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Symbiotix Biotherapies (Boston, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第127回)ー


腸内細菌由来の分子を用いて宿主(ヒト)の免疫系を調節することにより炎症性腸疾患や多発性硬化症の治療薬創製を目指すバイオベンチャー

ホームページ:http://symbiotix-bio.com/

背景とテクノロジー:

・ヒトの体内で共生している微生物の機能に注目が集まっている。これらの共生微生物は、主に口腔、気道、腸、皮膚、膣などに存在している。このうち最近研究が進んでいて、クロストリジウム・ディフィシル感染症や炎症性腸疾患のみならず、がんや循環器疾患、自閉症、パーキンソン病などにも関与が報告されているのが腸内細菌である。

・例えば、ENTEROME Bioscienceはクローン病を引き起こす病原性腸内細菌の腸管組織内への侵入を抑制するFimH阻害剤EB8018を開発している。Vedanta Biosciencesも腸内細菌に着目したバイオベンチャーだが、単一の細菌を移植する方法や、健常人の糞便由来の腸内細菌を移植する方法とは異なり、有用と考えられる細菌を複数種ミックスし、生きた状態でパウダー化した経口投与可能な製剤を用いた治療法を開発している。

・今回紹介するSymbiotix Biotherapiesは、腸内細菌によるヒトへの有用な作用に着目して、自己免疫疾患やがんを治療しようとしているバイオベンチャーである。免疫細胞の70-80%が腸にあるというデータがある。炎症性腸疾患のような疾患では腸での炎症が関与している。そのため、腸内細菌と免疫細胞の相互作用に着目した研究が報告されている。

パイプライン:

SYMB-104(Reglemers™)

腸内細菌の一つであるBacterioides fragilisの莢膜(きょうまく)に存在する双性イオンのpolysaccharide A(PSA)(陽イオンチャージと陰イオンチャージの両方を持つ糖類)。 Symbiotix BiotherapiesではReglemers™と名付けられた。B. fragilisのPSAが樹状細胞(抗原提示細胞)に取り込まれ、MHCクラスIIとともに抗原提示されると、これを受け取ったナイーブT細胞が制御性T細胞に分化誘導されることで免疫が抑制される(詳細)。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

炎症性腸疾患、多発性硬化症、大腸がん、術後癒着、がんへのチェックポイント阻害薬との併用療法など

SYMB-202

詳細不明。外膜の小胞?制御性T細胞を刺激する。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

炎症性腸疾患

コメント:

・腸内細菌そのものを投与する治療法や、腸内細菌叢の悪化改善のアプローチは数多く行われている。Symbiotix Biotherapiesが取り組むのはそれとは異なり、腸内細菌がヒトの免疫系に及ぼす役割を制御するアプローチ。腸内細菌叢そのものを変えることはなかなか難しいというデータもあり、こういった異なるアプローチがどれほどの効果を持つのか、興味深い。

・制御性T細胞への分化誘導を促進するというメカニズムなら、競争が激しい炎症性腸疾患や多発性硬化症以外の自己免疫疾患への適応拡大も可能なのでは?

・専門外でよく知らないのだが、細菌由来の多糖類(SYMB-104)はどのように製造するのだろうか?合成不可能でもし細菌そのものから抽出するのであれば、不純物が混じると免疫原性になってしまう可能性もあり、なかなか難しそう。製造に関してParagon Bioservicesという会社と共同で行うようだ(参考)。

・詳しくは書かれていないが、SYMB-104はおそらく経口投与されるのだろうが、どのように製剤化されるのだろうか?

・腸内細菌叢の中にはがん免疫を高める細菌が存在するという報告があり、腸内細菌と宿主の免疫調節の関係を明らかに出来れば、がんを含めた多くの疾患治療に貢献できるかもしれない。

キーワード:

・腸内細菌由来多糖類

・制御性T細胞

・炎症性腸疾患

・多発性硬化症

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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