top of page
検索

Alectos Therapeutics (Burnaby, Btitish Columbia, Canada) ーケンのバイオベンチャー探索(第275回)ー


O-GlcNAcase阻害剤という新たな創薬ターゲットに対する低分子化合物を神経変性疾患治療薬として開発しているバイオベンチャー。アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、前頭側頭型認知症などがターゲット疾患。



背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病(AD)の病理学的特徴の一つは、患者さんの脳内に蓄積された神経原線維変化(NFT)である。NFTは主に微小管関連たんぱく質であるタウの凝集体から構成されている。病気の進行過程で、タウの凝集は、タウの異常な過リン酸化によってオリゴマーに自己集合し、それがNFTを構成する一対のらせん状フィラメントを形成することによって引き起こされると考えられている。病的な過リン酸化タウ凝集体の存在は、タウオパチーと総称されるいくつかの神経変性疾患の共通の特徴であり、これには進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底膜変性症、ピック病、17番染色体に関連したパーキンソン病を伴う前頭側頭型認知症が含まれる。これらの疾患では、病的なタウたんぱく質が神経細胞死を引き起こす中心的な役割を果たしていることを示す証拠が多数存在する。この仮説と一致するように、NFTの程度はADの臨床的な進行と相関している。さらに、これらの疾患のリスクを著しく増加させる44以上の異なるタウ変異が同定されている。可溶性の高リン酸化タウは、ADの脳内におけるタウ病変のプリオン様伝播に関与しているという考え方が、新たなデータで支持されている。これらの知見に基づき、ADおよび関連するタウ疾患に対する疾患修飾的治療法として、病原性タウ種の低減に大きな努力が払われている。


・近年、タウの翻訳後修飾の一つとして、セリンおよびスレオニン残基をO-結合型N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)でグリコシル化するO-GlcNAc化が注目されている。O-GlcNAc化は、すべての多細胞真核生物で起こる可逆的な修飾であり、タウを含む何百もの核および細胞質たんぱく質上に見いだされる。哺乳類細胞では、O-GlcNAc化は2つの高度に保存された酵素によって制御されている。すなわち、たんぱく質基質へのO-GlcNAcの付加を触媒する糖転移酵素O-GlcNAc転移酵素 (OGT) とたんぱく質からのO-GlcNAcの加水分解切断を触媒する糖化水素化酵素O-GlcNAcase (OGA)で、これらは制御されている。O-GlcNAc量が増加するとセリンやスレオニンのリン酸化が低下することが知られていることから、O-GlcNAc化はリン酸化部位を直接修飾するか、リン酸化部位に近接した残基の糖鎖修飾によって間接的にリン酸化を調節することが提唱されている。特に、タウのO-GlcNAc化は、そのリン酸化状態を制御することが示唆されており、O-GlcNAc修飾の増加は、タウのリン酸化の低下と相関している。さらに、in vitroの研究では、タウのO-GlcNAc化が増加すると凝集傾向が阻害されることが示されている。これらのデータを総合すると、OGAの薬理学的阻害は、O-GlcNAc修飾タウの増加をもたらし、病原性タウ種およびタウ凝集体の形成を抑制し、ADや他のタウ疾患などのタウ過リン酸化に関連する疾患において治療効果をもたらすことが示唆される。この考えと一致するように、ヒトのタウの変異体を発現させたトランスジェニックマウスを用いた複数の独立した研究により、低分子OGA阻害剤thiamet-Gの投与が有益な疾患修飾効果をもたらすことが明らかにされている。この効果には、リン酸化タウ種やタウ凝集体の減少、脳脊髄液中のタウ濃度の低下、神経細胞損失の減少、疾患関連行動表現型の減少が含まれる。これらの知見に基づき、OGA阻害は患者のタウ病態を治療するための有望な治療戦略として浮上している。

・また、O-GlcNAc化はミトコンドリアの生体エネルギー能力を変化させることが報告されている。AD患者やADモデルマウスではO-GlcNAc化の低下によりミトコンドリア活性が損なわれている。O-GlcNAc化がADの治療標的となる可能性があるが、現状ADにおける神経細胞死とO-GlcNAc化の関係は不明である。


・最近の非臨床研究から、O-GlcNAc化はADのマウスモデルにおいてネクロプトーシス(プログラムされた壊死)の活性化を抑制することが明らかになった。また、OGAの発現不足によりADマウスの脳内でO-GlcNAc化が増加すると、Aβの蓄積、神経細胞死、認知機能の低下、神経炎症、ミトコンドリアの機能不全などのAD病態が軽減されることがわかった。このように、O-GlcNAc化はネクロプトーシスの抑制を通じて、AD病態の主要な制御因子として作用している可能性がある。

