第2世代のエピジェネティック阻害剤によって、がん細胞の細胞死誘導だけでなくがん免疫の制御活性をも持つ低分子化合物の創薬を行っているバイオベンチャー
背景とテクノロジー:
・ゲノムDNAの化学的修飾などのエピジェネティクスと疾患の関係が明らかになってきており、エピジェネティクスをターゲットとした創薬が進んでいる。例えば、中枢神経系疾患の創薬を行っているRodin Therapeuticsは、脳内のシナプスに関わる遺伝子群の発現を調節すると考えられるヒストン脱アセチル化酵素HDAC2阻害剤によるアルツハイマー病・パーキンソン病治療薬創製を目指している。
・Constellation Pharmaceuticalsは、エピジェネティック制御因子の3つのクラスにフォーカスしている;
①エピジェネティックライター:クロマチンに化学的修飾を行う付与する酵素
②エピジェネティックリーダー:クロマチンの化学的修飾を認識し、この修飾部位に結合するたんぱく質ファミリー
③エピジェネティックイレイザー:クロマチンから化学的修飾を取り除く酵素
これらの制御因子によって遺伝子の発現のON/OFFが制御されている。
・エピジェネティクスの一つであるDNAメチル化の異常が起こると、がん抑制遺伝子が不活化され、細胞の異常増殖が起こることがあることが報告されている。がん細胞ではゲノム全体では低メチル化、特定の遺伝子では高メチル化が起こっている。
・エピジェネティック制御因子は免疫細胞の分化においても重要な役割を持つ。免疫細胞がその前駆細胞(幹細胞)から分化する時、ある特手の遺伝子の発現を上昇したり抑制することで分化を促す。エピジェネティック制御因子を選択的に阻害することで、がん免疫を高める方向へ分化を制御・リプログラムすることができる可能性がある。
・エピジェネティクスの阻害剤は治療薬となりうる理由
①がんの増殖を促すようなエピジェネティック制御因子の異常は低分子化合物で阻害できる
②細胞は遺伝子の発現制御に多くのエピジェネティック制御因子を利用していることから、エピジェネティック制御因子は多くの創薬ターゲットを生み出す可能性を秘めている
③エピジェネティクスの阻害剤が効果を持つ可能性が高い患者さんを選り分けるバイオマーカーが利用可能
・初期のエピジェネティック阻害剤であるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、DNAメチル化酵素阻害剤はがん治療薬としては、エピジェネティック阻害剤としての能力を示すことができていない(とConstellation Pharmaceuticalsは考えている)。それは、これらの阻害剤によって数千もの多くの遺伝子の発現が変化しているからであり、このような幅広い阻害によって一般的には意図しない副作用が起こる。さらに、これらの初期のエピジェネティック阻害剤は、がん細胞に細胞死を起こす遺伝子変化を示すようデザインされている。また、これらの阻害剤は、がん微小環境や、がんが増殖するための周辺環境維持に関わるエピジェネティック制御因子のようながんをサポートする役割についてのことは考慮されていない。
・これまでのエピジェネティクス創薬は、エピジェネティック制御因子の遺伝子変異に着目し、遺伝子変異でがんの増殖に影響が出たエピジェネティック制御因子を見出し創薬ターゲットとしてきたが、Constellation Pharmaceuticalsでは、この方法ではがんにおけるエピジェネティック制御因子の寄与を過小評価していると考えている。
・Constellation Pharmaceuticalsは、がん細胞を殺すだけでなく、がん免疫を増強するような遺伝子発現のリプログラムを促すエピジェネティック制御因子の役割を明らかにしている。彼らは、がん治療薬創製のためにエピジェネティクスに関わる分子の活性を明らかにするツールを開発している。また、選択的なエピジェネティック阻害剤を開発するための低分子化合物プラットフォームを保有している。
パイプライン:
・CPI-1205
エピジェネティックライターであるEZH2を選択的に阻害する低分子化合物。EZH2は一部のがんにおいて酵素活性を変化させる遺伝子変異が見つかっている。EZH2はヒストンをメチル化し、遺伝子の発現を抑制する。EZH2によって免疫細胞の遺伝子発現がリプログラムされ、免疫抑制的ながん微小環境が形成される。
開発中の適応症
・Phase Ib/II
転移性の去勢抵抗性前立腺がん(アンドロゲン受容体拮抗薬エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)、もしくはアンドロゲン合成酵素CYP17A1阻害剤Abiraterone acetate(商品名Zytiga)との併用療法)
進行性の固形がん(抗CTLA-4抗体イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)との併用療法
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03525795
・Phase I(終了)
B細胞リンパ腫(CPI-1205単剤療法)
・CPI-0209
エピジェネティックライターであるEZH2を選択的に阻害する低分子化合物。第1世代EZH2阻害剤であるCPI-1205を超える第2世代阻害剤(EZH2阻害の時間延長と効力増強)。
開発中の適応症
・Phase I/II
進行性固形がん
・CPI-0610
エピジェネティックリーダーであるBETを選択的に阻害する低分子化合物。BETはさまざまな疾患(がんや免疫疾患など)で活性化されているNF-κBが調節する遺伝子の発現を制御する。NF-κBシグナルは骨髄線維症やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの血液がんで異常に高い状態にあることが示されている。また、BETたんぱく質は造血幹細胞から巨核球細胞への分化を促進する。単剤療法もしくはJAK1/2阻害剤ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)との併用療法。
開発中の適応症
・Phase II
骨髄線維症
最近のニュース
エピジェネティック創薬の共同研究契約を締結。がんおよびその他の疾患治療薬創製および開発を行う。
コメント:
・エピジェネティクスといえばDNAメチル化酵素とヒストン脱アセチル化酵素くらいしか知らなかったが、エピジェネティックライター、リーダー、イレイザーという3つの役割に着目し、そのターゲットたんぱく質を見出し、特異的な低分子阻害剤創製を行っていて、このように細分化されたたんぱく質への薬であれば毒性の少ない治療薬を作ることができるかもしれない。エピジェネティックイレイザーとしてはlysine-specific demethylase 1A(LSD1A)というがんの増殖を促進し、がん免疫を抑制する分子も見出しているとのこと。
キーワード:
・エピジェネティクス
・がん免疫
・低分子化合物
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。