
一般的な抗体医薬品の10分の1のサイズの抗体Nanobody技術を持つバイオベンチャー。2018年にSanofiに買収された。
ホームページ:https://www.ablynx.com/
背景とテクノロジー:
・抗体医薬品は低分子化合物に次ぐモダリティとしての地位を確立している。この抗体は重鎖と軽鎖からなる2つのたんぱく質がヘテロダイマーを形成し、さらにもう1つの同じヘテロダイマーと結合したY字型のヘテロテトラマーとなっている(下図左側)。サイズとしておよそ150 kDaと非常に大きく、複雑な構造のため、CHO細胞などの哺乳類細胞株で製造させる必要があるため、製造コストがかかる。
・一方、ラクダ科の動物は軽鎖のない、重鎖だけの抗体を持っていることが明らかになっている(下図右側)。この重鎖だけの抗体は、今回紹介するAblynxによりNanobody®の名前で商標登録されている。このNanobodyは以下のような特徴を持っているため医薬品として有用であり、注目されている。

図:一般的な抗体医薬品(ヒト抗体:左)とNanobody(右)の構造
(Ablynxホームページより)
①アミノ酸120個程度で分子量12-15 kDaと、通常の抗体の10分の1程度の大きさ
②化学修飾が容易であり、連結させたり、薬物抗体複合体を作るのが容易(連結させて複数のターゲットに結合させることが可能)
③哺乳類細胞株以外にも細菌や酵母などでも製造することが可能で大量製造が容易
④さまざまな投与経路での投与が可能
以下にその詳細を記載する。
・複数の異なるターゲット分子に特異的に結合するmulti-specific Nanobody(現在2つの2重特異性Nanobodyが臨床にある)、同一の標的に結合する多価Nanobody(現在、2つの多価Nanobodyが臨床にある)、および同一のターゲット分子の異なるエピトープに結合するbi-paratopic Nanobodyの製造に成功し、その潜在的な治療効果が実証されてきている。上記のようにNanobodyを連結させたり薬物抗体複合体を形成することが可能で、長さをフレキシブルに変えることができるグリシン-セリンリンカーで連結できる。
・Nanobodyは一般的な抗体医薬品ではアクセスできないような、隠されていたり遮蔽されていたりするターゲット分子上のエピトープと相互作用することができる。GPCRやリガンド依存性イオンチャネル、電位依存性イオンチャネルなどに対する機能的で選択的なNanobodyが作られている(メルク、ノバルティス、Genzymeなどとの共同研究が進行中)。
・Nanobodyのロバストネスと安定性により、静脈注射や皮下注射(現在5つが臨床にある)、呼吸器への直接ネブライザー(現在1つが臨床にある)、さらには眼球への投与や腸内局所治療のための経口投与など、複数の投与経路での投与が可能。
・Nanobodyの生体内半減期を数時間から3週間以上に調整することが可能であり、慢性や急性の適応症での使用など、望ましい特性を達成することが可能である。Ablynxの独自の半減期延長技術は、ヒト血清アルブミンに結合するNanobodyに基づいており、それによって治療分子の血清中半減期を増加させる。この独自の半減期延長技術を組み込んだ2つのNanobodyは、関節リウマチ患者においてPOC(コンセプト証明)が達成されている。
・細胞指向性のあるNanobodyの開発が可能である。例えば、正常細胞に対する活性が低いNanobodyを抗”アンカー”Nanobodyに連結することで、がん細胞に強力に結合し、がん細胞に対するNanobodyの効力を飛躍的に向上させることが可能。同様のことが関節や眼球などの特定の組織の局所治療にも応用でき、組織特異的なアンカーを使用することで、全身への曝露を最小限に抑えながら、高い局所濃度を確保することが可能。また、Nanobodyに多重特異性をもたせることで、免疫細胞をがん組織に勧誘してがん細胞の殺傷力を向上させるNanobody治療薬を設計することが可能。
・Nanobodyは、抗体や抗体由来の分子を用いて強力な抗がん剤をがん細胞に送達する抗体薬物複合体(ADC)の分野に応用できる。Nanobodyは単純な構造と安定性のため、結合親和性を失うことなく細胞毒性化合物と容易に結合させることができ、均一な複合体を得ることができる。
