様な事象に関与すると考えられている。


・がんを引き起こすRafキナーゼ、FOXO転写因子、p53癌抑制因子、神経疾患のターゲットであるタウ、αシヌクレイン、LRRK2キナーゼなど、多くの疾患関連たんぱく質が14-3-3クライアントである。


・低分子化合物による14-3-3の PPIの調節には,阻害薬と増強薬の2つの方向性が考えられるが,14-3-3 ζのがんの発生や進行への関与などから,阻害剤に抗がん剤としての可能性があると考えられてきた。しかし14-3-3の PPIドメイン阻害剤にクライアント選択性をもたせることは困難である(上記のように14-3-3はリン酸化部位周辺配列のみを標的としているため)。


・一方で、14-3-3のPPIを増強する低分子化合物の場合は、クライアント選択性をもたせることが可能である。例えば、天然化合物であるフシコクシンAは、高等植物の植物細胞膜H+-ATPaseのC末端から2番目のThrへのリン酸化部位と14-3-3のPPIを安定化し、H+-ATPaseの永続的活性化を引き起こす。


・このように14-3-3と標的たんぱく質との結合を安定化することで、その機能を調節できるmolecular glue(分子のり)として働く低分子化合物が、がんを含むさまざまな疾患の治療薬となる可能性がある。この可能性を追求しているのが今回紹介するAmbagon Therapeuticsである。


・Ambagon Therapeuticsでは、14-3-3アダプターたんぱく質の構造とその相互作用に関する深い科学的専門知識を通じて医薬品開発に提供するためのプラットフォームを開発している。インタラクトーム全体で推定3,000のクライアントが存在し、その多くは薬剤化が困難であるが疾患において重要な役割を担っている。14-3-3では、低分子化合物によってその内因性調節機能を活用することが可能であると考えられるとのこと。

・Ambagon Therapeuticsのプラットフォームは、3つの基本要素で構成されている。

14-3-3エンサイクロペディア

14-3-3エンサイクロペディアは、14-3-3とクライアントたんぱく質インタフェースを体系的に理解することで、予測的かつ効率的な構造-化学型のペアリングをモジュール方式で実現し、創薬プロセスを大幅に効率化することができるプラットフォームである。結合モチーフや14-3-3ークライアントたんぱく質の構造に関する広範なデータベースにより、最も有望な候補をより迅速に特定し、スクリーニングプロセスを開始することができるとのこと。

多様な専用化合物ライブラリー

天然物、薬剤類似化合物、分子断片など、様々な化学型の低分子化合物が含まれるライブラリーを利用することで、薬剤が14-3-3ークライアント複合体をどのように安定化するかを調べることができるとのこと。

創薬ツールボックス

Ambagon Therapeuticsの創薬ツールボックスは、ハイスループットスクリーニング、X線結晶構造解析、生化学、生物物理学、細胞機構学、薬力学、機能性アッセイを組み合わせ、構造を考慮した創薬化学の最適化作業を支援する。


パイプライン:(詳細未開示)

プログラム1(アダプター/足場)

受容体型チロシンキナーゼと発がん性チロシンキナーゼシグナルのintegrator/distributorとして働く低分子化合物。ヒットtoリード段階

プログラム2(転写因子)

複数の発がん性シグナル経路のeffectorとして働く低分子化合物。ヒット化合物探索段階。


プログラム3(フォスファターゼ)

細胞周期制御因子として働く低分子化合物。ヒット化合物探索段階。


プログラム4(制御因子)

前駆的ながん遺伝子の活性化因子として働く低分子化合物。ヒットtoリード段階


プログラム5(転写因子)

発がん性シグナル経路のeffectorとして働く低分子化合物。初期探索段階。


コメント:

・14-3-3は生体内に豊富に存在するたんぱく質で、さまざまなたんぱく質のPPIに関わっているためにプロテオミクス解析でよくかかってくる。脳にも非常にリッチに存在しており、「背景とテクノロジー」欄にも記載したとおり、神経疾患のターゲットであるタウ、αシヌクレイン、LRRK2キナーゼとも相互作用すると考えられる。Ambagon Therapeuticsは現在がん創薬のパイプラインがメインのようだが、低分子化合物は脳にも作用できる可能性があり、CNS領域での創薬展開も考えられる(このプラットフォームを利用して、どこかと共同研究したりするかもしれない)


・molecular glue(分子のり)を構造生物学的アプローチからデザインするのは現段階ではかなり難しい。すでに14-3-3に作用することが報告されている天然化合物などの既知情報からの改変化合物が中心の化合物ライブラリーなのだろうか?


キーワード:

・たんぱく質ーたんぱく質間相互作用安定化

・14-3-3

・がん

・低分子化合物


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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