シングルクローン化した細菌をカプセル化し経口投与する治療法で、炎症性疾患やがん治療の開発を行っている腸内細菌のバイオベンチャー
ホームページ:https://evelobio.com/
背景とテクノロジー:
・ヒトの消化管には数百種類の共生細菌(腸内細菌)がいると言われ、その多くは宿主(ヒト)に有益であると考えられている。腸内細菌は宿主の免疫系の調節に重要な役割を担っているとされる。実際、小腸の腸管免疫には免疫細胞の60%がいると言われている。ここで腸内細菌と宿主の免疫細胞はコミュニケーションをとっている。
・最近、この腸内細菌による免疫制御システムを用いて、炎症治療やがん免疫療法への応用が試みられている。例えば、Vedanta Biosciencesは、制御性T細胞を腸管免疫に誘導する、17種類の細菌群をカクテルにした経口製剤VE202を開発中で現在炎症性腸疾患を適応にPhase I治験を行っている。
・Symbiotix Biotherapiesは、腸内細菌の莢膜に存在するpolysaccharide Aが宿主中の制御性T細胞を分化誘導するメカニズムを用いて、炎症性腸疾患や多発性硬化症などの自己免疫疾患治療への応用を検討している。
・今回紹介するEvelo Biosciencesは、クローン化された細菌を用いて腸内細菌叢を調節するアプローチで炎症性疾患、がんの治療法開発を行っているバイオベンチャーである。
・Evelo Biosciencesでは、腸と体の間のネットワークに着目している。腸内細菌叢が免疫細胞の機能を制御するという非臨床のエビデンスから、経口投与可能で腸内において免疫を調節する細菌を用いた治療法開発を行っている。腸に届いた細菌はマクロファージや樹状細胞によって捉えられ、リンパ節においてT細胞を調節し、調節されたT細胞が全身の免疫を司り、様々な臓器において疾患を制御するというコンセプト。
・Evelo Biosciencesの独自プラットフォームは、健常人および患者さん組織から単離した細菌ライブラリーを用いて、ヒト細胞でのin vitroアッセイ・動物モデル・in silico解析を行い、炎症疾患およびがんでの臨床効果が期待される細菌を同定する。生産および細菌のカプセル化による製剤段階までを一貫して行うことができる。
パイプライン:詳細未開示
・EDP1066
シングルクローン化した細菌のカプセル製剤。1日1回の経口投与。
開発中の適応症
・Phase I
乾癬・アトピー性皮膚炎
・EDP1815
シングルクローン化した細菌のカプセル製剤。1日1回の経口投与。
開発中の適応症
・Phase I
乾癬・アトピー性皮膚炎
・EDP1503
ビフィズス菌Bifidobacterium spp.をシングルクローン化した細菌のカプセル製剤。MHCクラスIの発現上昇、CXCL9、CXCL10の産生上昇、NK細胞の増強作用を持つとのこと。1日2回の経口投与。ペンブロリズマブ(キイトルーダ)との併用試験。
開発中の適応症
・Phase I/II
大腸がん、乳がんなどのがん
・Phase II
メラノーマ(キイトルーダとの併用試験)
最近のニュース:
がんを適応としたEDP1503のキイトルーダとの併用試験についてメルクとの共同開発契約を締結。
コメント:
・乾癬やアトピー性皮膚炎で開発中のEDP1066,EDP1815はどの細菌を使っているのか、公開されていない(はず)。
・腸内細菌はヒトによって細菌叢が大きく異なるので、細菌投与による治療効果に個人差が出そうな気がする。治療前に腸内細菌叢の検査をして患者さんを層別化し、効果が予測できるようになっていくのだろうか。
キーワード:
・腸内細菌
・シングルクローン化細菌
・炎症性疾患
・がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。