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Homology Medicines (Bedford, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第132回)ー


ヒト造血幹細胞から単離された独自のAAVベクターであるAAVHSCを用いて、遺伝子治療や遺伝子編集を行うことで単一遺伝子変異疾患の治療を目指すバイオベンチャー

背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療の開発が進んでいる。Spark Therapeutics/Rocheのレーバー先天黒内障治療薬LUXTURNA™ (voretigene neparvovec-rzyl)や、AveXis/Novartisが開発した脊髄性筋萎縮症治療薬Zolgensma® (onasemnogene abeparvovec-xioi)は、それぞれ、2017年、2019年にFDAから承認された。

・AAVベクターを用いたCRISPR/Casシステムによるゲノム編集も始まっている。Editas Medicineはレーバー先天黒内障10型(LCA10)を適応としたヒト眼内でのゲノム編集のPhase I/II治験をスタートさせた(参考)。Sangamo Therapeuticsは、CRISPR/Casシステムとは異なる、ジンクフィンガーヌクレアーゼとAAVベクターを用いたゲノム編集の臨床応用を進めている。

・AAVベクターによって導入された遺伝子はゲノムに挿入されないため安全性が高いことが想定されるが、一方で、神経細胞などの非増殖細胞や増殖の遅い細胞をターゲットとした遺伝子治療に限られる。そこで、LogicBio Therapeuticsは、AAVベクターを増殖細胞の遺伝子治療に用いるために、GeneRideという方法を開発している。これは、導入する外来遺伝子の両端に、遺伝子を挿入したいゲノム領域と相同領域を導入する(5’相同アームと3’相同アーム)。この時、挿入するゲノム領域を、内在性遺伝子の末尾とつなぎ合わせることで、mRNAレベルでは内在性遺伝子と外来性遺伝子がつながった状態で転写される(イラストはこちらのページに)。

・現在臨床応用が進められているAAVはヒトもしくは非ヒト霊長類から単離されたAAVである。つまりAAVは通常環境中に広く存在していて、病原性がないことから感染しても気がつくことがない。そのため、生きていく中で気が付かないうちに感染し抗体(AAV中和抗体)を保持している可能性があり、健常な成人の半数以上が保持しているとも言われている。そのため、中和抗体を保持している人にAAVベクターを投与すると、免疫で除去されて効果が発揮できないという問題がある。そこで、AAVの殻(カプシド)部分に変異を入れることで中和抗体に反応しないAAVベクターを開発しているのがStrideBioなどである。

・今回紹介するHomology Medicinesは、共同創業者の一人である米Beckman Research Institute City of Hope National Medical CenterのDr. Saswati Chatterjeeらによってヒト造血幹細胞から単離された、アデノ随伴ウイルスベクターAAVHSCを用いた遺伝子治療を開発している。AAVHSCは静脈内投与で肝臓、中枢神経系、筋肉などに遺伝子を送達できる。また、AAVHSCは中和抗体を持つヒトが少ないため、多くの患者さんへの適応が可能(約80%のヒトで中和抗体陰性とのデータ)。非臨床研究においては、AAVHSCは、AAV2, AAV7, AAV8よりも高い遺伝子発現効率が見られるとのこと。

・独自のAAVベクターAAVHSCを用いて、以下の2つの技術を開発している。

①遺伝子編集

相同組換え技術を用いて、変異を持つ遺伝子を正常遺伝子に組み換えるアプローチ。CRISPR/Casなどのゲノム編集技術と違いヌクレアーゼを用いない(ゲノムを切断しない)ため、安全性が高いことが期待される。AAVを用いてゲノムへの挿入、書き換えが可能なため、CD34陽性造血幹細胞や、小児期の肝臓細胞などの増殖が早い細胞への遺伝子治療ができる。

②遺伝子治療

ゲノムへ挿入させることなく、遺伝子をプロモーター特異的に発現するアプローチ。神経細胞や、成人の肝臓細胞などの増殖が遅い細胞、もしくは非増殖細胞への遺伝子治療ができる。

パイプライン:

HMI-102

フェニルケトン尿症において変異が見られるPAH遺伝子(フェニルアラニン水酸化酵素をコードする)の正常遺伝子を発現するAAVHSC15ベクター。1回のみの静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase I/II

HMI-103

フェニルケトン尿症において変異が見られるPAH遺伝子の遺伝子変異を、相同組換えによって置き換えるAAVHSCベクター。1回のみの静脈内投与。小児期の肝臓細胞は増殖が早いため遺伝子編集のアプローチで行う。

開発中の適応症

・IND申請段階

小児期のフェニルケトン尿症

HMI-202

ライソゾーム病の一つである異染性白質ジストロフィーにおいて変異が見られるARSA遺伝子(アリルスルファターゼAをコードする)の正常遺伝子を発現するAAVHSCベクター。1回のみの静脈内投与。障害を受けるミエリン発現細胞(オリゴデンドロサイトやシュワン細胞)をターゲットとした遺伝子治療。

開発中の適応症

・IND申請段階

最近のニュース:

Homology Medicinesが持つ遺伝子編集技術(AAVHSCを用いた相同組換えによる遺伝子編集)を用いた眼疾患・異常ヘモグロビン症への治療法の共同研究開発契約をNovartisと締結。

コメント:

・AAVHSCベクターはおよそ80%にヒトが中和抗体を保たないというデータがあるが、AAV9も同様とのことで、中和抗体の反応性は低いのかもしれないが、他のセロタイプとの差別化があるのかは、はっきりしない。静脈内投与で中枢神経系に遺伝子を送達できるので、AAV9に比べて遺伝子発現効率がどうなのかが気になる。

・相同組換えは組み換える遺伝子の両端に、挿入する遺伝子との相同配列が一定の長さ必要だが、AAVは4.7kb程度までしかパッケージングできない。自ずと対象に出来る遺伝子サイズは限られてくるので、大きな遺伝子変異を持つ場合は対象にできないだろう。

・LogicBio TherapeuticsのGeneRideも相同組換えによる治療法だが、相同組換えの組換え効率は十分なのだろうか?治療に十分な効率があるとのことだが、少しの組換え効率でも治療効果が見える可能性のある疾患からスタートしていくのだろう。

キーワード:

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)

・独自AAVベクター

・相同組換え

・代謝異常疾患(ライソゾーム病など)

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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