Genocea (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第125回)ー
- Ken Yoshida
- 2019年8月10日
- 読了時間: 5分
患者さん自身の抗原提示細胞を用いて独自のウェットの手法でネオアンチゲンを同定する独自プラットフォームATLAS™を持つバイオベンチャー
ホームページ:https://www.genocea.com/
背景とテクノロジー:
・ニボルマブ(オプジーボ)などの免疫チェックポイント阻害薬が、がんの治療薬として有効であることが示されて以降、新たながん免疫療法の開発が進んでいる。それは新規の免疫チェックポイント阻害薬やキメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞療法(KymriahやYescarta)が中心となっている。
・免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T療法以外にも注目されているがん免疫療法の一つにネオアンチゲン療法がある。これは、がん細胞のみにおいて起こった新規のゲノム変異から転写翻訳されたたんぱく質の断片(ネオアンチゲン)を、患者さん自身のT細胞に認識させる方法(ネオアンチゲンのワクチン療法)や、ネオアンチゲンを認識するT細胞受容体を発現するT細胞を単離し移植するネオアンチゲンのT細胞療法などがある(参考:Neon Therapeutics)。
・このネオアンチゲン療法のキーの一つになるのが、ネオアンチゲンを同定する方法である。以下が他社のネオアンチゲン同定法:
RECONと名付けられたバイオインフォマティクスのプラットフォームを用いている。これは患者さんの正常細胞のゲノムDNAとがん細胞のゲノムDNA配列情報、がん細胞のRNA配列情報、MHCアレルの特性などの情報からディープラーニングを用いて、がんでの変異の同定、ネオアンチゲンの予測、そのネオアンチゲンの中で最も治療効果が高い候補の予測を行う。
ヒトのがんデータ(正常細胞、がん細胞のエクソーム解析、がん細胞のトランスクリプトーム解析)によってトレーニングされたEDGEというAIモデルを用いてネオアンチゲンを予測する。
・Genoceaではネオアンチゲンの予測・同定をウェットのin vitro実験を用いて行う技術ATLAS™テクノロジープラットフォームを開発している。これは患者さん自身の抗原提示細胞を単離し、これにATLASインプットと名付けられた、ネオアンチゲン全候補を含む大腸菌を貪食(ファゴサイトーシス)させる。この大腸菌にはリステリオリシンO(LLO)というリステリア症の病原菌リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の産生する溶血素が発現するよう改変されており、貪食された大腸菌はファゴソームに運ばれるが、LLOの作用によりファゴソームに穴が開き、それにより大腸菌内のネオアンチゲンが抗原提示細胞の細胞質に運ばれる。ここでMHCクラスIと結合したネオアンチゲンは抗原提示細胞の細胞膜上に提示される。このネオアンチゲンが抗原提示された抗原提示細胞と患者さん自身のT細胞をミックスし、T細胞が反応しサイトカインが放出されるかどうかを検出することで、ネオアンチゲン候補の中からネオアンチゲンを同定する。
パイプライン:
・GEN-009
上記ATLAS™プラットフォームを用いて患者さん一人ひとりのネオアンチゲンを同定し、合成した個別化ネオアンチゲン(ペプチド)をアジュバントであるPoly-ICLCとともに患者さんに投与する、がんワクチン療法。
開発中の適応症
・Phase I/IIa
・GEN-011
上記ATLAS™プラットフォームを用いて患者さん一人ひとりのネオアンチゲンを同定し、このネオアンチゲンによって活性化される患者さん自身のT細胞を単離する。このT細胞を体外で増殖させ、患者さんに戻す自家T細胞療法。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
がん(詳細未開示)
・GEN-010
第2世代がんワクチン療法。詳細は未開示。
最近のニュース:
ATLAS™テクノロジープラットフォームを用いて同定されたネオアンチゲンを標的とする腫瘍浸潤リンパ球を用いた新規細胞治療法の共同研究契約をIovance Biotherapeuticsと締結
Checkmate Pharmaceuticalsが行っているCMP-001のPhase 1b治験でエンロールされている患者さんのT細胞反応性をATLAS™テクノロジープラットフォームを用いて解析する共同研究契約を締結
コメント:
・ネオアンチゲンをウェット実験で、患者さんの細胞を用いて同定するという独自プラットフォームは、同定されたネオアンチゲンの確度がドライ実験より高い可能性が高い。プラットフォーム次第ではあるが、患者さんによってはネオアンチゲンが見つからなかったり、フォールスネガティブで落としてしまう可能性もあるかもしれない。
・GEN-011は患者さん自身が持つネオアンチゲン反応性T細胞を単離して増殖し移植という方法なので、移植細胞は改変のない患者さん自身の細胞であり、安全性は非常に高い可能性が高い。一方で、ネオアンチゲンに反応するT細胞が見つからない可能性が結構あるんじゃないだろうか?
・患者さん自身の抗原提示細胞を使ってネオアンチゲンを同定するため、非常にコストと時間がかかりそう。GEN-011はさらにT細胞も単離するため、一人の患者さんから2種類の細胞を抽出するのは、どの程度のコストになるのだろうか?
キーワード:
・ネオアンチゲン
・個別化医療(テーラーメイド医療)
・がんワクチン
・細胞治療
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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