Rubius Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第131回)ー
- Ken Yoshida
- 2019年9月21日
- 読了時間: 5分
他家移植でも免疫反応が起こらない赤血球細胞に、治療遺伝子を導入して移植する細胞療法を開発しているバイオベンチャー
ホームページ:https://www.rubiustx.com/
背景とテクノロジー:
・生きた細胞を用いた細胞療法の開発が進んでいる。承認されている中でも最も驚きだったものの一つはCAR-T細胞療法だろう(詳細)。FDAに承認されているCAR-T細胞療法Kymriah、Yescartaは既存の治療法に対して抵抗性を持つB細胞性白血病・リンパ腫に対して高い効果を持つ。
・細胞療法としては、臨床研究/治験中のものとしてiPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植(網膜色素変性症)や、ドパミン前駆細胞移植(パーキンソン病)などもある。またES細胞由来オリゴデンドロサイト前駆細胞移植による脊髄損傷治療法も現在Phase III治験中である(Asterias Biotherapeutics参考(現在はLineage Cell Therapeutics))。
・細胞治療の課題の一つに自家移植・他家移植がある。現在承認されているCAR-T療法は患者さん自身から採取したT細胞に改変を加えて戻す自家細胞移植だが、この方法は安全性が高いもののコストが非常に高く、治療に時間がかかる。一方で他家移植の場合は、大量生産可能で、ストックしておくことができるため、コストを下げ、早く治療できるというメリットがあるが、他人の細胞を移植するために免疫の問題がある。
・CAR-T細胞以外の細胞の移植においても、同様の課題がある。そのため、他家移植は眼、脳などの免疫特権部位へ直接投与する臨床応用が先行しているが、その他の臓器の疾患へ適応するためにも他家移植を可能とする技術の確立が求められている。
・他家CAR-T細胞による移植片対宿主病(GVHD)を抑える技術を開発しているのがAdicet Bioや、Allogene Therapeutics、Cellectisである。また他家移植細胞の拒絶反応を抑える技術を開発しているのが
Universal Cells(現アステラス製薬)である。
・今回紹介するRubius Therapeuticsは遺伝子改変した赤血球細胞を移植することにより、希少疾患やがん、自己免疫疾患を治療する独自技術Red Cell Therapeuticsを開発しているバイオベンチャー。世の中で輸血が広く持ちいられているように、赤血球細胞はHLAを発現していないため他家移植が可能であり、この利点を活かした治療法である。以下の3つの技術がある。
①酵素補充
酵素の機能が欠損している希少疾患の患者さんに酵素を発現する赤血球細胞を移植する。
②免疫制御
a. T細胞やNK細胞を活性化する分子を赤血球細胞の細胞膜表面に発現させて移植する方法
b. がん抗原とMHCクラスI分子を細胞膜表面に共発現する赤血球細胞を移植する方法
③抗原提示
自己免疫疾患の原因となっている抗原を細胞膜表面に発現する赤血球細胞を移植する方法。免疫寛容を促すことが期待される。
・どの血液型の人にも輸血できるRh(-)かつO型の健常人から採取したCD34陽性細胞にレンチウイルスベクター(もしくは遺伝子カセット)を用いて遺伝子導入し、拡大培養した後、赤血球細胞(網赤血球)に分化させる。この赤血球細胞を患者さんに静脈内投与する治療法である。
パイプライン:
・RTX-134
フェニルアラニン代謝酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼを発現する赤血球細胞。神経毒性を持つアミノ酸であるフェニルアラニンをトランス桂皮酸とアンモニアに分解する作用。
開発中の適応症
・IND申請済み
・RTX-Uricase
ウリカーゼ(尿酸オキシダーゼ)と尿酸トランスポーターを発現する赤血球細胞。尿酸を細胞内に取り込む機能を調節することで、血中の尿酸を下げる作用。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
慢性難治性痛風
・RTX-CBS
シスタチオニンβ合成酵素(CBS;ホモシステイン代謝酵素)を発現する赤血球細胞。血漿中のホモシステインを下げる作用。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
・RTX-240
4-1BBLとIL-15TP(IL-15とIL-15受容体alphaの融合タンパク質)を細胞膜表面に発現する赤血球細胞。抗がん活性の改善を期待。免疫療法に抵抗性を示す固形がん患者さんへの適応を想定。
開発中の適応症
・IND申請段階
抗PD1抗体抵抗性/難治性固形がん
・非臨床研究段階
造血幹細胞移植後の抵抗性/難治性の急性リンパ性白血病
・RTX-224
4-1BBLとIL-12を細胞膜表面に発現する赤血球細胞。自然免疫、獲得免疫の活性化を促す。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
抗PD1抗体抵抗性/難治性固形がん
・RTX-321 (HPV+)
MHCクラスIとヒトパピローマウイルス抗原を細胞膜表面に発現する赤血球細胞。T細胞と抗原提示細胞の相互作用をミミックする作用。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
ヒトパピローマウイルス陽性の固形がん
コメント:
・輸血用の赤血球細胞は採血後、2℃〜6℃で21日間しか保管できない(参考)が、RubiusのRed Cell Therapeuticsはどの程度保存が可能なのだろうか。RhマイナスのO型の健常人の血液に限定されているため、ドナーの安定供給に心配はないのだろうか。
・細胞療法では、移植した細胞ががん化するリスクを検証しなければいけないが、赤血球細胞に分化させた後で投与するため、すでに核がない赤血球細胞ががん化することはないだろうと考えられる。安全性の観点からここは大きな利点になると思われる。ただ、未分化細胞が残存しているとリスクは残るが、赤血球細胞と未分化細胞を分ける技術は確立されているのだろうか?(専門家じゃないので分かりません)
・遺伝子導入にレンチウイルスベクターを用いている場合、組換え遺伝子のゲノムへの挿入が起こるが、これも赤血球細胞になる時の脱核で除かれるので投与される細胞には残存はないだろうが、レンチウイルスベクター自体が残存する可能性はないのだろうか?拡大培養を繰り返せば取り除けるだろうが、果たして取り除けるほど何回もCD34陽性細胞(造血幹細胞)を継代できるのだろうか。
・自己免疫疾患への適応のプログラムはまだ詳細が公開されていないのでパイプラインの欄に記載していないが、I型糖尿病と 尋常性天疱瘡(デスモグレイン3に対する自己免疫性水疱症)のプログラムを進めている。
・恥ずかしい話だが、なぜ輸血では他家移植が可能なのか知らなかった(考えたこともなかった)のだが、赤血球細胞はHLAを発現していないそうだ。その代わりにABO型の糖鎖を発現している。
キーワード:
・遺伝子導入された赤血球細胞移植
・他家移植
・希少疾患
・がん
・自己免疫疾患
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。