top of page
検索

AcuraStem (Monrovia, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第295回)ー

更新日:2023年3月12日


患者さん由来iPSCから分化させた神経細胞を用いて表現型スクリーニングでターゲット分子を同定し、神経変性疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャー。神経細胞内に蓄積する凝集体を排出するメカニズムをもつターゲット分子を同定している。


ホームページ:https://acurastem.com/


背景とテクノロジー:

・筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンの脱落、麻痺、発症後2~5年以内の死亡を特徴とする進行の速い神経変性疾患である。アルツハイマー病や前頭側頭型認知症(FTD)など他の著名な神経変性疾患と同様、ALSにも様々な遺伝的病因がある。それぞれの遺伝形式が稀で、ほとんどのケースで病因が不明なため、複数のALSの治療につながる経路を特定することが中心課題である。


・また、ALSやFTDのような神経変性疾患には、優れた動物モデルが存在しないと考える研究者もいる。例えば、TDP-43病変のマウスモデル(ALS患者の97%、FTD患者の45%にTDP-43病変が見られる)は、TDP-43の機能獲得および機能喪失の両方から生じる病態を正確には再現することができない。

・京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授らが分化細胞から多能性幹細胞(iPSC)を作り出す方法を発見して以来、患者さんから作製されたヒトiPSCを用いた疾患研究が進められ、動物モデルに依存しない創薬が主流となっている。


・ALSの患者さん由来iPSCから作られた運動ニューロンも疾患モデルとして創薬に応用され、ドパミン受容体アゴニストであるロピニロール(パーキンソン病治療薬として承認されている)や、Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬ボスチニブ(慢性骨髄性白血病治療薬として承認されている)などがALSに治療効果を持つ可能性が示されている。


・今回紹介するAcuraStemも、ALS患者さん由来iPSCから分化させた運動ニューロン細胞を用いて表現型ベースの創薬スクリーニングでターゲット分子の探索を行うiNeuroRx® テクノロジープラットフォームを保有し、そこから見出されたターゲット分子に対する治療薬創製を行っているバイオベンチャーである。患者さん特異的モデルは、RNA処理エラー(STMN2やUNC13Aなど)、TDP-43の核から細胞質への誤局在、神経変性といった病気の主要な側面を正確に反映しており、症状は、患者さんのDNAから自然に発生するとAcuraStemの研究者は考えている。これは、マウスに病態を操作する動物モデルとは全く異なるアプローチである。そして、このようにして見出されたターゲット分子に対して高度な機械学習とバイオインフォマティクスの技術を重ね、モデルにおける疾患の特徴を定量化する。さらに、大規模な遺伝学的研究、死後組織の研究、臨床的証拠から得られた証拠を重ね合わせる。


・共同創業者の一人である南カリフォルニア大学のProf. Justin Ichidaらによって見出されたPhosphatidylinositol 3 -phosphate 5 -kinase(PIKFYVE)に対する治療薬がリードプログラムになっている。Prof. Justin IchidaとAcuraStemの長年の共同研究の結果、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)治療薬でPIKFYVEを抑制すると、多胞体エキソサイトーシスが活性化して有害なたんぱく質凝集体を分泌し、健康な神経細胞の機能を回復することによって神経変性が防げることがデータから示された(詳細はこちら)。


・ユビキチン・プロテオソーム系やオートファジーなどの正規のたんぱく質恒常性機構は加齢とともに低下するが、最近の研究では、神経細胞は凝集しやすいたんぱく質のエキソサイトーシスを含む第3の非従来型のたんぱく質クリアランス経路を利用できることが示唆されている。 しかし、凝集しやすいたんぱく質のエキソサイトーシスを刺激することが、神経変性疾患の治療に利用できるかどうかはまだ不明である。


・PIKFYVEは、脂質キナーゼの一種であり、オートファゴソーム、エンドソーム、リソソーム膜上に存在するホスファチジルイノシトール-3-リン酸(PI3P)を ホスファチジルイノシトール-3,5-ビスリン酸(PI(3,5)P2)に変換し、小胞の融合を制御している。


・Prof. Justin Ichidaらは、C9ORF72遺伝子変異を持つALS患者さん由来の運動ニューロンを用いて、PIKFYVEを阻害する低分子apilimodや、PIKFYVEのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が細胞死を抑制したり、ALS病理(TDP-43の誤局在やジペプチド繰り返したんぱく質の凝集)を改善したりすることを明らかにしている。そのメカニズムとして、PIKFYVEを阻害することで、より多くのオートファゴソームが後期エンドソーム/多胞体と融合してアンフィソーム(オートファゴソームとエンドソームが融合した細胞内小器官) を形成し、凝集したリン酸化TDP-43やC9ORF72変異によって翻訳されるジペプチド繰り返したんぱく質を神経細胞外に排出することを明らかにした。また、細胞外に排出された凝集たんぱく質はマイクログリアによって取り込まれ処理されていることが示された。


