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Translate Bio (Lexington, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第133回)ー


mRNAを用いた核酸医薬品で希少疾患の治療薬開発を行うバイオベンチャー

ホームページ:https://translate.bio/

背景とテクノロジー:

・核酸医薬品はIonis Pharmaceuticalsの脊髄筋萎縮症治療薬でアンチセンスオリゴヌクレオチド薬のSPINRAZA® (nusinersen)やAlnylam Pharmaceuticalsのトランスサイレチン型アミロイドーシス治療薬でsiRNA薬のOnpattro®(Patisiran)が承認されるなど注目を集めている。これらの核酸医薬品は遺伝子のスプライシングを調節したり(SPINRAZA)、遺伝子発現を抑制する(Onpattro)。

・現在開発が進行中の核酸医薬品は、アンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNA、デコイ、miRNAミミックなどがあるが、これらは内在性遺伝子の発現を調節(多くは抑制)する機能を持つ。一方で外来性に遺伝子を導入する方法としてはアデノ随伴ウイルスベクターなどを用いる治験が多く進んでいるが、安全性や製造方法、製造コストなどにまだ課題がある。

・そんな中で生体内で行われている遺伝子発現を担っているmRNAそのものを利用して、外来性に遺伝子を発現する治療薬の開発も進められている。例えば、Moderna TherapeuticsBioNTechはmRNAを投与することで、がんワクチンペプチドを発現させる創薬を開発中である。ただ、そのままのmRNAを静脈内に投与してもすぐに血中で分解されてしまうため、分解されにくいような修飾核酸を用いたり、リポソームに封入したりしている。

・今回紹介するTranslate BioもmRNAを用いた創薬を開発しているベンチャーである。Translate Bioは、mRNA therapeutic (MRT™)プラットフォームと名付けられた独自技術を持つ。これは、脂質ナノ粒子(LNP)に封入されたmRNAであり、LNPは脂質の構成や、膜表面の電荷、粒子のサイズを最適化している。mRNAの配列は発現効率が上昇するように改変されている。発現させるたんぱく質としては、生体内たんぱく質以外にも、治療抗体やワクチンも可能である。これらの技術を用いて、呼吸器疾患や肝臓疾患、眼疾患や中枢神経疾患、がんなど幅広い疾患領域での治療薬開発を目指している。

パイプライン:

MRT5005

嚢胞性線維症の原因遺伝子であるcystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR)のmRNAを封入したLNP。吸入投与。CFTR遺伝子変異の嚢胞性線維症患者さんではDeltaF508以外にも場所が異なる変異が知られているが、どの遺伝子変異にも適応可能である。FDAよりオーファンドラッグ指定されている。

開発中の適応症

・Phase I/II

嚢胞性線維症

呼吸器疾患(詳細未開示)

原発性線毛機能不全(PCD)肺動脈性肺高血圧症(PAH)特発性肺線維症(IPF)に対する治療薬(吸入投与)について非臨床研究段階にある。

感染症(詳細未開示)

Sanofi Pasteurとの共同研究プログラムとして、5つの感染症へのmRNAワクチンを開発中である。

コメント:

・プラスミドベクターやウイルスベクターを用いたDNAによる遺伝子発現は、発現させるためにDNAが核内に入る必要があるのに比べて、mRNAは細胞質に入れば遺伝子発現できる。そのため、DNAによる遺伝子発現は細胞ごとに発現効率にバラつきが見られる場合がある一方、mRNAによる遺伝子発現は細胞ごとの発現効率のバラつきが起こりにくいという報告がある。

・mRNAは安定性に問題があるので、修飾核酸を使うかLNPなどに封入する必要がある。Translation BioではLNPを用いている。LNPは静脈内投与すると肝臓などの特定の臓器に指向性があるため、適応できる疾患が限定される。肺への投与の場合は吸入、眼へは硝子体内投与、脳へは髄腔内投与という形で投与経路を変えることで適応疾患を拡張するやり方があるが、侵襲性に課題がある投与法もある。

キーワード:

・核酸医薬品(mRNA)

・脂質ナノ粒子

・嚢胞性線維症

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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