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E-Scape Bio (South San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第140回)ー

更新日:2020年1月12日

アルツハイマー病のリスク遺伝子として知られるApoE4に着目した創薬など、遺伝子変異性の神経変性疾患の低分子治療薬を開発しているバイオベンチャー

背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病の原因遺伝子としては、家族性アルツハイマー病で変異が見つかっているアミロイド前駆たんぱく質(APP)や、そのAPPを切断する酵素の主体であるプレセニリンなどが同定されている。しかし、アミロイドβを除去する目的で作られた抗アミロイドβ抗体は、現在のところアルツハイマー病において確実な認知機能改善効果を示すに至っていない(バイオジェン/エーザイの抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブが1勝1敗のP3治験でFDAに申請予定)。また、APP切断酵素であるγセクレターゼやBACEの阻害剤も今のところ、臨床において認知機能改善効果を示せていない。

・アルツハイマー病のリスク遺伝子として広く知られているものにApoE(アポリポたんぱく質E)4遺伝子があるり、アポリポたんぱく質はVLDLやHDLなどのリポたんぱく質を構成しているたんぱく質群の一つである(参考)。ApoEにはApoE2, ApoE3, ApoE4があり、人によってどのタイプの遺伝子を持っているのかが異なるが、家族性アルツハイマー病ではApoE4を持つ頻度が高い。孤発性アルツハイマー病においても、65-80%の患者さんにおいて2つのApoE遺伝子のうち少なくとも一つがApoE4で、患者さんの20%は2つともApoE4を持っていると言われている。

・また、2019年11月号のNature Medicineにおいて、ApoEに関する興味深い症例報告があった。報告された例は、プレセニリン1に遺伝子変異を持つ家族性アルツハイマー病の家系の人の話で、この家系の人の中に高齢になってもアルツハイマー病を発症しなかった人がいて、その人の遺伝子変異を詳細に調べたところ、保有しているApoE3遺伝子に特殊なホモ変異(Christchurch 変異)があることが分かった(参考)。

・このようにApoEはアルツハイマー病の発症と予防に大きく関わっていることが分かってきているが、現在のところApoEをターゲットとした薬は承認されていない(ApoE4がなぜアルツハイマー病の発症と予防に関わるのか、そのメカニズムは現在のところ不明な点が多い(参考))。

・今回紹介するE-scape Bioでは、ApoE4たんぱく質に対してアロステリックに結合しApoE4たんぱく質の構造を変化させることで、その機能を正常化する低分子化合物を開発しているバイオベンチャーである。

・その他にも、同社では原因となる遺伝子変異が同定されているタイプのパーキンソン病や、中枢神経系に異常があるライソゾーム病に対する治療薬の開発を行っている。

パイプライン:

ESB1609

スフィンゴシン1リン酸受容体5(S1P5)の選択的アゴニスト。遺伝子変異により細胞内から除去できずに蓄積し毒性を示す代謝物の合成を阻害する。

開発中の適応症

・Phase I

グルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子に変異を持つパーキンソン病

LRRK2キナーゼ阻害剤

Leucine-Rich Repeat Kinase(LRRK)2キナーゼ阻害剤。LRRK2に遺伝子変異を持つパーキンソン病ではLRRK2のキナーゼ活性が過剰に高くなっていることが報告されている。

開発中の適応症

・非臨床研究段階(リード化合物最適化段階)

LRRK2遺伝子に変異を持つパーキンソン病

ApoE4の構造調整薬

ApoE4たんぱく質にアロステリックに作用してApoE4たんぱく質の構造を変化させ、その構造をApoE3様にするアロステリック調整薬。

開発中の適応症

・非臨床研究段階(リード化合物探索段階)

アルツハイマー病(ApoE4キャリアー)

最近のニュース:

Abbvieが保有するS1P5の選択的アゴニストのライソゾーム病における全世界での開発権をE-scape Bioに譲渡する契約を締結

コメント:

・抗アミロイドβ抗体の場合、アルツハイマー病の発症早期、もしくは発症前の軽度認知障害の段階で治療しないと効果がない可能性が考えられている(まだ臨床で確認はされていない)。ApoE4に着目した治療薬も、どのステージのアルツハイマー病を想定しているのだろうか?ApoE4のメカニズムがはっきりしないので、想定が難しそうだ。

・遺伝子変異が明らかな中枢神経系疾患に対する治療薬は遺伝子治療でも注目されていて、今ホットな領域。どちらが効力が高いかが注目されるが、E-scape Bioは低分子化合物による創薬のため、価格的に魅力がある。遺伝子治療は治療回数が少ない(1回?)ことが利点。

キーワード:

・神経変性疾患

・ApoE4キャリアのアルツハイマー病

・低分子化合物

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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