・Nanobodyは、単一遺伝子によってコードされ、細菌、酵母および哺乳類細胞を含む様々な原核生物および真核生物宿主において効率的に産生される。高濃度に製剤化することができ、低粘度を維持しているため、低容量の注射剤を含む複数の投与経路に対応できる。
パイプライン:(非公表のため主に2017年発表のパイプラインを基に改変)
・caplacizumab
2価の抗ヴォン・ヴィレブランド因子Nanobody。血管損傷部位の初期血小板粘着、血小板凝集、凝固第VIII因子の安定化作用をもつ高分子の血漿糖タンパク質であるヴォン・ヴィレブランド因子に結合し、血小板との結合を阻害する。血小板血栓の形成を抑制することで、血小板数が正常化するまでの時間が短縮される。
開発中の適応症
・上市済み(2019年FDA承認)
・ALX-0171
RSウイルスのウイルス表面のFタンパク質と結合する3価のNanobody(42 kDa)。Fたんぱく質と結合することでRSウイルスの複製を阻害し、ウイルスの細胞内への取り込みを阻害することでRSウイルスを中和し、宿主の免疫系がウイルスを排除することを助ける。RSウイルスの感染部位である肺に直接投与するために開発された最初のNanobody治療薬。
開発中の適応症
・開発ステージ不明(開発中止)
RSウイルス下部呼吸器感染症
・Vobarilizumab
抗IL-6R Nanobodyと抗ヒト血清アルブミン(HSA)Nanobodyを連結した抗IL-6R Nanobody(26 kDa)。抗ヒト血清アルブミン(HSA)Nanobodyは生体内半減期を延長するために付加されている。IL-6は炎症促進性サイトカインであり、T細胞の活性化、炎症に伴う急性期タンパク質の産生、免疫グロブリン産生の誘導、破骨細胞の分化・活性化の刺激などの役割を担っている。開発および商業化に関するグローバル独占的オプションライセンス契約をAbbVieと締結したが2016年に契約解除。
開発中の適応症
・開発ステージ不明(中止?)
関節リウマチ
・Ozoralizumab
抗TNFa Nanobodyと抗ヒト血清アルブミン(HSA)Nanobodyを連結した抗TNFa Nanobody。抗ヒト血清アルブミン(HSA)Nanobodyは生体内半減期を延長するために付加されている。TNFaは炎症の悪化や組織の障害などの因子である。
開発中の適応症
・Phase III
関節リウマチ
・ALX-0761/M1095
炎症性サイトカインIL17AとIL17Fを中和する2種類の Nanobodyと抗 ヒト血清アルブミン(HSA)Nanbodyを連結した3価の 抗IL17A/IL17F Nanobody。ヒト血清アルブミン(HSA)Nanobodyは生体内半減期を延長するために付加されている。メルクとの共同開発
開発中の適応症
・Phase IIb
乾癬
・BI836880
抗VEGF/Ang2 Nanobody。がん治療薬。ベーリンガー・インゲルハイムとの共同開発。
・BI655088
抗CX3CR1 Nanobody。慢性腎臓病治療薬。ベーリンガー・インゲルハイムとの共同開発。
最近のニュース:
フランスの製薬会社サノフィは29日、ベルギーのアブリンクスを39億ユーロ(約5300億円)で買収することで合意したと発表した。デンマークのノボ・ノルディスクがアブリンクスに一方的に示していた買収価格を大きく超える支払額を提示した。
コメント:
・一般的なヒト抗体の抗体医薬品とは異なり大腸菌などで製造できるために、大量製造が可能なNanobodyだが、価格以外のメリットをうまく活かす方法はまだ実用化されていないようだ。一般的な抗体医薬品に比べてサイズが1/10であることから、一般的な抗体医薬品がアクセスできないエピトープに到達できる利点があり、この利点を利用できるような治療方法が見つかればと期待する。
・NanobodyにはADCC活性がないために、ターゲット分子に結合しても細胞傷害性がない。そこでFcフラグメントとNanobodyとの融合たんぱく質というNanobody技術も開発されてきている。
・2013年にNanobodyの基本特許は切れていて、他社も開発可能となっているが、状況ご存知の方いらっしゃったら教えてください。
キーワード:
・中分子医薬品
・Nanobody
・血小板減少症
・がん
・関節リウマチ
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。
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