・加えて、PIKFYVEを阻害するapilimodやPIKFYVEのASOは、孤発性ALS患者さん由来の運動ニューロンにおいてもALS病理を改善することも示された。これらの結果から、PIKFYVEを阻害する低分子化合物やASOが、ALSの治療薬となる可能性がある。


・AcuraStemでは、PIKFYVE以外にUNC13Aに対する治療薬も開発している。ALSの約97%、FTDの約45%、アルツハイマー病の約57%がTDP-43の病態を有していると言われている。TDP-43は、通常、核に存在するRNA結合たんぱく質だが、患者さんでは核で枯渇し、神経細胞の細胞質で毒性のある凝集体に形成される。UNC13A遺伝子の変異は、ALSやFTDの最強の危険因子の一つとして長年知られていたが、疾患における役割は不明であった。最近の発見では、TDP-43が核から消失すると、RNA処理エラーが起こり、クリプティックエクソンと呼ばれるイントロンの一部がUNC13AメッセンジャーRNA(mRNA)に導入され、UNC13Aたんぱく質が失われることが明らかになっている。UNC13Aのリスク変異体はTDP-43の結合部位のごく近くに位置しており、このUNC13Aの病態を悪化させる。同様に、このリスク変異はALSやFTDの患者の生存率を低下させることが予測される。このように、患者さんの転帰とUNC13A病態との関連は、UNC13Aの制御異常がTDP-43たんぱく質異常症の疾患進行の中心であることを強く示唆している。


・AcuraStemでは、iNeuroRx®プラットフォームを用いて、患者さんのニューロンがUNC13A病理を再現することを発見し、クリプティックエクソンを強力に抑制して正常なUNC13A機能を回復できるASOを迅速に設計・試験している。


・Prof. Justin Ichidaらと共同で、iNeuroRx®プラットフォーム上で、患者さんの神経細胞を対象に大量の低分子化合物ライブラリーをスクリーニングし、治療による遺伝子発現変化を大規模なバイオインフォマティクス解析することにより、TDP-43病理の改善が期待できる新規ターゲット分子を見出した。その中で、SYF2が最も有望視されている。


・SYF2は、NineTeen Complexに属するプレmRNAスプライシング因子であり、スプライソソームに集められ、スプライシングを制御するたんぱく質の集合体であり、疾患状況において核内TDP-43レベルが枯渇すると抑制される主要プロセスの1つである。SYF2のレベルを下げると、iNeuroRxの患者さんモデルやTDP-43マウスモデルにおいて、TDP-43の病理が回復し、TDP-43の機能(すなわちRNAプロセッシング)が改善されることが判明した。重要なことは、SYF2の抑制が、これらのモデルにおいてTDP-43の凝集を減少させることであり、おそらく細胞質RNAレベルを増加させることによってである。


パイプライン:

PIKFYVEプログラム

低分子もしくはASOでPIKFYVEを阻害する。

開発中の適応症

・前臨床試験段階?

ALS、FTD

UNC13Aプログラム

ASO

開発中の適応症

・前臨床試験段階?

ALS


SYF2プログラム

ASO

開発中の適応症

・前臨床試験段階?

ALS


コメント:

・昨年までALS治療薬として承認されていたのはエダラボン(ラジカル除去剤)とリルゾール(グルタミン酸受容体阻害剤)で、どちらも神経細胞死からの保護作用で効果を示していると考えられている。しかし、臨床での効果は十分とは言えない。ALSはアルツハイマー病と異なり進行が早いので、神経保護作用でも効果が見られるのだろうが、やはり異なるメカニズムの治療薬の方が治療効果が期待できるかもしれない。昨年FDAに承認されたAmylyx Pharmaceuticals のsodium phenylbutyrate/taurursodiolは細胞死抑制作用以外に、ミトコンドリアの機能改善作用などもあり、より良い作用が期待されるが、まだ承認されて間もないため、効力の程度は今後明らかになるのだろう。

・アルツハイマー病のPhase 3試験において、抗アミロイドβ抗体のレカネマブに認知機能改善効果が示されたことから、蓄積している凝集体を除去することで神経変性疾患に治療効果を持つことが明らかになった。ALSで同様のコンセプトが通用するかどうかは未知数だが、細胞内に蓄積しているリン酸化TDP-43などの凝集物を除去できるコンセプトは面白いかもしれない。


キーワード:

・神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症/前頭側頭型認知証)

・低分子化合物

・核酸医薬品(アンチセンスオリゴヌクレオチド)

・たんぱく質クリアランス


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page