・ネクロプトーシスは、ADの基礎となる可能性のある細胞メカニズムの1つで、AD患者の脳で活性化し、神経細胞死、神経炎症、BraakステージなどのADの病理的症状と正の相関があることが分かっている。ネクロプトーシスは、細胞死の誘導に加え、炎症反応にも関与している。ADにおいてネクロプトーシスを阻害すると、神経炎症が効果的に抑制される。ADのマウスモデルでネクロプトーシスを阻害すると、Aβの蓄積が抑制され、認知機能が改善される。AD以外にも、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病などの神経変性疾患において、ネクロプトーシスの阻害は脳機能に好影響を及ぼし、これらの疾患の治療標的として重要視されている。


・今回紹介するAlectos Therapeuticsは、OGA阻害剤であるMK-8719の神経変性疾患への治療薬開発を行っているバイオベンチャーである。Alectosは、AD、パーキンソン病、前頭側頭型認知症および関連疾患の疾患修飾戦略として、新規OGA阻害剤の開発を進めている。


・Alectos Therapeuticsでは、GBA2阻害剤の開発も行っている。非リソソーム型グルコシルセラミダーゼGBA2は、脳に多く存在する細胞質酵素で、スフィンゴ糖脂質グルコシルセラミド(GlcCer)の細胞質レベルの調節に関与している。GBA2の阻害は、神経変性疾患におけるライソゾーム機能障害を改善するための新たな戦略である。低分子のGBA2阻害剤は、リソソームのpHを低下させ、リソソーム機能に必要な酸性pHの維持に関与するリソソームプロトンポンプvATPaseのレベルを上昇させることが示されている。GBA2阻害剤は、ニーマン・ピック病C型、ゴーシェ病、バッテン病、サンドホフ病、ムコリピドーシスIV型などのリソゾーム貯蔵病の様々な遺伝子組み換えモデルにおいても有効であることが実証されている。これらのモデルにおける有益な効果には、神経変性の抑制、寿命の延長、神経炎症の抑制、脳内のɑシヌクレイン凝集体の減少が含まれている。また、GBA2は、ヒトにおいても安全で薬剤として使用可能な標的であることが確認されている。Alectos Therapeutics

は、ファーストインクラスの選択的GBA2阻害剤を、パーキンソン病、ニーマン・ピック病C型、およびリソゾーム機能障害が中心的な役割を果たすその他の神経変性疾患の疾患修飾治療薬として開発している。


パイプライン:

AL01811

選択的GBA2阻害剤。経口投与可能な低分子化合物医薬品。2022年6月Biogenと共同開発することを発表(詳細は”最近のニュース”欄参照)。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

パーキンソン病、 ニーマン・ピック病C型


O-GlcNAcase(OGA)阻害剤

経口投与可能な低分子化合物医薬品。Alectos Therapeuticsは以前、Merckと提携し、最初の臨床用OGA阻害剤とOGA PETリガンドをPhase I試験まで進め、安全性と忍容性が確認されたことがある。Alectosはこのプログラムを返還し、OGA PETリガンドによって臨床での標的への関与を測定できる、新たなOGA開発候補化合物の開発に注力している。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、虚血性脳卒中


最近のニュース:

パーキンソン病の患者さんに対する経口疾患修飾剤としてクラス最高の可能性を持つ新規選択的GBA2阻害剤AL01811を開発し商業化するライセンスおよび提携に関する契約をBiogenと締結


コメント:

・アミロイドβ抗体やタウ抗体によるアルツハイマー病の臨床試験があまりうまくいっていないなか(もちろんまだ結論はでていないので、治療薬になる可能性はある)、新たな創薬ターゲットの治療薬開発に注目が集まっている。正直、新しい創薬ターゲットを手当り次第に試していくしかないのではと思う。Alectos TherapeuticsのO-GlcNAcase阻害剤もまだ臨床試験が試みられてない新たな創薬ターゲットの化合物であり、その結果が注目される。


・O-GlcNAcase阻害剤からMerckが手を引いた理由が気になるところ。ご存じの方教えてください。


キーワード:

・O-GlcNAcase阻害剤

・GBA2阻害剤

・低分子化合物

・神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症など)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page